なぜ鉄道ライターが首都高速道路の本を書いたのか
こんにちは、交通技術ライターの川辺謙一です。
私は鉄道関連の本や記事を書く機会が多いので、マスメディアの方から鉄道ライターの一人として扱われることがあります。
そのいっぽうで、私は首都高速道路(以下、首都高)の本も書いているため、首都高にくわしい人の一人として扱われることもあります。
このため、よく「なぜ鉄道ではなく、首都高の本を?」と聞かれることがあります。
そこで今回は「なぜ鉄道ライターが首都高速道路の本を書いたのか」と題して、その理由を説明します。
私は首都高の本を書いて、「物事を客観的にとらえる大切さ」を知りました。今回は、そのような話としてお楽しみいただけたら幸いです。
■ 鉄道以外の建設現場も見たかった
まず、結論から言います。
私が首都高の本を書いたのは、鉄道以外の交通インフラの建設現場を見たかったからです。
私はかつて、地下鉄の本を書くため、東京メトロ副都心線の建設現場を取材したことがあります。副都心線が、東京メトロが建設する事実上最後の路線になると聞いていたからです。
このため、私は何度が副都心線の建設現場に行き、トンネルや駅を造る過程を見てきましたが、残念ながらタイミングが悪く、基礎工事が終わっていました。この基礎工事とは、トンネルや駅の土台となる基礎を造る工事のことです。
そこで私は、現場にいた東京メトロの技術者に「他に東京でトンネルの基礎工事を見ることができる場所はありませんか?」と聞きました。すると、その技術者は「首都高さんの山手トンネルなら見ることができるのではないでしょうかね」と教えてくれました。
首都高の山手トンネルは、中央環状線の一部です。日本最長の道路トンネルでもあり、その名の通り、大部分で山手通りの真下を通っています。
偶然ですが、副都心線と中央環状線には共通点がありました。どちらも池袋・新宿・渋谷という3副都心を結び、既存の路線網のバイパスとして機能する路線だったのです。
■ 首都高はシステムだった
そこで、私は首都高だけをテーマにした本をつくることにしました。出版社に本の企画を売り込むだけでなく、首都高速道路株式会社(以下、首都高会社)にの取材協力をお願いしました。
幸い、出版社の会議では企画が通り、首都高会社から取材協力を得ることができました。
次に、私は調査を重ね、取材に臨みました。まず、全長300km以上におよぶ首都高のすべての路線をクルマで走破し、路線網全体の様子を頭に叩き込んだうえで、首都高の資料を読み、その歴史や、使われている技術の概要を知りました。
取材で見学した場所は多岐に渡ります。山手トンネルの建設現場だけでなく、トンネルの換気施設や、緊急時に出動するパトロール車両(黄パト・黄バイク)の基地、そして路線網の車両の流れを管理する交通管制センターなど、首都高ネットワークを支える様々な現場や、そこで働く人を見てきました。
このような利用者の視点では見えない現場を見学することで、首都高を支えるさまざまな要素が連動し、全体がシステムとして機能していることに気づきました。
以上の取材経験に基づいてまとめたのが、『図解 首都高速の科学 ー建設技術から渋滞判定のしくみまでー』(講談社ブルーバックス, 2013年)です。これを世に出すためには、首都高会社の各分野の社員の方々に査読をふくめてご協力いただきました。
私はこの本を出したのを機に、マスメディアで「首都高にくわしい人」として扱われるようになりました。
これによって、私は「鉄道ライター」という殻から抜け出しました。
その後は取材対象を自動車や、市街地の一般道路(街路)、そして街路を整備するための都市計画(まちづくり)へと広げました。現在「交通技術ライター」と名乗っているのは、このためです。
■ 道路を知ると鉄道がわかる?
私は、首都高の本を出すことで、鉄道の見方が変わりました。
たとえば、首都高の歴史を知ることは、日本の鉄道史のあまり語られてこなかった側面を知るうえで役に立ちました。じつは、日本では、1950年代まで鉄道の整備が優先されたのに対して、道路の整備がないがしろにされた歴史があるのです。なお、首都高は、東京という都市規模が大きいわりに道路網があまりにも貧弱だった都市で、交通処理能力を一気に高めるために造られたものです。
また、偶然ですが、私は首都高の本を出したあと、JR東日本の東京総合指令室を取材する機会があり、「鉄道はシステムである」と気づきました。まさか首都高を取材したことが、鉄道の全体像を把握するのに役立つとは、当時は思っていませんでした。
この経験を通して、私は学びました。
鉄道の本質は、鉄道だけ見ていても分からず、その外側から見ないとわからないのです。
物事を客観的にとらえるって、大切ですね。
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