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【書評】男女の寂寥を見つめ続けたホテル~『ホテルローヤル』(桜木紫乃)

桜木紫乃さんは前から読んでみたいと思っていた作家さんです。今回映画化されたのをきっかけにして読んでみました。『ホテルローヤル』

※書評一覧の目次はこちら

1、内容・あらすじ

北海道の東、釧路の湿原を背にするラブホテル、「ホテルローヤル」。

決して繁盛しているとはいえない街外れにあるこのホテルに、それぞれの事情を抱えた男女が訪れます。

恋人から投稿ヌード写真の撮影に誘われた女性事務員。貧乏寺の維持のために檀家たちと肌を重ねる住職の妻。アダルト玩具会社の社員とホテル経営者の娘。子育てと親の介護に追われる夫婦。行き場を失った女子高生と妻に裏切られた高校教師……。

彼らの諦念や倦怠を「ホテルローヤル」は見つめ続けます。

2、私の感想

ラブホテルが舞台ですが、生々しくもいやらしくもありません。寂しく、悲しく、優しく、切ない小説です。「寂寥」という単語が頭に浮かびます。

人生の一瞬の寂寥を見事に切り取って物語に昇華させています。

同じ体験をしていなくてもその寂寥感に「なんだかわかるなあ」と共感してしまいます。

人間生きていれば誰しも後ろめたいことの一つや二つはあるもので、自分のそういう体験を思わず想起してしまうような小説です。

「ホテルローヤル」の現在を出発点として、時間を遡る形で7つの短編が収められています。最終話がホテルローヤルの始まりです。

こういう形の短編集はなかなかないのではないでしょうか。

読み終わった後、もう一度最初から読んでみたくなるような不思議な魅力がある小説です。

私が最も印象的だったのは、とある男女が心中した理由が後になってわかったところです。何ともいえない切ない気持ちになりました。

映画の予告編を見ましたが、原作を壊すことなく、むしろ原作では描かれなかった部分を補足しているようです。観たくなりました。

3、こんな人にオススメ

・釧路に住んでいる人
私も何度か行ったことがありますが、あの街の雰囲気がとてもよく描かれています。

・映画『ホテルローヤル』を観た人
理解がより深まると思います。小説と映画が補完し合う作品だと思います。

・波瑠さんのファン
作品のイメージにぴったりで驚きました。

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