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モンゴルと着物旅日記③~民族衣装デールの今昔~

「今日は体育の授業がなかったのに、なんで体操服着せたのよっ!もう!!」

昨晩泊まったボドローさんの家で身支度をしていたら、幼稚園が終わった娘ちゃんとお迎えに行ったボドローさんが家に戻ってきた。どうやら日課表を1日間違えたらしく、体操服登校では無い日なのに娘ちゃんはクラスで1人だけ体操服で過ごしてしまい、不本意な注目を集めてしまったため大層ご立腹であった。その様子を微笑ましく見ていたら「なんで笑うのよっ!」と、乙女な娘ちゃんから咎められた(笑)

「今日はね、お昼からアリウカ(私のこと)と一緒にお出かけするのよ」とお昼ご飯の支度をしながら、娘ちゃんに話しかける。

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そうなのだ。今日は午後から民族衣装デールの市場調査に行くのである。日本の着物をモンゴルの民族衣装デールに仕立て直すという事業の可能性があるかどうか、見に行くのだ。

モンゴルの民族衣装デールの市場調査に行くことになった経緯
モンゴルと着物旅日記①~突然の渡航先変更~

私が2年間住んでいた10年前の2010年頃、ウランバートルでデールを作ってもらおうとした時は、街中の仕立て屋のいくつかを巡り、生地の種類やサイズなどの相談をしてから仕立ててもらった記憶がある。既製品は少なく、採寸してから仕立てるという流れが主流であった。伝統的な色柄を扱う店舗が多く、現代風の奇をてらったデザインや、一見地味に見えるシックなものは嫌厭されていた。デパートでデールが売られている店舗はあまり見かけなかったし、デパート自体がほとんどなかった。

2020年の今回、ボドローさんに案内してもらいながら娘ちゃんと3人でいくつかのデパートのデール売り場と仕立て屋を巡った。多くの店舗が新年用のデールを扱っていて、すべて既製品である。そのデザインは華やかなものが多く、キラキラ感が半端ない。時々、モード系のシックなものも見かけた。

昔の、奇をてらったデザインやシックなものは避けるという風潮は無くなっているように感じた。それはそれで、着物のデザインを民族衣装として仕立てるのに受け入れられやすいから、良い時代になったと前向きに捉えて、歩を進める。

いくつかの店舗を回って違和感を覚える。デールって、こんな形だったっけ?と。

私が10年前に仕立ててもらったデールは、平面的な裁断で、袖と身頃を分けずに裁断し、前後を縫い合わせるというものだった。例えば大きな布の上に寝そべって、腕を斜め45度に置き、その形をそのまま布に写して切り抜き、前と後ろを縫い合わせる、という手法で作られているものが主流だった。

しかし、今回デパートや仕立て屋で見かけたデールの形は洋服の仕立てに近い、より立体的なものだった。身頃と袖の型紙が別々に分けられていて、肩の部分にカーブを付けて、より身体の形に近くなるように縫い合わせたものがほとんどだった。中国の内モンゴル自治区のデールがこの形で、それによく似たものに変化していた。

モンゴルと着物旅日記(3)-02

そう思ってぶらりと催事スペースを通り抜けようとしたら、どこかで見たことあるような柄の服に目が留まる。よくよく見てみると、日本の着物の帯を利用してハンターズ(デールの上に羽織るモンゴル風ベスト)を仕立てたものであった。やっぱり帯のデザインはカッコいい!これいいわぁ~と、市場調査という仕事も忘れるほどはしゃいでいたら、店員さんが「買ったら?」と勧めてきたので値段を見てみると、日本円にして2万円ほどだった。

また、別の仕立て屋には、所せましと韓国やベトナムからの輸入生地が並べられた部屋の一角に、アンティーク着物の反物を扱っているところもあった。こちらの反物は一本、1万円ほどする。10年前に比べると、経済成長が著しく、物価も高騰しているモンゴルなのである。

モンゴルと着物旅日記(3)-03

すべてのものが思ったよりもずっと高くなっていることと、事業を軌道に乗せるまでは、高価な服に全く手が出せない自分にがっかりしながらデパートを出ようとしたら、ボドローさんの娘ちゃんがいなくなった。迷子になってしまったのだ。

売り場をくまなく探し回るも、見つからない。おもちゃ売り場とかあったっけ?と、モンゴルのデパートの売り場の配置なぞ分からないし、彼女が何に興味があるのか見当もつかない。そこにおされなカフェが目にとまる。かつては素朴な生活が出来ていたモンゴルにも近代化の波が押し寄せていて、西洋の習慣文化が普通に取り込まれつつあるのだな、と思いながら通り過ぎようとしたところに、店の奥のショーケースに張り付いて微動だにしない子供と、それを困ったように見る店員さんが視界に入ってきた。

娘ちゃんがいた!

コーヒーを入れたり、華やかなケーキがあることが珍しかったようで、じっと見ている。

「さぁ、夕ごはん食べるからここを出ましょう」と言って、ショーケースに張り付いた娘ちゃんを引っ張ってデパートを後にした。

この日一日、店舗に並べられているたくさんのデールを見てきたが、行き交う人々の中で普段着として民族衣装のデールを着ている人はどれくらいいただろうか?とふと思う。ほとんど見かけなかった、いや、1人も見かけなかった(お坊さんを除く)。10年前は街中でよく見かけたのに。もしかしたらモンゴルでも、日常的に民族衣装を着る習慣が廃れていっているのかもしれない。

こんな時代の中で、着物からデールに仕立て直したいという人は果たしているのだろうか?

デパートの階上の近代的なフードコートでそんなことを考えながら、初めての日本食のラーメンを不思議そうに食べる娘ちゃんを見て思う。この子が大きくなっても、気軽に民族衣装のデールも着物も着られる時代であり続けたらいいのに・・・

そしてボドローさんに再度お頼みする。「昨晩渡した着物を、解いて洗ってデールに仕立て直してみて欲しい。どんなものが仕上がるか、とても気になる」と伝えると彼女も「それが楽しみなのよ」と快い返事をもらった。

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👘モンゴルときもの旅日記⑤~モンゴルで『月刊岩ときもの』*遊牧民のお宅で着物の着付けをやってみた(2)~
👘モンゴルときもの旅日記⑥~モンゴルで『月刊岩ときもの』*遊牧民のお宅で着物の着付けをやってみた(3)~
👘モンゴルときもの旅日記⑦~モンゴルで『月刊 岩ときもの』*遊牧民のお宅で着物の着付けをやってみた(4)~

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