桜色フィルター
桜が咲いていた。
パシャリ。
「この木だけだな」
この木がせっかちなのか、周りの気がねぼすけなのか、そんなどうでもいいことを考える。
パシャリ。
「……こっちの画角の方がいいな」
パシャリ、パシャリ。
「綺麗だなぁ」
スマホを仕舞って、ぼうっと眺めた。
1年ぶりに見る桜はやけに白い気がした。もっと桜って、ピンクじゃないっけ?まあ、これはこれで素敵だと思うけども。
ぴゅうう。
ふいに風が吹いた。咲いたばかりの桜は、まだ舞わない。
ぴゅうう。
なんとなく、思い出が舞った。
パシャリ。
『綺麗だねぇ』
『うん、綺麗』
『みて!綺麗に撮れた!』
『いやピントズレてない?』
『えーー』
「…………」
仕舞ったスマホを取り出した。
【写真を送信しました】
《お花見しない?》
ピコン、ピコン、ピコン、
《綺麗〜!いいね、しよ!》
《しよしよ〜》
《お花見する!》
ピコン、ピコン。
《来週の日曜、どう?》
《いいよ!》
《ぐっど!》
《いい!》
《じゃあ決まりね!》
《了解!》
再びスマホを仕舞った。
どこかうきうきとした気分。猫背になっていたのを伸ばそうとぐーっと背伸びをした。
「……あれ?」
花びらが、さっきよりも、ほんのりとしたピンク色な気がした。
「うん、こっちの方がいいよ」
桜に向かってグーサイン。冷静に考えると周りに誰もいなくてよかったと思う。
来週の日曜には全部、ピンクかなぁ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?