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ムード・ホール 『増殖 Ⅰ』 制作メモ

「物語ることなしに、いかに物語性を喚起させ続けられるか」を、これまでいろいろなアプローチで試みてきたカワイオカムラであるが、Zbignew Rybczynskiの『Tango』(1981)は、そのインスピレーションの一つの源となっている。『増殖 Ⅰ』の制作においても、この作品の影響は少なくない。「子供が室内に入ってしまったボールを取りに入ってくる。赤ん坊のお守をする女性、食事する中年男性、愛し合う若い男女、そして泥棒。同じ部屋の中で様々な人々による行為がそれぞれ無関係に繰り返される。いつの間にか室内は人々で埋め尽くされていく。ズビグはこれらの36人の人々を固定カメラでがとらえる。私はこのため約16,000の人物を描き、オプチカル・プリンターで数千万のコマを作らなくてはならなかった。そのため1日16時間作業してたっぷり7ヶ月はかかったという」(「ズビグ・リプチンスキーDVDコレクション ダゲレオ出版/イメージフォーラム」解説より)

『Tango』と題されていることからも、この作品には音楽が重要なモチーフであることがわかる。固定されたフレーミングの内を同一の動作を繰り返す数人の人物、それらの動作の反復とポジショニング、タイミングやリレーションが、旋律やリズムのパターンの、多重や変奏の展開によって、感情をドライブさせていく音楽の表現構造のように機能することを意図している。その点に『増殖 Ⅰ』では大いに感化されたわけだが、Zbignew自身は、Norman McLarenの『Canon』(1964)からの影響について言及している。『Canon』では、カノンやフーガといった音楽様式のある種、厳格な視覚的変換が小気味良いが、『Tango』では、形式の対応よりも音楽の感覚・感情的解釈を感じ、肉感的な高揚感を抱かされる。『Canon』『Tango』双方に共通するのは、先鋭的なアプローチでありながら、大衆的な馴染みやすさを兼備している点で、それはこれらの音楽的構造によるところが大きく、そこへのシンパシーも『増殖 Ⅰ』の制作動機としてある。

moodhallは全編3DCGで作られているが、場面設定におけるプロップの造形や登場キャラクターの動きを、既存のプリセットの組み合わせによって、主に構成、制作している。『増殖 Ⅰ』では、そのサンプリング的な傾向がより強く、デモンストレーションから仕上がりまでシームレスに繋がっている感がある。予めコントロールをせずに、キャラクターのポジション、モーション、繰り返しの周期等をそれぞれに設定する、あとは自動生成された「なにか」を観察しながら、予想外のハプニングの間を取り持ったり、ハマりすぎた辻褄を意味から遠ざけたりということをくりかえす。デジタルの映像加工技術がなかった時代に、途方もない手作業によって制作された『Canon』や『Tango』に比べると、不精で横着なこの制作法も、演奏、セッションを繰り返しながら楽曲を形にしていくというイメージと重ね合わせ、採用しているものである。

※『増殖 I』『増殖 II』の期間限定配信は終了しました。(2020/8/10)


カワイオカムラO 
〈執筆・編集中 2020.06.07.16:09更新〉



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