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映画評  「夢のアンデス」

 南米のチリで1970年史上初めて自由選挙によって樹立されたサルバドール・アジェンデの社会主義政権。米国CIAに支援されたアウグスト・ピノチェト将軍の軍事クーデターにより、アジェンデ大統領は射殺され、ピノチャト将軍による民主主義を否定した暗黒の独裁政権が生まれたのは1973年9月11日、チリでは「チリの9.11」として記憶されている。
 アジェンデ政権とピノチャト将軍のクーデターに関するドキュメンタリー「チリの闘い」を撮影した監督パトリシオ・グスマンは政治犯として連行される。釈放後、国内で撮影したフィルムを守るためにパリに亡命。亡命後持ち出されたフィルムで作成されたのが、「夢のアンデス」「光のノスタルジア」「真珠のボタン」のチリドキュメンタリー3部作です。

 「夢のアンデス」は、アンデス山脈の映像と、インタビューを主体として作られている。
 アンデス山脈(南米大陸の北から南まで続く延長距離7500Km世界最長の山脈、最高峰はアコンカグア6960メートル。南北に細長い領土のチリで、東側の国境は北から南までアンデス山脈)の映像は、雄大で美しい。インタビューで「私たちは、アンデス山脈に背中を寄りかかって座っているようだ。アンデス山脈に包まれて生きているようだ。」という。そして、チリ人は、アンデス山脈の自然の荘厳さに、信仰心を持って生きているという。日本の山岳信仰と似ていると思ったが、その自然のスケールの大きさは島国より大きい。
 インタビュうーは、映像作家、小説家、彫刻家、音楽家に行われその内容は。「軍事独裁政権時代の暴力」「ミルトン・フリードマンが主張する新自由主義が採用されたことで、貧富の格差が拡大したこと」「一部の売国奴による国の財産の海外への売り渡し」の話でした。これは、日本の今の状況とまるで同じ。どこの国へ行っても、独裁政権、新自由主義、売国奴のすることは同じなのか?
 チリ人は南米の各国の中で比較すると、勤勉で真面目な国民性だといわれる、映画の中でインタビューに答えるチリ人の印象は、本当に誠実さ勤勉さが伝わってきて、貧富の格差や、売国奴とひたむきに闘う姿に勇気づけられた。

映画の最後は、
雄大なアンデス山脈の映像とともに、「生きる喜びのあったチリを取り戻したい」と語る。

 この言葉、今の日本人がみんな思っている言葉じゃないかなと思った。「生きる喜びのあった日本を取り戻したい」と。

2019カンヌ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞、インディペンデント批評家賞W受賞。
岩波ホール 8月9日から11月19日まで
「夢のアンデス」のほか、チリ3部作の「光のノスタルジア」「真珠のボタン」を上映中

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