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社内の“気づき”が自然とSDGsの取り組みに。かわさきSDGs大賞2023受賞「おつけもの慶」

いまや川崎市だけではなく、神奈川県を代表するお土産品となっている「おつけもの慶」。定番の白菜キムチのほか、オリジナリティあふれる商品がそろい、見た目にもインパクトの強い「元祖!おなかいっぱいイカキムチ」は、インターネット販売で数か月待ちが当たり前となっています。今年20周年という記念すべき年を迎える「おつけもの慶」は、長年、環境配慮やフードロス問題へ取り組んでおり、2023年には「かわさきSDGs大賞」を受賞しています。そんな「おつけもの慶」を運営する有限会社グリーンフーズあつみプロジェクトマネージャーの伊藤泰介さんにお話を聞きました。


有限会社グリーンフーズあつみプロジェクトマネージャー伊藤泰介さん

フードロス問題や脱プラスチックなど幅広い取り組み

――まず、「おつけもの慶」について教えてください。

もともと渥美和幸社長のお父様の代から川崎区桜本で青果店を営んでいて、地元の焼肉店や食堂へ野菜を卸していたんです。その焼肉店のひとつに、のちに「おつけもの慶」のキムチ職人となる城野がいたのですが、その焼肉店がお店を閉めると伺ったときに渥美社長が声をかけ、キムチを作り始めました。なぜ川崎でキムチなのかというと、当社があるエリアが戦後朝鮮や韓国の方など多くの方が住む多文化共生地域で、コリアンタウンがそばにあったことから、この地域に住む日本人にも焼肉やキムチを食べる習慣が根付いていました。


商品はベテランのキムチ職人により手作業でつくられる

当時はその地域でキムチを取り扱っているお店は多くありましたが、時代と共にだんだん少なくなってきました。そんな中でも昔からの文化を残していきたい、川崎でもっと広めていきたい、という社長の強い気持ちもあり、川崎の名物にしようと、日本人の好みに合うようなキムチを追求し試行錯誤しながら作り出しました。韓国のキムチは、酸味があるのが特徴ですが、「おつけもの慶」のキムチは辛さの中に甘みとコク、うま味が凝縮された独特な味付けで、素材本来の味も含めて当社の職人が一つ一つ手作りで丁寧に仕上げています。


独自に開発された日本人の好みに合うヤンニョム(キムチの素)で漬ける 

最初は社長の渥美とキムチ職人の城野が二人でたった一坪のお店から始めて、しばらくは売れない日々もあり、販売にも苦戦をしたと聞いています。それでも社長は職人の城野が作る味を信じて販売を続けているうちに、口コミで行列ができるようになってきました。その結果、テレビや雑誌などのメディアで時々ご紹介をいただく機会も増えて、当社のキムチが『かわさき名産品』になり、またキムチでは初めて『かながわの名産100選』にも認定していただくことができました。

多様なキムチ、カクテキ、お弁当がそろう

――「2023年かわさきSDGs大賞」を受賞されましたが、現在、行っている取り組みについて教えてください。

16年ほど前から、製造する過程で原料から出る野菜の葉などといった端材を、野毛山動物園に飼料として寄付することからはじめました。そのときは、棄てるのもお金がかかりますしもったいないという気持ちからでしたが、今思えばそこからSDGsへの取り組みが始まっていたと感じています。

定番人気商品の白菜キムチなど、できるかぎり袋詰めで提供

現在は、包材も環境に優しいものへ切り替えています。ここ5年くらいで、おかげさまで当社のキムチがお客様からの評判をいただき、店舗や出荷量が増える中で、包材も増えていきました。以前は見栄えもあって、プラスチック容器を使用していましたが販売する商品が増えるとともに包材も増え、保管場所を確保するのも難しくなってしまいました。なにより使い捨てのパックをお客様に提供することで、ゴミも増えてしまいます。

企業としてはゴミを減らすところも観点においた商品にしたいと考え、プラスチック容器を廃止する取り組みを始めました。現在では植物原料由来のバイオマスの包材を使用し、パックではなく袋詰めにするなど、少しでも環境に優しい配慮をするようにしました。


野菜の葉などはお惣菜などに。使いきれない部分は動物園に寄付をしている

また、フードロス問題への取り組みとして、野菜の一部を新たなキムチ商品やお弁当の惣菜に利用するなど、二次加工の開発も進めています。
「KEIDELI八〇八」という飲食店を運営していたのですがコロナの影響から、お弁当の販売へとシフトしました。ただ、お弁当を作る際にも端材が出てしまいますし、売れないと廃棄につながってしまいます。そのため、保存期間が長い冷凍弁当の販売をはじめました。販売にはJR川崎駅構内へ冷凍自販機を設置して展開するなど、いい形で推移しています。

川崎駅設置の冷凍自販機
冷凍で販売しているお弁当は豚キムチ丼やビビンバ丼など(写真は調理例)

地域と連携しながら一緒に取り組みを進めていく

――フードロス問題や脱プラなど、様々な展開をされているんですね。店舗(大島上町店)で、K-potという容器を販売されているのも見かけました。

実は大島上町店限定での取り組みなのですが、まず容器を買っていただいて、その次以降に買いに来た時に容器をお持ちいただければ、工場で容器に直接キムチを入れてご提供します。さらに、こうしたマイ容器を持参いただくことで通常の袋に入った商品よりも20%増量サービスでご提供しています。

繰り返し使えるK-potは1,300円(税込)で、購入時に利用すると商品を20%増量※大島上町店限定

そもそも、SDGsの取り組みを進めていく中で、高津区の町工場が中心となった『タカツクラフトメンバー』の方に工場を見に来てもらい、一緒に解決できるようなことがないか当社の課題を相談していました。そこで、においや汁漏れがしづらいキムチポットという容器を紹介していただいたんです。自宅のお鍋に買った豆腐を入れてもらう昔のおとうふ屋さんのように、容器を持ってきていただければ、プラスチックや廃棄してしまう袋なども不要になると考えました。今では1日5~6人のお客様が容器持って買いにきてくれています。

――地域の企業の皆さんとも連携されているんですね。

川崎市産業振興財団や市の経済労働局の方のご紹介で地域でのつながりも広がって、そこから新しい取り組みができています。当社が展開する冷凍弁当も、もともと大使館のケータリングや冷凍総菜、お弁当などの販売などを展開されている『アポルテフードファクトリー・グルメストック24』の方から、ご飯と具材を別々に冷凍して、レンジで最終調理をするというノウハウを教えていただいたんです。

イベントも積極的に行っていて、今後は美遊JAPAN様が中心となって行っている「川崎イイモノ直売所」という事業の連携企業として、同タイトルのイベントを継続して開催予定です。かわさき名産品や川崎産原料で作る加工品、川崎の農産物などの販売、そして地産品の防空壕きくらげやグルメストック24様の冷凍弁当や惣菜、川崎のものづくり団体であるタカツクラフトメンバー様が作る生活雑貨やアウトドアグッズなどさまざまな「Made in Kawasaki」がそろうイベントとなります。また、今年は当社創業20周年という節目の年なので、11月には川崎アゼリア中央広場をお借りして、川崎市はもちろん、神奈川県のブランド事業者も含めてたくさんの商品が紹介できるイベントの計画をしています。
SDGsの一環として地産地消や地域活性も大事なテーマにしているので、若い方も含めてもっと川崎の魅力を知ってもらい、地元川崎の方々が一緒にできることをやっていきたいですね。

地域の方に知っていただくという意味では、最近はワークショップも行っています。当社のキムチ工場を特別見学しながら作り立てのキムチの試食をしていただいたり、実際にキムチ作り体験をしてもらったり、元有名ホテルシェフによる創作メニューのランチを味わっていただいて。
また市内高校の職業体験受け入れなども行いながら、一人でも多くの方に川崎の食文化などに興味を持ってもらって、自宅でおいしいキムチを召し上がってもらうことも願いながら、若い世代の皆さんにも川崎の魅力を伝えていけるようご協力させてもらっています。

――取り組みを続ける中で感じられることはありますか?

まだまだできることがたくさんあるんじゃないか、という思いはあります。ただ、SDGsという言葉を普段から意識しているということはありません。仕事の中で、包材を使いすぎるのはもったいないんじゃないか、端材として廃棄してしまっている野菜を捨てないでもっと利用できるんじゃないか、という提案が社員からもあって、共に考えながら実現し、また社内で難しい場合は地元の企業の方に相談し一緒にできることを作っています。

大手企業様ではSDGsを進めるための予算を組んでいることもあるかもしれませんが、私たちのような中小企業の場合は、そのためにお金をかけてしまうとなると、効果的なのか不安ですし継続性がある取り組みにするのが難しい場合もあります。社内の課題解決でやったことが実はSDGsにつながっていたという流れの中で、無理なくできることを見つけながら実行していくのが一番簡単で良いことではないか、それこそが、持続可能なものづくりへとつながっていくのではないかと思います。

今回の「かわさきSDGs大賞」も、「かわさきSDGsパートナー」に登録させてもらってちょうど2年が経つタイミングで募集があったので、これまでの活動報告をするつもりで提出したのがきっかけでした。それを評価していただき、市長に表彰までしていただいて正直驚きました。
川崎市でSDGsを進める会社としては、そこからもっと頑張っていこうというモチベーションになりました。


おつけもの慶 大島上町店
住所:神奈川県川崎市川崎区大島上町18-1
営業時間:10:00-17:00
電話番号:044-366-7737
定休日:日曜 
おつけもの慶公式HP:https://kei-kimuchi.jp/

◆イベント情報(予定)

川崎イイモノ直売所 
期間:2023年7月12日~15日
場所:JR武蔵溝ノ口駅・改札前イベントスペース

おつけもの慶創業20周年記念・地元事業者合同ローカルイベント
期間:2023年11月17日~20日
場所:川崎アゼリア・サンライト広場(中央広場)

各イベントの詳細は、おつけもの慶のホームページ等でご確認ください。


書いた人・松井みほ子
川崎市在住。出版社でファッション誌の編集に携わる。その後は編集プロダクションにて書籍、WEB、広告など媒体やジャンルに関わらず、幅広く制作。現在はフリーランスで編集・ライターとして活動中。