さいたまの鉄道博物館のモデルは海外にあり?
こんにちは。交通技術ライターの川辺謙一です。今回は鉄道博物館に関する話として、「さいたまの鉄道博物館のモデルは海外にあり?」という話を書きます。
■最大の目玉である車両展示場
まず結論から言います。
「さいたまの鉄道博物館のモデルは海外にある」と私は考えています(もちろん同館が公式発表した事実ではなく、私の推測です)。
なぜならば、似た要素を持つ鉄道博物館が海外に存在し、その実物を私自身が観てきたからです。
さいたまの鉄道博物館(正式名称は「鉄道博物館」)は、埼玉県さいたま市大宮区にある日本最大の鉄道博物館です。これは、2006年に閉館した交通博物館(JR秋葉原駅に近い万世橋の横にあった)に替わるものとして建設され、2007年に開館した鉄道専門の博物館です。
この博物館の最大の見せ場は、「車両ステーション」と呼ばれる建物の1階にある車両展示場です。ここには、36両の実物車両が展示されています。中央には転車台(ターンテーブル)があり、そこから放射状に延びる線路に多くの車両が静置されています。照明は全体的に薄暗くなっており、一部は夜の駅を思わせるような雰囲気になっています。
これとよく似た車両展示室は、海外の鉄道博物館にあります。その代表例が、以下の2つです。
それぞれ見て行きましょう。
■フランスの鉄道博物館「シティ・デュ・トラン」
(1)の「シティ・デュ・トラン」は、フランス東部のミュルーズ(Mulhouse)という都市にあります。ここは、スイスとの国境に面した工業都市で、国立自動車博物館など、産業関連の博物館が集まる場所でもあります。
「シティ・デュ・トラン」の窓口でチケットを買い、順路に従って館内に入る通路を通ると、その奥に暗い車両展示室が広がります。そこには、フランス国内でおもに戦前に活躍した蒸気機関車や客車、荷物車などの実物が多数展示されています。
そこはまさに夜の車両基地のような空間。車両のヘッドライトやテールライトは点灯しており、車両の車内は明るくなっています。
そう、さいたまの鉄道博物館の車両展示室と同様に、室内が暗く、車内が明るくなっているのです。
なお、この暗い車両展示室の真横には、明るい車両展示室があり、電気機関車やTGV車両など、おもに戦後に活躍した車両が展示されています。
■イギリス国立鉄道博物館
続いて、(2)のイギリス国立鉄道博物館を見てみましょう。この博物館は、イギリス(イングランド)北部のヨーク(York)という都市にあります。ここには100両以上の蒸気機関車と、約200両の客車や貨車などが展示されており、鉄道博物館としての規模としては世界最大を誇っています。
この博物館のほぼ中央には、「グレート・ホール」と呼ばれる車両展示室があり、その中央に転車台が設けられています。展示されている車両の多くは、この転車台から放射状に延びる線路の上に静置されています。
そう、さいたまの鉄道博物館の車両展示場と線路の配置が似ているのです。
ちなみにこの博物館は、さいたまの鉄道博物館と姉妹館として提携しています。
■2つの博物館の組み合わせ?
以上のことから、さいたまの鉄道博物館の車両展示場は、照明を暗くした点がフランスの鉄道博物館「シティ・デュ・トラン」と、中央に転車台を設けた点がイギリス国立鉄道博物館と、それぞれ似ていると言えます。
ここで、それぞれの博物館が開館した年を見てみましょう。
以上のことから、さいたまの鉄道博物館は、フランスやイギリスの鉄道博物館の後に開館したことがわかります。
このため、さいたまの鉄道博物館は、フランスとイギリスの鉄道博物館をモデルとして、暗くて、中央に転車台がある車両展示場を設けたのではないかと私は考えました。一般的に博物館は、来館者数を維持するのが難しいので、海外の博物館、とくに来館者数が多い博物館を参考にするのは当然の判断だと私は考えます。
なお、さいたまの鉄道博物館の年間来館者数は、感染拡大直前の令和元(2019)年度に84.1万人(さいたま市統計書より)であり、フランスの鉄道博物館「シティ・デュ・トラン」(10.6万人・2019年)やイギリス国立鉄道博物館(71.4万人・2019年)を超えています。
このような人気の背景には、日本で鉄道に関心を持つ人が多かっただけでなく、海外の鉄道博物館を参考にしながら、来館者がより楽しめるように車両の展示方法を工夫した点が関係しているのかもしれませんね。
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