見出し画像

持続可能な暮らしを村から学ぶ。都会と田舎をつなぐ拠点「トカイナカヴィレッジ」

川崎市最大の自然の宝庫「生田緑地」。この緑地に隣接する「トカイナカヴィレッジ 松本傳左衛門農園」は、多くの樹々が茂る里山と農地、ツリーハウスを有する体験型施設です。年間を通じて野菜作りや、とれたての野菜を使った「農家めし」の提供など、さまざまな田舎暮らし体験ができます。今回は、助役の西山雅也さんに、お話を伺いました。

西山雅也さん
1965年、東京生まれ。資産運用会社勤務を経て、株式会社エー・ディーアンドシーで不動産事業部を立ち上げる。2011年に、トカイナカ不動産株式会社を起業。自然と人情が残り、都会とイナカの両面の良さもある川崎市北部を「トカイナカ」と定義し、自らも移住、2017年イナカを遊ぶ体験施設「トカイナカヴィレッジ 松本傳左衛門農園」を開設、都市農業をテーマに地主、生産者、市民、明治大学農学部と様々な課題にチャレンジしている。

地域の人がやすらげる都市型農地

――まず「トカイナカヴィレッジ」がどういう経緯で立ち上がったのかを教えてください。
 
もともとはここの地主であり明治大学名誉教授の松本 穣さん(現・村長)から、約5000坪もあるこの敷地を地域の農園として拓きたいという話がありました。渋谷からも直線距離で13㎞とアクセスしやすい場所にもかかわらず、一歩と入ると田舎のような風景が広がるこの場所を見て、「トカイナカ」というキーワードで始めましょうと。たくさんの方が農業を楽しんで交流できる場として開設しました。


ヤギやポニーとも会える

――具体的にはどういった取り組みをされているのでしょうか。
 
国交省では、都市農業の役割を示しているんですね。松本村長が、農園を運営するための法人を立ち上げたんですが、その運営方針がものの見事に一致していたんです。

都市の農業・農地の果たしている多面的役割

・農産物生産機能
食料生産等の 農業の基本的機能
・防災機能
災害時の避難場所、延焼の遮断、仮設住宅建設用地の提供など
交流・レクリエーション機能
農園での市民相互・農家との交流を通じたコミュニケーションの形成など
・癒し・リフレッシュ機能
生産・収穫の喜びや農作業を通じた老齢化防止、 園芸療法によるリハビリ テーション・精神安定等
・教育・学習・体験機能
自然や農業を通じた情操 教育や環境教育など
・リサイクル機能
農業の物質循環的機能を活かした、有機資源の堆肥化による環境保全型農業の実施
景観形成機能
潤いのある景観、日本の原風景、季節の変化を感じる風景等の形成
・自然環境保全機能
大気や水環境の保全、 生態系維持機能、遺伝資源保全など
・ヒートアイランド現象の緩和
農地や水路等の水の蒸散による気温上昇抑制効果等による気候緩和など 

国土交通省資料よりhttps://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/souhatu/h18seika/07syutoken/07_toshi_05honpen5.pdf

まずはこれらをすべて実現しようと考えて取り組みを続ける中で、昨年度にはこの項目を全てクリアしました。
 
具体的には新鮮な野菜を採って、農家めしレストランという形で農作物を提供したり、収穫体験をしていただいたり。地域の人たちが普段から自然に触れられてやすらげるように、ピクニックデーやお花見などのイベントを開催して気軽に訪れられるようにしています。

また、地域の伝統文化を守るようなこともしています。後継者の問題や相続などで畑がなくなり、ずっと育てていた歴史のある作物が育てられなくなることもありますよね。そういうのを、できる範囲内で受け入れています。のらぼう菜はその代表的なものですね。
 
地域の活動拠点の一面もあります。地域でお正月の飾りなどを燃やすどんど焼きをしていたのが、一度なくなってしまって。寂しいという声があったので、有志で集まって復活させようと準備の場所を提供したりして、どんど焼きを「とんもり谷戸」でまた行うようになったんです。今では1000人規模のイベントになっていますね。


川崎市の伝統野菜のらぼう菜

そういった活動の拠点としてこの場所を維持するための取り組みも行っています。5000坪というと、とても広く感じられると思いますが、実際には、ここをすべて農地にして農作物をスーパーに出荷しても誰も雇えないくらいの広さなんです。
欧米ではCSA(コミュニティ・サポーテッド・アグリカルチャー)といわれる地域支援型農業が普及していますが、農地を維持するためにはそういった仕組みづくりが必要だと感じました。そこで考えたのが、農業体験農園です。
農具、苗や種、肥料を支給して、利用者の皆さんは手ぶらで好きな時に来て農業を体験できます。その農業体験を通して、トカイナカヴィレッジの維持を応援していただくという仕組みです。


農業体験農園(貸し農地)のようす

――環境に配慮した取り組みについても教えてください。
 
川崎市の環境局から指定を受けて、家庭で作られた生ゴミコンポストの受け入れ先になっているんです。その野菜のクズなどを集めて堆肥(たいひ)にするコンポストがあります。
市内の子どもたちに、その堆肥を使って大根やジャガイモを育てもらって、それを収穫して持って帰ったり、ここで食べてもらったりと、循環する農業と地産地消に関する活動は絶えず行っていますね。
 

野菜くずなどの生ごみを堆肥にするコンポスト

また、脱炭素という面では、森林の保全ということが大きくかかわると思います。
トカイナカヴィレッジと協定を結んでいる宮崎県諸塚村(もろつかそん)では、今から20年前に村の森全体にFSCという国際基準の認証を受けたんです。
FSC認証の森林は、木をいつ植えて、誰が管理をして、どう手入れをして切り出したのがいつで、それがどこの工場を通過してここに来たかっていうのが全部QRで分かるようになっていて、とても厳しい基準をクリアしています。その木材を使ってこの建物を建てているんです。


宮崎県諸塚村との協定書

地方の暮らしから持続可能性を学ぶ

――宮崎県諸塚村もそうですが、『いなかの窓口』として、地方とのつながりもあるんですよね。
 
千葉県館山市、福島県飯舘村、島根県雲南市とは協定を結んでいて、村と連携をしたイベントを開催して、来場者の方に村の暮らしを体験してもらったりしています。
都市で働くとお金にはなるけれども、お金になる代わりに失うものがあったり、ストレスを感じたりすることもありますよね。ところが、特に自立している村というのは、お金ももちろん稼ぐんだけれども、ちゃんと人が人として暮らせるような仕組みや風土があって、両軸がバランスよく続いているんですね。そういったことを地方の方と付き合っていくうちに知って、これって今みんなが盛んに言っている持続可能性ってことなんじゃないかと気づいたんです。
全く同じことはできないにしても、それに近づけるような、エッセンスやコツを少しでもここに来た人が理解すれば自分の生活とか暮らしに活かせるんじゃないかなと思ってこの活動を始めました。


――そういった地方の方とのつながりはどのようにできていったのでしょうか?
 
こちらから一方的に、ラブコールを送って(笑)。最初はもちろん、知られていないので門前払いでしたが、相手の村会議員の方がこちらに来る機会があるときに立ち寄っていただいて、どんな活動をしているかを直接見ていただきました。また、館山市の場合は、令和元年の台風19号でたくさんの農家が被災されたので、復興のためのボランティア活動を微力ながら行いました。その時に「何かお礼をするよ」って言われたので、「お礼をいただいても困るので、得意な野菜を教えてください」と話して、生で食べられるトウモロコシの作り方を教えてもらいました。そういったことで、少しずつ輪が広がっています。
 
――ほかに、村の方から教わったものはありますか?
 
あるとき宮崎県諸塚村の方から「川崎には竹がたくさんあるけどなぜ干しタケノコをつくらないの?」って言われて。諸塚村では古くからハレの日に食べられていたもので、たけのこが伸びてしまったら、その竹を切って干して保存食にするというんです。
背丈ほどに伸びた竹を活用するもので、乾物なので日持ちがしますし、歯ごたえがあって、炒め物や煮物などでおいしく食べられます。
竹林の維持のためにも、すごく良いことだと思ったので、近隣の農家を呼んで講習会をしてもらいました。『ポイチク』と名付けて、レシピをつくったり、ラベルをつくったりしてプロモーションを主婦の皆さんにもお願いしました。
タケノコは売れるから良いんですが、その後に大きくなった竹を切るのは大変な労力がかかります。だから特にお年寄りは竹をそのままにしてしまっていたのですが、資源として利用できるので、大々的に広めていこうとしていたところ、コロナ禍となってしまって。今年から、また少しずつやっていこうと思っています。


タケノコ堀も楽しめる竹林。伸びた竹はポイチクにアップサイクルされる

――地方の方とつながることでたくさんの学びがありそうですね。
 
SDGsや脱炭素が叫ばれていますが、そういった地方の村では太古の昔から脈々と、そういった取り組みをし続けてきているんですよ。そこから学んで、真似をさせてもらっているので、トカイナカヴィレッジの活動は、自然と脱炭素やSDGsにつながっているんです。
 
――様々な活動をするなかで「トカイナカヴィレッジ」はどんな存在になっていると思いますか?
 
僕も東京生まれで、代々東京なので、田舎のない子だったんです。そうすると自然体験をするにはお金を払ったりとか、わざわざ時間を使わないとできなかったりするんですよね。
最近、自然体験の充実というのが文科省の指導要領に入っているんですよ。やっぱり勉強だけではなくて、自然のなかで自分から課題を考えられる能力を身につけてないと社会に出てから困るということではないでしょうか。
都心に近いところに、田舎を体験できる場所があるのは良いことではないかなと思うんです。


トカイナカヴィレッジ 松本傳左衛門農園

https://tokainaka.farm/
住所:〒214-0031 神奈川県 川崎市多摩区東生田4-1-6
アクセス:小田急線 向ヶ丘遊園駅からバス7分 JR/東急 溝の口駅からバス20分
※トカイナカヴィレッジは私有地のため、見学などの際は必ず事前にご相談ください
 

『Green Carb0n Club』イベント

農家めしつき農園体験ツアーin トカイナカヴィレッジ 松本傳左衛門農園
『Green Carb0n Club』の利用者のみなさまから、各25名様ずつ、計50名様を抽選にて無料でご招待します。当日は、記事内にも登場したポイチクづくりの見学や、とれたて野菜たっぷりの農家めし、ピザ窯体験など楽しいイベントが満載です。
 
概要:5月13日・14日 各日11時開始
場所:トカイナカヴィレッジ 松本傳左衛門農園
応募方法:みんながつながる環境アプリ『Green Carb0n Club』 をダウンロードのうえ、 貯めたGreenポイント(500ポイント)を使ってご応募いただけます。 ※当日の詳細は当選者にのみご連絡します。

村の暮らしの魅力はイベントで体感を!

バス停がすぐ近くにあるので、アクセス抜群。こんな場所に、こんな素敵な農園があったなんて!とびっくり。年中イベントが開催されているので、SNSをチェックしてその魅力はご自身でぜひ体験してみてください。また、『Green Carb0n Club』でも、イベントを予定しています。気軽にご応募ください!
 


書いた人・松井みほ子
川崎市在住。出版社でファッション誌の編集に携わる。その後は編集プロダクションにて書籍、WEB、広告など媒体やジャンルに関わらず、幅広く制作。現在はフリーランスで編集・ライターとして活動中。