夜の世界

私は、夜のお店で働くことが好きだ。一番やりたいことだ。

正直、はじめは、自分には向いてない、絶対にできないと思った。初出勤した当時、全身に緊張が走って、まともに会話ができなかったし、お客様に促されて、私の十八番である中森明菜の「少女A」を手足がガクガクに震えながら、必死に一所懸命に歌ったことを今でも鮮明に覚えている。また、普段はオーバーサイズやトレーナーにスニーカーというラフな服装を好む人間にとって、慣れないボディコンか!?というようなタイトなドレッシーな衣装、2桁近く高いハイヒール、威勢のある目元をした濃い化粧、そんな自分に慣れるまでには到底時間がかかった。

もともとお酒は好きだ。一番の唯一無二のパートナーである。飽き性な自分が、合法になってから唯一続いている趣味はひとり酒であるが、自分で飲むのと、それをアルバイトして飲むのでは雲泥の差である。
たとえ出勤中に嫌なことがあっても、嫌なことを言われても、楽しい!生きていて良かった!という気持ちや感覚が圧倒的に勝る。
それでも、出勤することは楽しかった。理由は分からず、それでも、居心地がとても良かった。お酒を作って、お話しして、歌って、話を聞いて、盛り上げて、どうやったら喜んでもらえるのか考えて、コミュニケーションをとる、グラスを拭いたり、おしぼり渡したり。私自身まだアルバイトでしか働いたことがなため、人間関係や売り上げの数等々シビアな部分は全くというほど、触れていない。きっと余計に、私にとっては至福の時間だ。楽しくてたまらない。勿論、いいことばかりでもないが、それでも、楽しい。自分に正直でいれて、心地のいい時間を過ごすことができる。


他のお姉さんたちや女の子がどのような背景があってこの仕事を始めて、どんな家族構成で、どんな人生を歩んできていて、どんな恋愛をしてきて、その話を聞ける機会があることもとても色濃い。みなさんには聞けなくとも、1人でも多くの物語を聞けることがこの上なく嬉しい。したたかで、鮮やかで、苦労と疲労の黒色で、ドロっとして、決してパステルカラーではない、ビビットな人生が1人1人を彩っている。大好きだ。大好きでしかない。

様々な話を聞く中で、夜の世界に入る女性は、なんらかのしこりがあると考える。みんながそうではないが、これまで夜のお店を通して出逢い仲良くなった人たちは、大半が本人のどこかにしこりがある。悪性でも良性でもない、「しこり」と表現したい。それぞれの持つ立派なしこりは人それぞれ解釈や捉え方は違うと思うが、そのような状況の中で生存して、働いて、誰かを支えてらっしゃる、どうやったらそのエネルギーのもと、生きてられるのかというくらいのしこりばかりだった。しかも、彼女たちはそのしこりを、笑顔で笑いまじりであたかも誰か他人の人生かのような話ぶりで語ってくださる。(私は少しフィルターがかかっているかもしれないが・・・)


何がいいたいか、私は夜のお店で「働く女性」と「その人自身の人生を知ること」が好きだから、夜のお店で働くことが好きなのかもしれない。


P.S. お酒は人生で最も、信頼してくれて容易く裏切ってくれるパートナー♡


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