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電車の車体は上に向かって反っている?

こんにちは。交通技術ライターの川辺謙一です。
今回は「電車の車体は上に向かって反っている」という話について書きます。

■床は真っ平らではない

電車の車体は、進行方向に対してまっすぐな箱状であり、内部の床は真っ平ら。おそらく多くの方がそう思われているでしょう。

実際はそうではありません。車体はアーチ形になっており、中央部分が少しだけ高くなるようにわずかに反っているのです。

これには、鉄道車両の断面を制限する決まりが関係しています。

■大きさを制限する「車両限界」

その決まりとは「車両限界」です。これは、車両の断面の範囲に関する規格であり、車両のどの部分もこの範囲より外側に出てはいけないという境界線を指します。

電車などの鉄道車両は、すべてこの「車両限界」を超えないように設計されています。車体の床下に設けられた機器(床下機器)も、「車両限界」の下のラインを超えないように設置されています。

■人が乗ると車体は変形する

電車の車体は、内部に人が乗ると、その重量によって荷重がかかって変形します。現在日本で使われている電車の車体は、おもに金属(普通鋼・ステンレス鋼・アルミニウム合金)の部品を組み合わせて造られているので、固く、変形しないように思えますが、人が乗ると変形するのです。

このため、もし車体が真っ直ぐな箱状で、床が真っ平らだとすると、内部に人が乗ったときに変形し、中央部分(台車で下から支えられない部分)の床下機器が「車両限界」の下のラインを超えてしまう恐れがあります。

車体は変形する

■あらかじめ車体を反らせる

これを避けるため、車体は、あらかじめ上に向かって反るように造られています。人が乗ると、車体全体が変形して床が真っ平らに近くなり、床下機器が「車両限界」を超えないようにしてあるのです。

このような車体の反りは「キャンバ」と呼ばれており、人が乗っていないときは、前後両端よりも中央部分がおおむね1cm高くなっています。

(補足)厳密に言うと、前後の台車支持部に対して、中央部分が高くなっています。その高さは、車体の基礎部分である構体の材料の種類などによって変わります。

ただし、二階建て車両の場合は、この値をもっと小さくします。車体の高さが高い上に、床が二層あり、平屋構造の車体よりも上下方向にたわみにくいからです。

noteでは、今後もこのような「電車のトリビア」を投稿します。お楽しみいただけたら幸いです。

(補足)この記事は、拙著『鉄道のひみつ』(学研新書・2010年)の第3講・第7節の内容を要約したものです。


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