コルマール_day24_ヨーロッパ建築旅行2018
181202_fr_day24
昨日はロンシャンからバーゼルに戻ってきた後、一昨日のはずした夕飯の分を挽回すべく、美味しい夕飯を求めて勘を頼りに街をうろつく。
バーゼルの駅前からなんとなく人が流れていく方向へついていって、街の雰囲気が良さそうな方向にどんどん突き進むという感じ。なんだか餌を探す動物のようで楽しい。思考以前の部分を使って歩く。
そのうちに賑やかな通りに行き当たる。よく観察してお店を探す。
というのも、怖いのはスイス物価で、なるべくカジュアルな感じでありつつ、加えてチェーンでなく、健康的で、かつバナ飯(私の友人界隈ではご当地料理を「バナキュラー飯」略して「バナ飯」と呼んでいる)という条件をクリアするため。
そうして観察していると、混んでいるビュッフェタイプのお店を発見する。お店の雰囲気も良いし、混んでいる≒美味しい、ビュッフェ=そこまで高くないと判断して入ってみる。
結果からいうと、とても美味しかった。どうやらヴィーガン料理(この呼称が正確かわからないが)のお店だったようで、日本ではあまり食べられなさそうな野菜もあってそれも楽しめた。
夕飯がうまくいくと一日がとても良い日に思える。
前日の夕飯の話が大分長くなってしまったがこの日は、いろいろと動き回る一日だ。
午前中にバーゼル近郊の建築をチラ見し、午後からまたもフランスへ国境を越えてコルマールという街に行く。目的の建築はH&deM設計のウンターリンデン美術館だ。そのあと再びスイスに戻り、バーゼル経由で一気にスイスの東側にあるクールまで電車で移動しようという算段だ。
この日も相変わらずしとしとと雨が降っている。
ホステルをチェックアウトして、まずは腹ごしらえと作戦を練るために、朝からマックに行くことにした。ラクレットバーガーなるスイス限定のバーガーを頬張る。
今日の大目的は、ウンターリンデン美術館なので、バーゼルを見て回ることができる時間は午後一の電車までだ。正直あまり時間もないのでトラムを乗り継いでいける範囲を見て回ることにした。
どれもあまり時間をかけられなかったが、メルクリのピカソハウス、マリオボッタのティンゲリー美術館などを見る。
スイスは噂に聞く通り、そこら辺に建っている建物が造形的に洗練されている。古い建物も新しいもの建物も何か通底する、落ち着きを持っている。もちろん目も当てられないような開発もあるが。
ふらふらしているうちにあっという間に電車の時間が来てしまい、フランスはコルマールへ向かう。
コルマールは、フランスとドイツの国境付近に位置しており、歴史的にみるとドイツの領土の時もあればフランスの領土の時もあり、ドイツ文化の色濃い街だそうだ。
そう言われてみると、ウンターリンデンという名前もどちらかというとフランス語よりはドイツ語らしい語感だなと思う。
コルマールに着くと雨は上がっている。
駅から徒歩で美術館を目指す。道すがら脇目に見る街並みの色々な風景から美しい街だということが直ぐに伝わってくる。
駅からのまっすぐな道を15分ほど歩くと、少し曲がりくねった道になり始め、街の中でも古いエリアに足を踏み入れたことに気がつく。
コルマールに来てから知ったが、この辺りはストラスブールなどと合わせてアルザス地方と呼ばれ、ハーフティンバーの建物が建ち並ぶ美しい街並みが有名なところで、ハウルの動く城のロケハンに使われたというお話もある(Wikipedia調べ)。
目的のウンターリンデン美術館はそのような建物群に隣接して建っている。
Googleマップを頼りに進んでいくと、小さな小屋が建つ、少し開けた場所に行き当たる。
ここで、とてもさり気なくウンターリンデン美術館は現れる。
この美術館は、そもそも13世紀に建てられた旧ドミニコ派修道院を改修して美術館としており、2015年にそれをさらにHerzog & de Meuronが増築および改修を手掛け、リニューアルオープンし現在に至る。
しかも、パリ圏域の美術館を除くとフランスではトップの来館者を誇る美術館だそうだ。(本当に…?)
なので、この建築は前提として、改修されてきた歴史があり、そこに積み重なるようにH&deMの設計がある。
小屋に向かって歩いていく。記念写真を撮っているのが微笑ましい。小屋の脇には小さな川が流れている。
小屋の脇を通り抜けると広場に出る。この日は休日だったので小さなお店が道に沿って出ていて観光客も住民も入り混じって賑わっている。
広場から小屋を振り返るとこんな感じ。
小屋の奥に、小屋と同じ外壁と銅葺きの建物が顔を出す。素材の連続から気づくが、川に関わる外構もH&deMの手が入っている。
ここで小屋をよく見てみると、小屋には窓が開いているだけで入り口がない。一番目立つ割りに、すぐには中に入れてくれないようだ。塀の向こうから入れるのかもしれないという考えが、頭に一瞬浮かぶが、それよりも、はて入り口はどこなのだろう?という疑問が頭を占める。
ここで川を挟んで反対側の建物のまえにポールと旗、立て看板が出ているのが目に入る。先ほどは小屋に気を取られて完全に素通りしていた。
近寄ってみるとこんな感じ。確かに建具が新しいし、右にものすごく小さくMusée Unterlindenの文字。
そう、ここが美術館の入り口。
これは美術館建築として衝撃的なエントランスだ。
美術館というビルディングタイプは、その役割からしてどうしても権威に近接した存在となる。そのことは、建築とも切っても切れない関係にあって日本人の私たちが思い浮かべる美術館はどれも、もっと威圧的で襟筋正した建物たちがほとんどだろう。そして、その中でもエントランスというのは特に、その特権性を分かりやすく反映しまうもので、それは多くの場合、アトリウムや多層の吹抜けといった空間とセットになっている。
このエントランスは、明確な意志を持ってそういったものの対極に陣取っている。つまり、これはH&deMがこの美術館において目指した建築のあり方についての宣言なのだ。
エントランスの扉を開けて中に入ると、すぐにチケットカウンターがある。こちらはもともと修道院の建物のため天井は2階の木造床が現しになっている。
ここで、サクッとチケットを買って美術館の中に入っていきたいところだが、この日はクールまで移動する日でバックパックを背負っていたので、そのまま入館はダメだよと言われ(たいていの美術館はダメです)ロッカーに荷物を預けようとすると、うちはロッカーないのでどこかに預けてきて、と言い渡されてしまう。しかし、カウンターの人はロッカーの場所は知らないとのことで、向かいの観光センターで聞いてみてとのことだった。
仕方なく、美術館から川を挟んで向かいの建物にある観光センターでロッカーがあるか聞いてみる。すると観光センターにロッカーはないので、そのあたりのホテルで預かってもらえるのでは、というざっくりした返答で、このあと15分程街をうろうろし、ホテルに行き2軒目で預かってもらうことができた。なんだか疲れたがポジティブに捉えれば街のなかに美術館の端々が投げ出されていると言えなくもない気もする。
さて、気を取り直して美術館へ。
チケットを買って、展示室に入ったところにある美術館の見取り図でようやくこの美術館の構成を把握する。
エントランスのある既存棟はロの字型の平面をしており、中庭を持っている。そのうちの南側の辺にかつては礼拝堂が置かていた場所で、北の辺にエントランス、東の辺は先ほどの広場に面している。
まずは既存棟から。
展示作品は、考古学的な出土品から、中世絵画、近代アートまで幅広く展示され、おおむね館内の動線に沿って時系列に展示が構成されている。そのうちこの棟には中世絵画などがメインで展示されている。
礼拝堂を再利用した展示室。
これがなんとも言い表しがたい、不思議な印象を覚える。本来、祭壇があるべきところには何もない、つまり礼拝堂が持つ確固たる方向性が解体されているからか、礼拝堂という形式と固く結びついていた建物と空間がその縄を解かれ、ふわふわ浮いているようなそんな感じだ。
ロの字を一周しながら、中庭に沿って元の場所に戻る。
続いて既存棟を離れ、H&deMが増築した棟へ。
既存棟と増築棟は、地下通路で接続されており、川の下をくぐって反対側へ出る。
ここで地上に、ぽんっと置かれていた小屋の正体が明らかになる。
これは地下通路のためのトップライトで、入り口がなかったのはつまりこういうことだった。
地下通路のギャラリーを抜け、階段を上がり増築棟へ。
毎度のことながらゆったりとして上品なH&deMらしい螺旋階段。テクスチャーも単調にならず、表現的にならず本当にきれいだ。
増築棟の展示作品は、近現代アートとなっている。増築棟の1階からは小屋越しに外から見てた塀の向こう側に当たる中庭に出ることができる。
増築棟と観光センターの入っている建物、カフェ塀によって囲まれている。
シークエンシャルな内部空間の体験に比して、その外形は、既存の建物や増築棟、塀、敷地境界などによって当たり前のように分節されていて、そこに一致をみようとする意志は微塵も感じられない。また、中庭に面するファサードはどれも中庭がそこにあると思ってつくられたファサードではないそっけなさである。そのことが、街の空き地がたまたま囲われただけ、という感覚を呼び起こす。
歩き疲れたので、中庭からカフェに入ってすこし休憩。
内装ももちろんH&deMの設計。落ち着いた雰囲気でまとめられていて、家具も丁寧につくられている。壁についているコートかけは、確か彼らの運営するwebショップで購入できたような気がする。
すこしまったりして、再び展示室に戻る。
増築棟の展示室は、一室空間のホワイトキューブとなっていて、各所展示壁が立っている。展示壁はよく見てみても仮設のものに見えずチープさがない。
展示室を奥へ進んでいくと、唐突に明らかに空気の異なる部屋へのドアが開かれている。
ここは、カフェの上階にあたりもともと市民プールだった場所を多目的ホールとして改修している。正直、日本人にとってこの空間と市民プールがイメージとして架橋されないが、古い市民プールだったそうだ。板張りの部分にはかつて水が張られていたのだろうか。
ホールの奥まで歩いていくと窓からは、最初に入ってきたエントランスを少し引いた視点で見下す。中途半端な高さから見下ろす視点は、何とも他人事のようなそっけなさを持っていて、そこには先ほどと変わらずこじんまりとした建物に、こじんまりとした入り口が付いている。
なんだかデジャブのような不思議な感覚になる。ここまで来て、ようやくこの建築を一回りしたようだが、あの扉から入ってここまで見てきたいろいろな物事は本当にあの扉から始まったものだったのだろうか。
エントランスは相変わらず寡黙なままだ。
このあと、行きとは違う階段を降り、中庭を横切り、地下通路を遡り、エントランスへ戻る。
エントランスを出る。なんだかとても時間が経ったように思える。
向かいの建物を見てふいに、さっきエントランスを見下ろした窓は、結局どの窓だったんだろうか、という疑問が頭をよぎるが、なんだか騒がしいので広場へ出てみると、先ほどよりもたくさんの人が集まり、盛り上がっている。そのまま人ごみの中に飲まれ、美味しいソーセージを食べて、クリスマスの雰囲気を楽しんだ後、スイスへ戻る電車に乗り込んだ。
190801@東京
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