見出し画像

麻生区・岡上を拠点に6次産業をビジネスとして確立するCarnaEst

横浜市と町田市に挟まれた麻生区の飛び地・岡上地区で農業を営むCarnaEstの山田貢さん。生産・加工・サービスをひと続きで行う6次産業をビジネスとして確立させるために、地域の特産物を生かした加工品ビジネスの展開や、自家農園の野菜を使ったレストラン「Lilly’s by promety」の経営、川崎市が内閣府より認定された通称:ハウスワイン特区を活用した醸造ワイン造りなど、様々な取り組みをおこなっています。令和2年には川崎市農商工等連携モデル事業として、ぶどうや柿、竹の剪定枝を使用したバイオマス食器を開発。プロジェクトの成り立ちや、SDGsの取り組みについて話を聞きました。

農業生産法人 CarnaEst代表取締役 山田貢さん

自然豊かなこの土地で農業を活性化すれば、きっとまちは生き返る

——葡萄、柿、竹の剪定枝を有効活用したバイオマス食器が話題になりました。開発の経緯を教えてください。

川崎市の農地って市域面積の2%しかないんですよね。今ここで何もしなかったら地域で作る野菜がどんどん減ってしまうので、農家である自分が何かを発信しなければと思って考えたのが、SDGsに関連した商品を作ることでした。

ただ、SDGsに無理やり関連づけることはしたくなかったので、大学生や、もっと下の世代の子どもたちを巻き込んで“楽しむ”ことを一番に考えて、和光大学(CarnaEstと同じく鶴川駅近くに位置する)とタッグを組んだんです。具体的には“和光大学かわさきブランド”というプロジェクトの一環として学生に依頼し、体の不自由な方や、高齢の方、小さなお子さんでも使いやすいユニバーサルデザインの食器をデザインしてもらいました。

肝心の食器作りは、中原区にあるユニオン産業というバイオマスプラスチックの製造で世界的に有名な会社にお声がけしたところ、快く引き受けてくださって。川崎市北部における竹林の問題や、どうしても出てしまう剪定枝の利用法に共感してくださり、バイオマス食器の製作が実現しました。

縁の高さや仕切りのカーブなど、計算しつくされたユニバーサルデザインのバイオマス食器。

——どんな苦労がありましたか?

価値のある有価物は収集運搬の許可が必要ないのですが、ぶどうや柿の枝は一般廃棄物にあたるため、環境局の許可が必要で、間に収集運搬の業者を入れることを提案されました。でも、それだと莫大な費用がかかるので、「これから価値のあるモノに変えていくんです」と説明したのですが、それ自体に価値がないものを収集して運ぶことは認められないと言われまして。

そこで、剪定枝を使ったバイオマス資源の研究として申請し、1年間だけ許可をいただいたんです。量産したくてもできないのはそういった理由で、そこが一番のネックでしたね。

——素晴らしい取り組みなのに量産できないとは残念ですが、“和光大学かわさきブランド”は、ほかにも様々な取り組みをされていますよね。

岡上で採れた果物を使用したビールや、ジャム、ドライフルーツを始め、ワインの醸造過程で使用したぶどうに岩塩やハーブを調合したバスソルトを作っています。バスソルトの開発は、和光大学の学生から化粧品を作ってみたいという声が上がったことがきっかけです。私自身、若い頃にヘアメイクの仕事をしていたこともあって、果物から化粧品を作るという発想が面白いなと思い、その第一歩としてバスソルト作りに挑戦しました。

去年から田んぼも始めまして、ぶどうの搾りかすと稲藁を堆肥化したものを使ったお米も作っています。堆肥は明治大学の農学部に肥料分析をお願いするなど、循環型農業を農学部の皆さんと一緒に考えているところです。

自分ひとりではできないことも、色んな人を巻き込むことで自然と形になっていくんですよ。農地をなくしたくないという想いで様々な発信をしているうちに面白い人が集まってきてビジネス的なサポーターも現れるという、そういった流れでここまできました。

規格外のいちごを使ったデザートワイン。ほかにもクラフトビール「岡上エール」の製造や、ジャム、ドライフルーツの商品開発も。
ワインの醸造過程で使用したぶどうに岩塩やハーブを調合して仕上げたバスソルト。
“ぶどうの搾りかす堆肥“で作ったお米。リゾットに調理するのがオススメだとか。

——この環境アプリのテーマが“脱炭素”なのですが、そういった意味で言うと、農家さんは環境問題に左右されてしまう職種でもありますよね。

農業にとって自然環境は意識せざるを得ない問題で、昔から農業をやってきた人たちは、環境の変化に合わせて栽培するモノを変えてきたのだと思います。ワインの原料になるぶどうひとつとっても、温暖化が進む環境の中、どうすれば収益に繋がるような美味しいぶどうができるかを考え、何種類も育てて環境に合った品種を見つける必要がありました。

作物を量産するために肥料を使ったり、畑にマルチを張ったり、農業ってエシカルなイメージがあまりないと思うんですね。でも、そういったものを使わないで育てると人件費がかかりすぎてしまう。日本は野菜が安すぎて、私としては人参1本1000円してもおかしくないと思っているのですが、田舎は特に、おじいちゃん、おばあちゃんが一生懸命作ったモノを安く売って消費者に喜んでもらうという傾向があって、良くないなと思いますね。

農業の世界って60代でも若手と言われるので、41歳の私が色々なことを言うと怒られるかもしれませんが(笑)、草刈りもロボットでできる時代ですし、ビニールハウスもITで管理できますし、AIやloTなどを時代と共に上手く取り入れていく必要があると思います。

農園の草刈りをするロボット草刈り機。AIを上手く取り入れることで時間を有効的に使うことが可能に。

——そういった意味でも、大学生など若い世代の方とプロジェクトを進めることは、とても有意義ですね。

将来、農業をやる、やらないは抜きにして、これからの未来を作る人たちに農業の基本に触れてもらいたいですし、農業ビジネスを教えたいんです。和光大学のプロダクトデザインの学生と一緒にやらせていただいているのは、デザインってすごい力を持っていると思うから。目から入ってくる情報ってすごく大事で、デザインによって売上が全然違ってくるんですよ。「美味しいモノを作ったからデザインなんか関係ない」っていうのはもったいない話なので、ビジネスになるデザインを一緒に考えています。

そして明治大学の農学部の学生には、農業ビジネスをお伝えしています。農業って、生産からデザイン、販売まで外注なしで1から10までやろうと思えばできるんですね。流れの全てを経験しておくと、どんな仕事に就いてもその経験が生きるだろうし、広い目でビジネスを見ることができると思うんです。そういった意味でも、若い人たちに農業ビジネスを伝えていきたいと思っていますね。

——バイタリティーの塊のような山田さんですが、岡上という独特な土地で生まれ育ったことが関係していますか?

岡上に生まれて、若い頃に15年ぐらい青山でヘアメイクの仕事をしていましたけど、外から見た時に改めて岡上の農地の大切さを感じましたし、どうにかしてこの自然を残したいと思いました。人が住んでいる土地より自然のほうが多いこの土地で農業を活性化すれば、きっとまちは生き返る。いちばんはそこですよね。地域通貨も発行したいし、岡上の自給率を100%にしたいし、夢は広がります。飛び地という特殊な土地なこともあって、どこからも必要とされていないのではないかという劣等感を子どもの頃から感じていたので、川崎市はもちろん、横浜市、町田市からも“必要なまち”になることを目指して、これからも目立った発信をしていきたいと思います。

農作業って日焼けするし、虫も出るし、どっちも苦手な自分には向いてないと思っていて(笑)、だからこそ楽しくしたくて様々な取り組みをしているというのもあります。紫外線も虫も嫌いな自分が農業を楽しいと思えれば、若い人や女性も農業に触れやすくなると思うので、自分のような人がアプローチを続けることが大事だと思いますね。

川崎市とは思えないほど緑に溢れた美しい光景のぶどう園。岡上地区には、こういった田園風景があちこちに広がる。

——たのもしいお言葉です。では最後に夢を聞かせてください。

色々なことをしてきましたが、結局、自分が一番やりたいのは、まちづくりなんですよ。面白いコンテンツがたくさん転がっているこのまちを子どもたちの世代に繋げるにはSDGsの観点は外せないと思うので、これからも意識しながら色々なことに挑戦していきたいですね。

そして、学校の教育では学べないことをどれくらい地域の子どもたちに伝えられるかが大事だと思っています。農だけでなく、デザインに触れたり、建築に触れたり、カメラに触れたり、小さい頃から色々なモノに触れて育つと、その中から将来の夢が決まる子がいるかもしれません。私の周りには一級建築士の方や、岡上の山の植物や生き物を全部知っている方など、その道のプロがたくさんいらっしゃいます。そういう“尖った感性の方”と一緒に、これからも岡上を盛り上げていきたいですね。

築130年の蔵に併設された蔵邸ワイナリーで、ワインの製造工程を説明してくださる山田さん。
川崎市が内閣府より認定された「通称:ハウスワイン特区」を活用して醸造している「蔵邸ワイン」。新百合ヶ丘にある農家レストラン・Lilly’s by prometyでグラスでのみ提供されている。


書いた人・佐藤季子
編集プロダクション勤務を経て、音楽誌や演劇誌などエンタメ系の雑誌でライターとして活動。地元・川崎市では、麻生区の地域情報サイトロコっち新百合ヶ丘、小中学生で結成された麻生区SDGs推進隊(一般社団法人サステナブルマップ )の運営メンバーとしても活動中。