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なぜ鉄道ライターが鉄道以外の本を書いたのか?

この記事では、「鉄道ライター」の一人としてよく扱われる私が、鉄道以外の書籍(本)を書いた理由を記します。キーワードは「客観視」です。


■ 鉄道以外を知る鉄道ライター

拙著『最新図解 鉄道の科学』(講談社ブルーバックス)。鉄道を支える各分野の技術者の協力を得て、車両だけでなく、線路をふくめた施設や運用、保守などの技術をまとめた入門書

こんにちは、交通技術ライターの川辺謙一です。

私は、マスメディアの方から「鉄道ライター」の一人としてよく扱われます。それは、ウェブメディアに鉄道関連の記事を多数寄稿しているだけでなく、26冊(海外版4冊)ある著書の半分以上が鉄道に関するものだからでしょう。

そのいっぽうで私は、次のような「鉄道以外の著書」も執筆してきました。

  • 自動車(燃料電池自動車・電気自動車)

  • 道路(首都高速道路・東京の市街地の一般道路)

  • 都市計画(まちづくり)・国土計画

  • オリンピック

オリンピックに関する書籍を執筆したのは、交通インフラと密接な関係があるイベントだからです。たとえば1964年の東京オリンピックは、都市計画や国土計画の一環として、首都高速道路や東海道新幹線を整備する契機になりました。

現在は、ウェブメディアの記事を多く書いています。代表例には、「現代ビジネス(講談社)」や、「鉄道の科学(マネーポストWEB・小学館)」や「道路の雑学(KURU KURA・JAFメディアワークス)」があります。「道路の雑学」では、「道路」だけでなく、その背景にある「都市計画」や「国土計画」にもふれています。

そう、私は「鉄道ライター」として扱われる立場でありながら、鉄道の外側のテーマも広く扱う、ちょっと変わったライターなのです。

■ 物事の本質は主観では見えない

鉄道だけ見ても、鉄道はわからない

なぜこのようなことをしているのか?

それは、鉄道を客観視するためです。

鉄道の本質に迫るには、主観による先入観や固定観念がノイズになります。先入観や固定観念にとらわれると、把握する事実の客観性が失われ、本来の本質がかえって見えなくなるからです。

このため私は、鉄道の外側を深く知り、それらの視点に立つことで、鉄道を俯瞰するように心がけています。つまり、鉄道を意識して客観視することで、主観をできるだけ排除しているのです。

それでは、なぜ鉄道の本質に迫ろうとしているのか?

それは、鉄道という身近な乗りものを通して、多くの方に科学や技術に興味を持ってほしい、と願っているからです。

私は、子ども時代に鉄道をはじめとする乗りものを通して科学や技術に興味を持ちました。それがきっかけとなり、大学や大学院で工学を学び、メーカーの技術者になりました。

それゆえ、独立後の私は、おもに鉄道を支える技術をわかりやすく翻訳し、一般の方に紹介しています。つまり、私にとって鉄道は、多くの方に科学や技術に興味を持っていただくためのテーマの一つにすぎないのです。

なお、この活動では、鉄道における各分野の専門家の協力を得ています。もと技術者で、安全教育を受けた経験があるゆえに、専門家と共通認識を持ちやすいのが、最大の強みです。

■ 趣味視点では全体像が見えにくい

複数の歯車が連動する機械のイメージ

ここから、鉄道の本質について一歩踏み込んだ話を記します。

鉄道は「システム」です。このことは、鉄道に関する多くの専門書に記されています。私は、独立から20年以上かけて鉄道を支えるさまざまな施設・設備・職場を取材し、ようやくその意味を理解できたと感じています。

ここで言う「システム」とは、「複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体(広辞苑第七版)」のことです。

たとえば、機械式時計は「システム」です。多くの部品で成り立っており、それぞれが連動・連携して、「現在の時刻を表示する」という機能を果たしています。

同様に、鉄道も「システム」です。鉄道には、それを構成する施設や設備、そしてそれらを支える職場があり、それらが連動・連携することで、「人や物を運ぶ」という機能を果たしています。また、自動車ではむずかしい陸上大量輸送を実現できるという強みを持っています。

鉄道ファンの方にはまことに申し訳ないのですが、現在鉄道趣味の対象になっている車両などは、鉄道という「システム」を構成する要素のほんの一部でしかありません。また、鉄道趣味では、鉄道の最大の課題である安全の考え方が欠落しています。

このため、きびしい言い方になりますが、鉄道趣味を極めても、鉄道の全体像はわからないのです。

それにもかかわらず、近年出版された鉄道関連の書籍や雑誌の多くは、鉄道趣味の視点で記されています。

もちろん、鉄道趣味は、鉄道を知るきっかけになります。

ただし、鉄道趣味の世界にあまり浸りすぎると、鉄道を構成する一部の要素だけを見たまま、全体を推測しようとします。これでは、鉄道が持つ本来の役割を誤解する可能性が高まります。

■ 俯瞰して見える本質

都市を俯瞰し、鉄道の役割を考える

このため、私は意図的に鉄道趣味から離れ、ときには鉄道の外側の世界も見ながら、鉄道を俯瞰するように心がけています。これは、「システム」としての鉄道の本質を見失わないようにするための工夫です。

このように、鉄道の外側にも焦点を当てて活動を続けた結果、私はもはや「鉄道ライター」ではなくなっていまいました。扱うテーマが完全に鉄道の域を超えてしまったからです。

現在は便宜上「交通技術ライター」と名乗っていますが、これまで扱ったテーマは、交通技術の域さえも超えてしまいました。

そこまでやらないと見えてこないのが、鉄道の本質である。
私はそう考えています。

なお、以下に示す記事は、私が自動車・首都高速道路・まちづくり(都市計画)・オリンピックの本を書いた理由をそれぞれ記したものです。

ご興味ありましたら、ご覧いただけるとうれしいです。


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川辺謙一@交通技術ライター
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