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【書評】時代を超えて読み継がれるスペースオペラの名作『銀河英雄伝説』(田中芳樹)

もはや古典の風格さえ漂わせる不朽の名作、『銀河英雄伝説』。作者は田中芳樹さん。

多くの作家に影響を与えた作品です。「この本がきっかけで読書するようになった」という国語教師を何人か知っています。

私も高校時代、部活の遠征に持って行って読んでいたことを覚えています。

※書評の目次一覧はこちらです

全巻セットはこちら。

1、内容・あらすじ

今から約1000年後の宇宙暦8世紀。地球を飛び出した人類は、「銀河帝国」「自由惑星同盟」の二陣営に分かれて争っていました。

両勢力は150年にもわたる長い戦いを続けていましたが、若き二人の天才の出現により、その均衡が破られます。帝国軍上級大将、ラインハルト・フォン・ローエングラムと、同盟軍きっての天才用兵家、ヤン・ウェンリー

ラインハルト率いる帝国軍は、反旗を翻す同盟に向けて遠征を開始します。それを迎え撃つ同盟軍の中にはヤン・ウェンリーがいました。

アスターテ星域において両軍は激突します。それは二人が宿命のライバルとなる戦いの幕開けでした。これ以後、ラインハルトとヤンはそれぞれ自国で重要な立場に就き、幾度となく戦うことになるのでした──。

※最近、新しくアニメ化されたようです。これはそのPV。

2、私の感想

この小説は、今でいう「ライトノベル」の走りだったように思います。といっても、内容は決して軽くはなく、むしろ重厚。中国史に精通した田中さんの文体はどこか『山月記』を連想させます。

この本の魅力は、何といっても個性あふれる多彩な登場人物にあります。

最愛の親友を失いながらも野望の実現に向けて突き進むラインハルト。軍人として傑出した才能を持ちながらも戦争を否定するヤン。

この二人の主人公と、それを取り巻く魅力的なキャラクター達がこの作品を大いに盛り上げています。必ずや贔屓のキャラクターが見つかるはずです。

ちなみに私は、帝国軍軍務尚書・オーベルシュタインとその部下・フェルナーのコンビが好きです。……といったように。

全10巻と長いですが、登場人物の誰かに入れ込んだり(美形多し)、ラインハルトとヤンの対決に心を躍らせたり、楽しめる要素はいくらでも見つかるので、ちっとも長さを感じさせません。

アニメ・ゲーム・漫画などのメディアミックス展開の元祖となった小説でもあります。

少々長いですが、私が最も好きな名場面を引用します。戦争嫌いで無益な殺戮を好まないヤンが、帝国軍に「降伏がいやなら逃げるように。追撃はしない」という通信を送ってその返信が返ってきた場面です。

「帝国軍から返答がありました」  
いっぽう、イゼルローンでヤンにそう告げたのはシェーンコップだった。渋面になっている。
 「汝は武人の心を弁えず、吾、死して名誉を全うするの道を知る、生きて汚辱に塗れるの道を知らず」
 「…………」
 「このうえは全艦突入して玉砕し、もって皇帝陛下の恩顧にむくいるあるのみ──そう言っています」
 「武人の心だって?」  
にがい怒りのひびきを、フレデリカ・グリーンヒル中尉はヤンの声に感じた。実際、ヤンは怒りをおぼえていた。死をもって敗戦の罪をつぐなうというのなら、それもよかろう。だが、それならなぜ、自分ひとりで死なない。なぜ部下を強制的に道連れにするのか。  
こんな奴がいるから戦争が絶えないのだ、とさえヤンは思う。もうまっぴら だ。こんな奴らにかかわるのは。
「敵、全艦突入してきます!」  
オペレーターの声だった。
「砲手! 敵の旗艦を識別できるか。集中的にそれを狙え!」  
これほどするどい命令をヤンが発したのは初めてだった。フレデリカとシェーンコップは、それぞれの表情で司令官を見つめた。
「これが最後の砲撃だ。旗艦を失えば、残りの連中は逃げるだろう」

3、こんな人にオススメ

・歴史小説が好きな人
この作品は「架空歴史小説」などとも言われます。『三国志』が宇宙に舞台を移したかのようです。

・時間に余裕のある人
じっくり読み込むには最適の作品です。長時間の通勤電車などで毎日読むのもいいのではないでしょうか。

・美形がお好きな人
様々なタイプの美形が出てきます。何度もアニメ化されるのも、登場人物たちが映えるからでしょう。

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今回、久々に読み返してみましたが、全く古さを感じさせません。新しい発見も多々ありました。今の若い人にも知られてほしいと思います。


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