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【書評】限りある命を必死に生きる~『崩れる脳を抱きしめて』(知念実希人)

知念実希人さんといえば、現役の医師にして小説家、医療ミステリーの名手として名高い方です。この本は勤務校の図書室にあって、ずっと気になっていた本でした。完成度の高い小説でした。

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1、内容・あらすじ

広島の病院で研修医をしている碓氷蒼馬。上司の指示で、ホスピスも兼ねているという神奈川の「葉山の岬病院」で一ヶ月間の研修をすることになります。

そこで脳腫瘍を患う女性・弓狩環(ゆがりたまき)と出会います。彼女の脳腫瘍はいつ「爆発」するかわからない、時限爆弾のようなものでした。

年齢が近い二人は、多くの時間を共にするようになります。距離を縮めるにつれてお互いが抱えていた心の傷を打ち明け合い、次第に心を通わせていきます。

そんな二人の時間にも終わりが訪れます。蒼馬の実習期間が終了したのです。

後ろ髪を引かれる思いで広島に帰った蒼馬のもとに、彼女の死の知らせが届きます。居ても立っても居られない蒼馬は神奈川に戻りますが、彼女の死に不審な点を感じ────。

2、私の感想

先が気になって気になって、一気読みでした。ストーリーに起伏があり、全く飽きることがありません。ジェットコースターのように何回転もします。

脳腫瘍を持つ弓狩環(本人の希望で「ユカリ」と呼ぶことになりますがこれも実は……)との出会いから仲が深まるまでは完全に恋愛小説です。それも結構切ないです。

ところが後半、ユカリが死んでからはその死の真相をめぐるミステリー小説に変貌します。不可解な出来事も起こります。結末に向けて、巧妙に張り巡らされていた伏線がすべて回収されていきます。どんでん返しもあり。

そして、最後は恋愛小説に戻ってきます。お見事。

読み終わってからタイトルを見ると、思わず「おおー」という声が出ました。「限りある命をいかに生きるべきか」というテーマが表れているタイトルです。さすがは医師です。

3、こんな人にオススメ

・病気を経験したことがある人
私は知人に脳腫瘍の人がいたのでなおさらグッと来ました。

・切ない恋愛小説を読みたい人
恋人が不治の病、というある意味王道のパターンです。つらいですよね。

・読後感の良さを求める人
これは保証します。2、3回転して着地ピッタリという感じです。

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