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ホワイトアスパラ

ー 金融機関のプライドが顧客に役立つと思えない ー

 今日から雪まつりなのに雪がないんだよ。この冬は雪が少ないそうだ。充分に寒いと思うがそういうことでもないらしい。
こちらは今日のために日曜から前乗りして、それなりに英気を養い準備は整えている。大漁旗が舞う居酒屋で、掛け声と共に、いくらを盛るサービスが自慢の店で、魚も酒も頂いた。
 ほんとは恵比寿の飲食店オーナーに教えてもらった、塩ジンギスカンの店にまた行きたかったが、日曜の夜はやっていない。メニュー構成もシンプルだが飽きない、旨い。決して綺麗じゃないが、また行きたくなる店のひとつだ。
 …だからこういう観光客向けの店に入るしかない...。同行者との明日へ向けた下打ち合わせも兼ねている。明日朝会う金融機関の方は、なかなかの切れ者で、きっと話も合うと言う。夕方、支援先になるかもしれない社長とお会いするのも楽しみだが、同志となるかもしれない方と会うのもなんだかワクワクする。 
そして当日。「主要スケジュール(逆算)」という表で8つのタスクが整理してある。「経営改善計画策定まで」となっているものが2つあり、そのうちの一つが『経営実態の正確な把握』。確かに財務諸表だけでは見えない実態があるはずだ。
①棚卸や売掛金等の資産性の確認②経営管理体制でに課題の洗い出し
③原材料の仕入れ方法や在庫管理、工場オペレーションの実態整理等
とあった。コンサルタントとしては容易く使ってはいけない「等」が気になったが、書いてあることはそのとおり重要だ。
私が業務整理をさせてもらえれば、嫌でも表面化されそうなことが、きちんと書かれている。
 ビックリするような気迫は感じなかったが、なかなかの人物なんだろうと思った。そのときは。
「今日会って頂く社長はちょっと変わり者でして...。」そう言われたが、大丈夫。こちらからすれば、変わり者でないと思われる社長のほうが不思議だ。人と違うことを考えないでどうする。埋もれる会社を作りたいほうが理解できない。
受け身な発想の人間に社長などやってほしくない、は、言い過ぎだろうか。
 「あ、降ってきた」ようやく雪だ。なんだか嬉しい。子供に帰ってしまう。
少しだけ白くなってきた街を歩きながら、目当ての昼めし屋を探す。同行者がいつものように旨いラーメン屋を案内してくれる。ん-流石と言いながら食事を終え、社長と会うまでの時間があるので、雪の街で発達した地下街で座れるところを見つけ、コーヒーなど飲みながら各々仕事をこなす。
 そろそろ行きますか。朝会った金融機関に向かい、支援先の会社社屋に送ってもらい着くと、まあまあの古びた建物だ。これから再生しようというのだから、贅沢はしないだろう。
 お、玄関先にご自慢の商品が並ぶ。これか。子供の頃は、アスパラガスといえばこの缶の白いやつしか知らなかった。グリーンアスパラなんてのを知ったのは、大人になってからの気がする。
 この白いアスパラガスをちょいとマヨネーズを、いやたっぷり付けて食うのが子供の頃の楽しみだった。今どきはそんな子供はいないんだろう。だからよく食べたこの缶詰が売れなくなるのかなー。だとしたらむしろなんとかしたくなるなー。
うっすらそんな生意気なことを考えながら社長を待つ。
 「お待たせしました」元気な年配といった感じだ。社長は金融機関の方の説明に耳を傾ける。私を紹介してくれている。
次は私の出番だ。こんなこと出来ます、いつもの紹介をいつもより少しゆっくりめに話す。しっかり理解してほしい。
黙って聞いている。面白くないかー、そりゃそうだろうなー。「如何ですか」「どうですか」「どうなってますか」反応が知りたいので、確認してみる。
 少し笑みを浮かべながら、やりたいことなど話し始める。良かった。話はちゃんとしてくれる。そう嫌われてもないようだ。「じゃあもう直ぐにでも」こちらが驚くほど前向きな反応。
 まあじゃあ検討して進めましょう。金融機関がたしなめながら進める発言。
それではよろしくお願いします、と社屋を後にする。あとは空港に行き帰るだけだ。
空港に向かう駅にも、あのホワイトアスパラ缶があった。買うか。いや、また来た時に買おう。きっと買える。
帰路に付き、少しいい気分で雪の街を後にした。

 後日何度か連絡をもらったが、よくわからないことになっていた。
どうも金融機関同士の行き違いがあったようで、ことがうまく進んでいないらしい。社長はやる気だったのに…。
支援される社長と支援するはずの私の当事者同士は蚊帳の外。なんだか当人たちよりも周囲の大人が大騒ぎしているような構図になっている。大人っていうのは、変なプライドだかなんだか、気分がいいとか悪いとか、俺がやるとか仕切るとか、どうでもいいことで楽しい時間を台無しにする。社長と私は大人じゃなくて良かったのかもしれない。
 しかし、少し大人の事情も知っていないといけないようだ。「お解り頂けますよね」いや、わからない。わかりたくもない。子供だと思われるならそれでも結構、矛盾しているがもうこの歳だ、自分の正義まで曲げて仕事するつもりもない。

うまいんだけどなー、ホワイトアスパラも。大人のせいで旨いものが食えなくなるのは、たまらない。

先ずは現在地を確認して問題課題を洗い出す【業務ドック】

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