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AmazonのKDP(キンドル・ダイレクト・パブリッシング)は小説を作家個人の発信力に頼った売り方に変えていくかもしれない。


Amazonからのお知らせが、創作界隈を揺さぶりました。
簡単に言えば、電子書籍のサービスのみだったKDPが、ペーパーバック……廉価版の紙の本も作ってくれるサービスができたというものです。

Twitterで誰かが試算したところ、300ページで1000円の本の場合、150円程度のロイヤリティ(ドル換算なのでちょっと違うかもしれませんが)だそうですが、もともと印税なんて10%程度という世界ですから、それを考えると15%でも高いかもしれません。
しかしペーパーバッグの切り落としの安っぽさでこの本自体の値段設定は確かに高めではあるので、売れるかは疑問なのですけどね。

しかし、自費出版で本を作るよりはるかに作者は負担にならず、これは衝撃です。

実際、電子書籍の大きなハンデには「いざとなったら読者の手元になにも残らない」ということが挙げられます。
便利に読んでる電子書籍ですが、実はあれは読む権利を買っているだけであって、ある日突然読めなくなる可能性があるのです。
しかし、紙の本だったらそうではない。
紙で読むほうが好きだから電子書籍に手を出さないという人もいるでしょうが、同じくらいの値段なら、多少割高でもあえて紙の本を買うという層もあるのです。

アルファポリスなどで出される本は新書版で紙も良質な豪華本なので、ペーパーバッグのような裁ち落としな安っちい本とは比べるべくもなく、ターゲットは違うかもしれませんが、僕はこの話を聞いた時「出版社はこの先、どうするのだろう」と思いました。

出版社は本(ここで言うところの紙の本)を作り、それを宣伝し、本屋に置いてもらったりして、それらを売るノウハウを持っています。
しかしKDPを使えば、出版社に本を作ってもらわなくても自分の作品が本の形になります。

そして、作家自体がSNSでインフルエンサーだったり、YouTubeなどで知名度があったりしたら、自分で本を売る力もあるでしょう。
今後、出版社を通して本を作って販売してもらう必要がなくなってきます。

特に既に固定ファンがついているような人気作家……二次創作をしていてすでに読者を掴んでいる作家が、一次創作をして書籍化する場合なども含めますが、自分の本に力を注いで宣伝などをしてもらえず重版されなかったり、出版社の意向と合わなくてあまり評判のよくないイラストレーターを挿絵や表紙に使わざるを得なかったりすることもあるから、そんな博打するより、自分で全部納得いくように作る!と思う人も出てくるかもしれないですよね。
そうなると出版社からしたら売れセン作家に逃げられ、利益を逃すわけです。
今後、自分で売る自信があって、売れる見込みがある人ほど、そういう傾向になりやすくなっていきますからね。

それともう一つの懸念が。

僕はWEB投稿サイトも今後の在り方はどうなるだろうか、とも思いました。
これはツイッターでも言及している人がいて、まさにその通りだと思ったのですが、中でも「小説家になろう」はさびれていくのではないか、と思いました。

現在、WEB投稿最大手の「なろう」にはプロを目指して投稿している人が多いです。ここで投稿するのは自分を見つけてもらう宣伝でもあります。
しかし「自分の作品を本にする」という目的なら、セルフ出版すればいいので、作家が必要になるのは自分の作品を読んでくれるファンを持つことだけで、出版社のお眼鏡にかなう必要はなくなります。
お互いに創作物を読みあうというのなら、「なろう」より「カクヨム」や「ノベプラ」の方がそういう文化が育っていますし。
読者が多いからといって「小説家になろう」に投稿するメリットがないのです。
素人作家同士の交流も含め、感想などでもやりとりをして、作品ではなく「自分」にファンを作るのなら、なろう以外の投稿サイトの方が向いているのですから。
なろうはカクヨムやアルファポリスのようにインセンティブがもらえるわけではないですし、そういう面でもなろうに投稿するうま味がまるでない。
せいぜい、日間〇位!やPV〇〇万突破!などという言葉が宣伝に使える程度です。

そういうことも考えると、今後はWEBで作品のPVを稼ぎ、出版社からのスカウトを待つのではなく、WEBの公開が必須でない、読者票が関係のないネームバリューのある賞の受賞を狙うような動きが主流になるかもしれません。
そうなればWEBで人気が出るような作品の書き方……いわゆる、テンプレな出オチるようなタイプを書く必要がなくなりますから。流行の小説の書き方にも変化が出るかもしれません。

賞を受賞し、自分の腕に箔をつけ、そして1冊本を出版社に出してもらった後は賞作家ということでSNSからAmazonに誘導してその後の利益率の高い本を買ってもらう。
そうやって作家は個人の作品を売り上げていくようになるのではないでしょうか。


小説を書く上で、SNSで知名度をつける作家が勝ち組の時代になってきた……僕はこの話題からそう感じました。

もちろん、以前にも書いたとおり、僕は書籍化デビューしたいと思っている人間ではないですから、本気で書籍化を考えている人に比べてどこか考えが甘いかもしれませんし、抜けてる視点があるかもしれません。
Twitterを見る限りでは、このことに注目している人はプロアマ含めて、あまり多いようには思えませんでしたし。
出版社自体も何か、今後、対抗策を考えてくるでしょうし、個人で表紙を描いてくれるイラストレーターさんを頼んだり、作品をPDF化する負担などを考えると、作品を書くだけで済む作家業のみというのは楽だと思います。

ですので、出版社がすぐにお役目ごめんになるとは思いませんが、じわじわと、今まで当たり前だと思っていた想定パターンがある日突然崩れるかもしれない。
……そう用心しておく必要はあるかもしれませんよ?

こちらのnoteがお役立ちいただけてれば幸いです☆