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【書評】号泣必至のホスピス小説『ライオンのおやつ』(小川糸)

末期がんの女性が、心温まるホスピスで死と向き合うお話です。これは泣けました。ボロボロ泣きました。

『ライオンのおやつ』。本屋大賞ノミネート作品。作者は『食堂かたつむり』でよく知られている小川糸さんです。

※書評の目次一覧はこちらです

1、内容・あらすじ

主人公は海野雫(うみのしずく)、という33歳の女性。

末期がん(おそらく子宮がんか卵巣がん)で余命を宣告された彼女は、残された日々を過ごすために、「ライオンの家」という、瀬戸内の島にあるホスピスにやって来ます。

ライオンの家では、毎週日曜日、入居者が生きている間にもう一度食べたい思い出のおやつをリクエストできるという「おやつの時間」がありました。

雫は、ライオンの家や島の人々とのふれあいを通して、生きること、死ぬことと向き合いながら残りの日々を精一杯過ごします。

病は徐々に進行し、身体の自由も効かなくなっていきます。

そんな中、ついに雫がリクエストした「おやつの時間」がやってきました──。

2、私の感想

私はこの設定だけでもうダメでした……。泣けました。同じ人、いると思います。泣けましたが、この小説を読むと、死ぬことが怖くなくなります。

この小説の最大のポイントは、登場人物たちが語る「死生観」です。

主人公の雫や、ホスピスを主宰する老婦人「マドンナ」や、おやつを作ってくれるシマさんなど、悟った人間だけが持ち得る「死生観」を語ってくれます。

これらの一言ひとことが実に心に染み入るのです。そして、気づきを与えてくれます。

「生まれることと亡くなることは、ある意味で背中合わせですからね」  いったん足を止め、マドンナは言った。「どっち側からドアを開けるかの違いだけです」
「私もさ、いっつもここで料理作ってると思うんだ。生かされているんだなぁ、って。だって、生まれるのも死ぬのも、自分では決められないもの。だから、死ぬまでは生きるしかないんだよ」
なるようにしか、ならない。百ちゃんの人生も、私の人生も。 そのことをただただ体全部で受け入れて命が尽きるその瞬間まで精一杯生きることが、人生を全うするということなのだろう。

物語終盤で「マドンナ」が語る「ろうそくと人生」の話は本当に良かったです。ほとんど聖者レベルのお話でした。読んだ方は確かめてみてください。

「余命」と言いますが、長いか短いかの違いだけで、限りある時間だということはみな同じです。

貴重な「限りある生」をいかに悔いなく生き切るか。それを再認識させてくれた本でした。

私も残り時間がわずかになったらここに行きたいです。

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3、こんな人にオススメ

・がん患者とその家族
がんになった人だけがわかる心の動きが、この小説には書いてあります。

・がん以外で闘病中の方とその家族
病気の人に寄り添ってくれるような、優しい小説です。

・医療従事職希望者
これから医療に携わる人はぜひ読むといいです。患者の葛藤がよくわかります。

これを書いている今、私の部屋からは青空が見えています。この穏やかな光景を見られることを当たり前と思わず、人生を味わい尽くしたいです。

小川糸さんの代表作、『食堂かたつむり』も貼っておきます。これも泣けるいいお話。ぬか床の漬物が美味しそうでした。


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