みんなでつくる循環型アート「Kawasaki Saori Artプロジェクト」
「差」を「織る」という意味があり、誰もが自由に楽しむことができる「さをり織り」。その手法を使って、廃棄予定の布を細長く裂いたものを横糸のかわりに織り込んで作るのが「Saori Art」です。障がいの有無にかかわらずアート作品で共生を目指す「studio FLAT」のメンバーが中心となり、手織り布を制作。展示や作家による作品販売、ワークショップなどを行っています。
その展示の中心メンバーである村瀬成人さんと、作家のひとりである中村圭子さんに活動についてお話を聞きました。
古い布を織り込んだ特別な織物「Saori Art」
——Kawasaki Saori Artプロジェクトでは、どのような活動をされているのでしょうか。
村瀬さん:例えば障がい者施設の中でもさをり織りを織ってポーチなどを作ってはいるんですが、低い賃金にしかならないんですね。そこに、アートとして価値をつけて販売して、きちんと障がい者の方たちが報酬を得られるようにしたいというのが根底にある想いです。そのために、「Saori Art」を利用した作品制作や販売、それと並行して、手織り布を市内に展示して、広くみなさんに知ってもらえるような活動をしています。
——Kawasaki Saori Artプロジェクトがはじまった経緯を教えてください。
村瀬さん:「studio FLAT」の理事長である大平さんのもとに、フロンターレの方から使用済みのタペストリーをいかした取り組みができないかと相談があったそうなんです。もともと「さをり織り」という織物は障がい者施設などではメジャーだったそうで、大平さんはその織物を利用して展示や製品化を考えていました。それに賛同した仲間が集まって「Kawasaki Saori Artプロジェクト」がスタートしました。私もその一人で、主に展示のアートディレクションを担当することになりました。まず川崎駅での展示を目指して「かわファン」で資金を募ることにしたんです。
中村さん:私はもともと古着をアレンジしたり、作り変えたりするのが好きだったんですね。川崎市の「かってにおもてなし大作戦!」というプロジェクトに参加した際に、Tシャツを覆面マスクにリメイクしたものを作ったり手作りのリュックを背負っていたりしたことが、主催の方の目に留まって、チャリティーショップでも作品を置くことになりました。そういった活動を見ていただいて、村瀬さんから「かわファン」の返礼品として「Saori Art」を使って何かできないかと依頼をいただいたんです。
村瀬さん:プロジェクトの仲間と手作り品の展示会に足を運んだ際に中村さんがつくった人形を見て、近くにこんなすごいものを作れる人がいるんだ!と。それでご連絡しました。
中村さん:返礼品のためのバッグや人形を作りましたが、古い布を裂いて横糸をつくる際に、どうしても使えない縫い目やタグの部分はゴミになってしまうんです。再利用のためにやっているのに、ゴミが出てしまうことに矛盾を感じて、それも活用しようと端切れをまるめたブローチをつくりました。
村瀬さん:そういった努力の甲斐があって、目標金額を超える支援があり、2022年の3月25日から4月25日まで、川崎駅北口の通路で規模な展示を行うことができました。それを見た方から、「うちでも展示してほしい」という話をいただくようになりました。神奈川県民ホールやかわさき市民活動センター、麻生区の川崎市アートセンターでも展示を行いました。いまは、川崎市7区全てでの展示を目指していて、6月には幸区での展示を予定しています。
多くの人の想いが一つの作品に
——材料の布はどのように集めているのでしょうか。
村瀬さん:地域の企業のみなさんにご協力をいただいています。フロンターレのタペストリーが始まりでしたが、フォトスタジオの「スタジオキャラット」からは古くなった衣装を、「カワスイ」からはユニフォームを提供いただいています。マルイファミリー溝口やノクティのテナントで、例えばオカダヤでは切り売りの布の最後の端切れをいただくこともあります。
——Saori Artプロジェクトを続けるなかで感じていることを教えてください。
中村さん:作り手としては、普通の布と違って簡単に加工ができないので、補強のためにミシンで縫うなどひと手間はかかるのですが、それ以上に作品づくりが面白いですね。というのも、どこを切り取っても同じ柄や色が無いので、すべてが唯一無二の作品になるんです。また、仲間がみんな「好きなようにやっていいよ」って言ってくれるので、やりがいもあって楽しいですね。
村瀬さん:展示の時にも、ミシンで補強していただくために、手伝ってくれる人がたくさんいるんですよ。織る人、縫う人、廃材を提供してくださる企業のみなさん、いろんな思いが全て詰まってできるのが「Saori Artプロジェクト」です。一般にアート作品は、作家さんが一人で作るというイメージがありますが布を集めるところから仲間を募って、裏方として作品を支えているところなどは、新しいアートの在り方なのかなと思っています。
——最後に、今後の展望について教えてください。
村瀬さん:展示を続ける中での「Saori Art」の名前が広まってきているのは感じています。これを一時のブームだけではなくて、どう定着させていくのかは考えているところです。みんなで作るアートなので、今以上に多くの方が関われるようになるのが理想ではないかなと思っています。また、展示の話も増えているので、川崎の公共施設で積極的に展示をしていきたいです。
中村さん:私はその展示作品が足りなくなるくらいに、作品が次々と誰かの手元にわたると嬉しいなと思います。そうならないと廃材から作品にする循環が生まれませんから。そのために、作品の販売もそうですし、「Saori Art」を見た人がインスピレーションを受けて、そこからまた新しい作品が生まれて広がっていくのも大切だと思うんです。例えば返礼品のブローチを見た高津高校の先生が、卒業式のコサージュとして使いたいと声をかけてくれました。さらにそこから派生してフロンターレの方から、商店街に掲出しているタペストリーをカーネーションにして母の日のプレゼント企画にできないかな、という相談があったんです。こういう連鎖がちょっとずつつながっていくといいですよね。
studio FLAT https://studioflat.or.jp/
Kawasaki Saori Artプロジェクト
クラウドファンディング
https://camp-fire.jp/profile/Kawasaki-Saori-Art-Project/projects
書いた人・松井みほ子
川崎市在住。出版社でファッション誌の編集に携わる。その後は編集プロダクションにて書籍、WEB、広告など媒体やジャンルに関わらず、幅広く制作。現在はフリーランスで編集・ライターとして活動中。