ブルーバックスに3冊ある『鉄道の科学』
講談社の科学新書「ブルーバックス」には、『鉄道の科学』と題した本が3冊存在します。今回は、その3冊をそれぞれ紹介します。
身近な交通機関である「鉄道」を通して「科学」にふれる話として、お楽しみいただけたら幸いです。
■ 3冊ある『鉄道の科学』
今回紹介するのは、以下の3冊です。
① 丸山弘志著『鉄道の科学ー旅が楽しくなる本ー』1980年発行
② 宮本昌幸著『図解 鉄道の科学ー安全・快適・高速・省エネ運転のしくみー』2006年発行
③ 川辺謙一著『最新図解 鉄道の科学ー車両・線路・運用のメカニズムー』2024年
①と②の著者は、国鉄の鉄道技術研究所(現在の公益財団法人 鉄道総合技術研究所)におられた鉄道技術者の方々です。いっぽう③の著者は私です。
①②③は、「鉄道」をテーマにしている点において共通しています。ただし、書かれた時代による内容のちがいが存在します。
以下、それぞれくわしく紹介します。
■ ①『鉄道の科学』1980年 鉄道が競争にさらされた時代
①は、鉄道で使われている技術を、電車のドアからトイレまで10のテーマに絞ってまとめたものです。本文は、横書きである②や③とちがい、縦書きです。
ここで述べた10のテーマは、以下のとおりです。数字には漢数字が使われていますが、横書きのnoteでは読みづらいので、アラビア数字に直しました。
本書の後書きには、著者の丸山先生が、10人の専門家に話題を提供していただいたと記されています。その10人のご所属は記されていませんが、おそらく国鉄の鉄道技術研究所におられた方、もしくは国鉄に所属していた技術者の方だと私は推測します。鉄道に関するかなりの知識と経験を持った方でないと書けない内容だったからです。
①が書かれた1980年は、鉄道が国内交通の主役の座を自動車に奪われた後であり、国鉄が経営難に陥った時期です。それゆえ、鉄道は他交通との競争にさらされ、スピードや快適性の向上が求められました。
そのためか、①は、鉄道利用者が接する機会が多い「車両」にフォーカスを当て、スピードや快適性を高めるための工夫が記されています。「旅が楽しくなる本」というサブタイトルには、鉄道技術をほとんど知らない鉄道利用者に向けて、「知っていると鉄道旅行がちょっと楽しくなる話」を紹介しようとした鉄道技術者の思いが込められているように私は感じました。
ちなみに、後述する②の前書きでは、①が26年間に21刷を重ねてきたことが記されています。この数字から、いかに長く、かつ多くの方に読まれたかがよくわかります。
なお、現在は、①の新品の入手は難しいようです。
■ ②『図解 鉄道の科学』2006年 鉄道がわかりやすく進化した時代
いっぽう②は、電車、とくに新幹線電車を中心にして、鉄道技術を紹介した本です。タイトルに「図解」がついている通り、①よりも多くの図が掲載されています。帯には、「ブルーバックス図解シリーズ」のマークが入っています。
本書も①と同様に、「車両」にフォーカスを当てています。
それは、先ほど述べたように、鉄道利用者が接する機会が多いのが「車両」であるだけでなく、著者の宮本先生が「車両」のスペシャリストであることが関係していると私は推測します。
②に記されたご経歴を読むと、宮本先生は、国鉄の鉄道技術研究所の車両運動研究室室長や車両研究部部長を歴任された方であり、鉄道車両や、その一種である電車に的を絞った書籍を多く出版されていることがわかります。なお、②の前書きには、宮本先生ご自身が、①に話題を提供した10人のうちのお一人であることが記されています。
②の帯には、以下のキャッチフレーズが記されています。本書の特長をうまく要約した文章だと、私は感じました。
②が書かれた2006年は、1987年に国鉄が分割民営化され、JRグループが発足してから9年後です。当時は、バブル景気が一段落したものの、JR旅客各社からユニークな新型車両が次々と誕生し、国鉄時代よりも鉄道のスピードや快適性が高まったことを実感しやすい時代でした。
「安全・快適・高速・省エネ運転のしくみ」というサブタイトルからは、当時の鉄道に求められていたことをうかがい知ることができます。
■ ③『最新図解 鉄道の科学』2024年 鉄道が人口減少社会に直面した時代
最後に紹介する③は、私の著書です。「車両・線路・運用のメカニズム」というサブタイトル通り、「車両」にフォーカスを当てた①や②とちがい、線路をふくめた「インフラ(施設)」や、「オペレーション(運用)」の技術にもふれました。また、サブタイトルには入れませんでしたが、鉄道の安全を守るうえで重要な「メンテナンス(保守)」の技術にもふれました。
③は、タイトルの頭に「最新図解」と記されている通り、①や②よりも新しい情報を盛り込み、さまざまな技術を図解しています。ちなみに私は、執筆だけではなく、図や表(計100点以上)の作成にも携わっています。ブルーバックスでは、著者自身が作図する例がかなりめずらしいそうです。
③で書きたかったのは、「鉄道は陸上輸送を実現するためのシステムであり、車両はそのほんの一部にすぎない」ということです。①や②には、鉄道が総合的なシステムであることが記されていますが、残念ながら「施設」や「運用」をふくめた鉄道の全体像はあまり記されていない。だからそれらを書きたかったのです。
以下のnote記事は、時計やオルゴールを例にして、「鉄道はシステムである」ということを説明したものです。関心がある方はご覧ください。
③が発売された2024年は、①や②が書かれた時代とはちがい、日本の鉄道にとって大きな試練の年だったと言えるでしょう。なぜならば、「コロナ禍による輸送需要の低下」や「急速な人口減少」、100年に一度と言われる「モビリティ革命」、そして世界的な課題である「カーボンニュートラルに向けた取り組み」の影響を受け、急速に変化することを求められたからです。
そこで③では、これらの変化に対応する技術や取り組みを記しました。AI(人工知能)の活用による業務の効率化と省人化は、その代表例です。
以上述べたように、③では、①や②よりも扱う範囲を広げただけでなく、①や②が書かれた時代には想定されていなかった変化と、それに対応するための技術や取り組みについても記しました。
その結果、1冊あたりの情報量が増え、奥付を除く総ページ数が294ページに達しました(①は270ページ、②は221ページ)。
もしご興味がありましたら、ご覧いただけると幸いです。
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