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運転士が言う「出発進行」は「発車するぞ」という掛け声ではない

こんにちは。交通技術ライターの川辺謙一です。

今回は、鉄道の運転士の仕事に注目して、「運転士が言う『出発進行』は『発車するぞ』という意味ではない」という話を書きます。

■誤解されやすい「出発進行」の意味

鉄道の運転士は、列車を発車させる直前に、前方を指差し、「出発進行」と言うことがあります(後述するように、言わない例もあります)。

このため、「出発進行」は「これから発車するぞ」という意味を持つ掛け声だと思っている方は多いようです。たしかに発車直前に運転士が口にする言葉なので、そう思われても仕方ないかもしれません。

ただし、これは誤りです。「出発進行」には、別の意味が存在します。

■確認するのは「出発信号機」の現示

結論から言うと、「出発進行」には「出発信号機の現示が進行である」という意味があります。

出発信号機」は、駅構内に設けられる信号機の一種であり、駅から進出する列車に対して信号を現示するものです。

現示」とは、信号機よって示される現在の状況、または列車(車両)に対する指示のことです。

日本の鉄道では、進行・注意・停止という3つを「現示」する「出発信号機」がおもに使われています。なお、2つ、4つ、5つを現示する「出発信号機」を導入した例もあります。

3つの現示をする出発信号機(色灯式信号機)。JR京都駅にて

この3つ「現示」には、それぞれ意味があります。それらをざっくりと要約すると、次のように示すことができます。

進行:信号機よりも先に進んでよい
注意:減速したうえで、信号機よりも先に進んでよい
停止:信号機を越えて進入してはならない

色がついたランプが点灯する「色灯式信号機」の場合は、進行では緑色、注意では黄色、停止では赤色のランプが点灯します。

なお、「現示」の詳細な意味を知りたい方は、鉄道総合研究所がウェブサイトで公開している『鉄道技術用語辞典・第3版』をご覧ください。「進行信号」「注意信号」「停止信号」を検索すると、それぞれの正確な意味を知ることができます。

ここで「出発進行」の話に戻りましょう。

運転士が発車直前に前方を指差して「出発進行」と言うのは、「『出発信号機』の現示が『進行』である」ということ声を出して確認しているからです。つまり、「列車を発車させてよいか」を確かめるための動作なのです。

なお、信号機などの対象を指差して声を出して確認することは、「指差喚呼(しさかんこ)」などと呼ばれます(呼び方は鉄道事業者によって異なります)。日本の日本の鉄道現場では、信号機の見落としなどのミスを防ぐため、「指差喚呼」が長らく使われてきました。

■「出発進行」と言わない例

なお、日本の鉄道では、すべての運転士が発車直前に「出発進行」と言うわけではないようです。

ある電車運転士によれば、信号機に対する指差喚呼(信号喚呼)は、基本的にすべての鉄道事業者で義務付けられているようです。ただし、指の差し方や、声にする言葉は、鉄道事業者や路線によって異なることがあるそうです。

たとえば、運転台にワンハンドルマスコン(マスコンハンドルとブレーキハンドを一体化させたハンドル)を導入した鉄道事業者では、指差しなどを省略した例もあるそうです。

また、閉塞信号機(「閉塞」と呼ばれる区間の始まりに設置される信号機)がない鉄道でワンマン運転を実施する場合には、「出発進行」ではなく「出発よし」と呼ぶこともあるそうです。

さらに、新幹線や地下鉄の一部のように、特殊な信号システムを導入した鉄道では、運転士が発車直前に「出発進行」と言わないようです。これは、車内の運転台に信号機(車内信号機)があり、線路側に「出発信号機」がないからだそうです。

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