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シナリオプランニングが生んだ老舗企業の変化/まちづくりプレイヤーに聞くvol.3

こんにちは!勝山DMOの広報です。私たちのnoteでは、福井県勝山市を盛り上げようと頑張るまちづくりプレイヤーの声を紹介しています。
今回ご紹介するのは、勝山市で70年以上に渡り縫製事業を営む老舗企業株式会社ラコーム 代表の織田研吾さん
織田さんは昨年、勝山市が推進する「二拠点事業」(都市圏で活躍する人材と地元企業をマッチングし、企業成長を目的にサポートを行う制度)を活用し、社内に「シナリオプランニング」を導入・実施。なぜこのタイミングでシナリオプランニングを実施することにしたのか、その背景や社内にどんな変化が生まれたのかについてお話をお伺いしました。

株式会社ラコーム 代表の織田研吾さん

はじめに/シナリオプランニングと二拠点事業者について

「シナリオプランニング」とは、パンデミックや物価上昇など先が見えない時代に生きる今、このような環境変化に振り回されることなく、不確実な出来事をチャンスに変えていくための手法のこと。起こり得る不確実な未来のシナリオを設定し、それに対する分析や戦略を検討していくステップを経験することでより鮮明な未来を描くことができるというもの。

今回二拠点事業者としてシナリオプランニングを主導し、ラコームの企業成長サポートを行った講師は山本彩代さん。ファシリテーター/グラフィッカーとしての肩書を持ち、京都をベースにこれまで行政や企業の場づくりを成功させてきた専門家です。

大好きな勝山で事業を続けていくために

ー まずはシナリオプランニングを実施しようと決めたきっかけについて教えていただけますか?
2020年から始まった新型コロナウイルスによるパンデミックにより、世界における「この先の未来」が大きく変わりました。それに近年は物価上昇、人件費や資材費も高騰していますよね。人件費なんかは先進国と比べると日本の単価はかなり安くなってきています。これまでと同じことばかりやっていては、縫製事業なんかだとベトナムや中国にいつの間にか追い抜かされて、私たちが出稼ぎに出なければならない時代が来るかもしれない。老舗企業として危機感が高まるばかりです。でも私たちは勝山市が大好き。この地でずっと事業を続けていきたいという想いが強くあります。その想いを実現し続けるためには、いま何をすべきなんだろうと真剣に考えていた時に、地域おこし協力隊の西垣さんからシナリオプランニングの提案を受けて、取り入れてみようという流れになりました。

ー 経営者であるご自身だけでシナリオプランニングするのではなく、今回は社員を巻き込んで実施されたと思います。その理由は何ですか?
実は以前、商工会議所の補助事業でシナリオプランニングを受けてやった経験があります。その時は一人でやったのですが、経営者だけが世の中の変化に気づいて新しい未来を描いてるだけではダメだなと。社員自身が起きうる未来の変化を自分たちでプランニングして、それを「自分ごと化」できて初めて会社に変化をもたらすことができるのではないか、そんな風に考えで今回は営業部8名を巻き込みました。

様々なバックグラウンドを持つ営業部8名を巻き込みスタート

具体的なイメージが「変化」を生む

ー 実際にどのようなプロセスで進んでいきましたか?
講師の山本さん
主導で、4つのステップを踏んでいきました。
具体的には、
①これから変化しそうな要素を洗い出す(例:縫う技術が必要ではなくなる製品が増える、日本の環境規制が強くなる、中国の工賃が増える・・etc)
②その要素をグループ分けする
③グループ分けされた軸の中から2つ選ぶ
④シナリオ毎の未来を考える

4つのシナリオをつくる

事前準備では、社員全員に社会現象や時事リサーチなどの役割を受けてもらいました。その背景には、想像力を存分に膨らませてもらためであったり、共通して全員が同じ想いを持ってもらいたいという、私から社員への期待が込められています。

ー 進めてみて社員のみなさんの反応はどうでしたか?
やっぱり初めての試みだったのでみんな困惑していましたね(笑)こんな風に頭を使ったことない!という感想もありました。ステップの踏み方を観察していくと、今までより深く、社員それぞれの特性を理解する時間にもなりました。「こんな価値観を持ってたのか。」とか、気づきが多かったですね。

シナリオプランニングする中で様々な価値観が見えてきた

ー そんな気づきもあったのですね!実際に行動が変わったなどの目に見える変化はありましたか?
シナリオプランニングから未来をイメージできたり、プロセスを通じて同じ危機感や想いを持てるようになった社員は他のメンバーを巻き込むようになり、顕著に行動の変化がありますね。やらないといけないアクションに対するマインドセットもできたように思います。やっぱりイメージが膨らんだ人から「変化」していくんだなと、シナリオプランニングによるイメージ具現化の価値を感じましたね。

ー 大きな変化が生まれたのですね。それを主導した講師の山本さんの印象はいかがでしたか?
とても話しやすくて、講師としてはベストな方でした!私たちの職場には女性が多いので、女性同士楽しく会話しながら伝えたいことはスバっと発言できる、そんな場づくりが印象的でしたね。

老舗企業の未来を創るチャレンジ

ー シナリオプランニングで描いた未来を元に、今後チャレンジしていきたいことなどありますか?
私自身が設定したシナリオは4つあるのですが、その中でも一番最初にチャレンジしたいのは「縫製会社として自社プロダクトをつくる」ことです。ずっと前からDtoCのようなものづくりをやりたいとは思っていましたが、シナリオプランニングでその目標がより明確で意義のあるものになりました。
その流れで最近はアーティストの方々と残布を使ったプロダクト開発のコラボレーションを積極的に行うようにしています。コラボを通じて自社プロダクトのアイデアを膨らませていき、ゆくゆくはプロダクト開発・生産・販売の一気通貫の仕組みを完成させたいなと。また、それと同時に確固たるブランドづくりにも取り組みたいですね。
新事業立ち上げなどの多展開から、老舗縫製企業としての新しい未来をつくっていきたいなと思っています。

最後に、講師からコメントをいただきました

講師 山本 彩代さん

織田社長からは打ち合わせの段階から「地域と事業と社員の方について可能性と未来をまっすぐに見つめる姿勢」ゆえの躍動感や内に秘めたアイデアの種をお聞きし、誰かと共に創造する未来を見たいと願っている方だと受け取りました。社員の皆様はわからないながらも暖かく迎えてくださり、日々工夫を重ねながら製品を大切に作っておられる姿勢に信頼と奥ゆかしい魅力を感じました。

はじめは慣れない抽象的なプロセスや流れで戸惑いもあったかと思いますが、商品の話になってくると「この未来になったらうちの仕事ってこうなるかもね」「こういう未来の時、何の材料でやったらいいのかな」と社員の皆さんが複数の未来をイメージした発言がたくさん増えていたことが印象的でした。手を動かしながら未来を作っていく、体験しながら学んでいくことが合っている企業風土かもしれません。

今回、織田社長は「両利きの経営」の実践、つまり日々の既存事業の道とは別に、社会の変化に備えて”実験や学習をチームで行い続けながら新規事業を開拓する「知の探索」の道”も歩み始めたのかもしれません。お客様のもとに製品が届くまでに多くの企業を経るという”流れの一部”として存在しているラコームさん。アパレル業界の特徴上、社員の日々の生活実感以上に世界中の動きと直結していることが強みとなる未来の作り方があると思います。

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織田さん、貴重なお話ありがとうございました!
シナリオプランニングは企業の未来像が明確になるだけでなく、社内の「変化」を生む有効な手法であることがお話を通して良く理解できました。
今回のように、勝山市では企業成長を促進する「二拠点事業」を積極的に推進しています。今後も多くの企業の成長をサポートする取り組みを行ってまいります。
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織田研吾さんのプロフィール
1978年福井県勝山市生まれ。専門学校卒業後、大阪の縫製工場に就職。社内SE として働き、2年後に東京のOEM 企業に転職。海外生産管理業務を経験後、伊藤忠商事株式会社で営業と生産管理を担当。製造から営業まで全ての工程を経験した後、3年前に株式会社ラコーム 代表取締役に就任。近年は国内縫製業のイメージを変えるクリエイティブに取り組む他、まちと産業との一体化の取り組みからまちづくりを行う。

講師:山本 彩代さんのプロフィール
NPO法人 場とつながりラボ home’s vi
1990年大阪府四條畷市生まれ。2015年より京都市伏⾒区での市⺠のプロジェクト創出会議「伏⾒をさかなにざっくばらん」事務局・ファシリテーターを4年間務め、20を超えるプロジェクトが提案される場づくりに尽⼒。
可視化の強みを活かし、企業・NPO・大学のビジョン作りやプロジェクト伴走研修・講座を実施。2020年より「ティール組織」に関する学びの場を提供。ひとりひとりの可能性がひらかれ、多様な想いや考えを活かし合える組織と社会づくりにむけて日々探究・試行錯誤している。

共著に「はじめてのファシリテーション」(2019年 昭和堂)、「描いて場をつくるグラフィックレコーディング」(2021年 学芸出版社)。




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