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鉄道の「列車」と「車両」は意味がちがう?

こんにちは。交通技術ライターの川辺謙一です。
今回は、鉄道における「列車」と「車両」のちがいについて書きます。

■鉄道現場での使い分け

列車」という言葉は、おそらく多くの方がご存知かと思います。駅では、「まもなく1番線に○○行き列車が到着します」などという案内放送が流れることがあり、「列車」という言葉を聞く機会が多いからです。

このため、線路の上を走るものはすべて「列車」だと思われている方もおられるかもしれません。たしかに鉄道利用者が乗るのはすべて「列車」なので、そう思われる方がいても不思議ではありません。

ただし、鉄道現場で働いている方によれば、線路の上を走るものがすべて「列車」ではないそうです。たとえば車庫に置いてある電車は、「車両」と呼び、「列車」とは明確に区別をしているそうです。

■車両基地から始発駅までの動き

それでは「車両」はいつ「列車」に変わるのでしょうか?
例を挙げて説明します。

車両基地から始発駅までの電車の動き

ある電車が、車庫(車両基地)の留置線から、始発駅(A駅)に移動し、乗客を乗せて次の停車駅(B駅)に向かって走ったとしましょう。

留置線にいる電車は「車両」であり、「列車」ではありません。

電車は、運転士の運転操作によって発車して、車両基地の内部で移動し、「出発信号機」の手前で停止します。「出発信号機」は、「車両」が車両基地を出発して、本線に入ってよいかを示す信号機です。

このとき、電車は「車両」から「列車」になります。厳密に言うと、始発駅であるA駅に向かう「回送列車」になるのです。

出発信号機」が「緑(進行)」になると、運転士は「出発信号機」を指差し、「出発進行」と声に出して言います。

この「出発進行」の意味は、別の記事「運転士が言う『出発進行』は『発車するぞ』という掛け声ではない」に書いたので、気になる方はこちらをご覧ください。

その後運転士は、時刻表で発車時刻を確認したうえで、電車を発車させます。これによって電車は、本線に入り、A駅に向かいます。

電車が始発駅であるA駅に到着すると、「回送列車」から「営業列車」になります。その後、電車は乗客を乗せて、次の停車駅であるB駅に向かいます。

■列車番号の有無

ここまで紹介した「回送列車」や「営業列車」には、それぞれ別々の列車番号が付けられています。

列車番号とは、「列車」を区別するためにつける番号であり、すべての「列車」についています。「列車」の動きは、列車ダイヤに「」として記されており、そこにそれぞれの列車番号が併記されています。

いっぽう「車両」には、列車番号はありません。

車庫で停車しているのは「列車」ではなく「車両」。2008年8月・JR東日本東京総合車両センター一般公開イベントにて

このため、「列車」と「車両」の大きなちがいは、列車番号の有無にあると言えます。つまり、列車番号を持つものを「列車」、持たないものを「車両」と呼ぶのです。

なお、鉄道総合技術研究所がネットで公開している『鉄道技術用語辞典・第3版』には、それぞれ次のように記されています(それぞれ最初の一文です)。

【列車】停車場外の線路を運転させる目的で組成された車両のこと。
【車両】電車、自動車など、車輪もしくはそれに類するものがついた乗り物の総称。

この記事は、拙著『電車のしくみ』(ちくま新書2011年)のp43の内容をもとにして、鉄道関係者の協力を得てリライトしたものです。

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