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300万円で夫婦起業した会社を売却した当日の話。

 六本木で迎車を呼ぶ必要はない。いつだって後ろを振り向けば空車のタクシーが見つかる。

 僕は「次のタクシーがいいよね」と妻に確認し、最初に通ったセダン型をスルーし、丸み形のタクシーを止めて素早く乗り込んだ。
 行き先は、僕らの会社を買収する相手から指定された丸の内1丁目に固まっている銀行の本店。

 妻は前日に「一生に一度の記念日だから」という理由で表参道のサンローランで全身の洋服を購入していた。ちなみに総額約100万円で僕のカードを使うことになるので少しキレそうになったが、今だに婚約指輪もその他宝石類も港区ママのランドセル a.k.a エルメスのバーキンもプレゼント出来ていないので「さすがに今回は良いか」と溜飲を下げた。

↓当日の妻

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 僕はといえば2年前にオーダーメイドして結局一度も袖を通していないスーツを腹を凹ませながら着た。気温もグッと下がった2020年11月末。天気は雲ひとつない快晴。

「色々あったけど、やっとこの日を迎えたね。お互い頑張ったなー。ありがとうね」

 用意されていた10人用の会議室に通されると、買収側の方達が4名、M&A仲介会社から2名、銀行が4名、そして僕ら夫婦が入ると椅子が足らないし、密だし、誰がどこに座ろうかなんてワチャワチャながらも、その状況を利用しながら、それぞれがしっかりテンプレに沿って名刺交換。 
 そしてここでトラブル、というかもはや予定調和。妻の麻美(僕の9つ下。夫婦起業で社長になる前は古着屋でアルバイト店員)が名刺を忘れるという失態。
 これまで何度も何度もビジネスシーンで忘れて、その度に僕は厳しく注意し、彼女も反省もしていたはずなのにまさかの最後でも忘れるとは!

「いやいや、もうこの会社で社長の名刺を渡すの今日が最後だったんだよ!?えーー、忘れる?」

「いやーー、まぁでもカツオ(僕)が交換してるので何かあれば、、」

そうだけれども。そして忘れて困った事たしかに一度も無いけれども!

 全員が着席し必要な書類を全てテーブルに並べる。生々しく列記すると、会社実印、通帳、銀行印、法人カード類、会社の鍵、その他契約書に、個人の実印やらやら沢山。そこから押印リレーがはじまり全ての準備が整い銀行もチェック。
 すると今度は若手の銀行員が書類をもってリレー。部屋を出たり入ったり。最後の走者と思われる方が戻ると、今回の買収に関わる銀行の担当者が

「それでは今より送金いたします。月末ですので処理が完了し着金まで20分ほどかかるかもしれません」と言いながら椅子を引いて立ち上がると、会議室の端にあった受話器を持ち上げ
「それでは振込実行して下さい」と言った。
 
 僕が人生で聞いた中で1番興奮した"振込"という音だった。

 事前に何度も「スマホのアプリで残高照会ができるか確認しておいてください」と仲介会社に言われていたので、いつでも準備はオッケーだった。

「では、そろそろご確認をおね・・」

言い終わる前にログインして残高チェック!!おぉ!!見た事の無いナンバー!

 いくら事前に契約を結んでいようと実際にお金が振込まれるまではM&Aは完全に成立しているわけではない!と思っていたので僕は画面を見て安堵しつつも興奮して、

「ちゃ、着金しております!ありがとうございます!」

と伝え、妻の方を向いた。すると、

「え〜まじで?どれどれ」とスマホを持ち上げた。

さっさと確認しろよ!!

 そのあとは簡単。僕らが持参した実印や通帳や書類や印鑑などを買収側に渡し、無事にM&Aの取引完了。同時に我々は役員を辞任、さきほど交換した名刺にある記載は過去のものとなり、晴れて無職となった。

 パレスホテルの個室に移動すると、M&A仲介業者が関係者の昼食会を開いてくれた。乾杯では「この度は良いご縁で両社のM&Aが締結され〜」とまるで結婚式のような挨拶だったが、事実、デューデリが綿密なだけで結婚と同じようなもんだなと心底思った。
 シャンパンを飲みながら半年近くにわたる厳しいM&Aの交渉や打ち合わせなども吹き飛ぶほど和やかな歓談が続き、僕らが作った会社を彼らにお渡しできて間違いなかったと本当に嬉しく思った。

 起業して6年半。数字的には会社は順調に成長しつづけたが、手探りで自分たちの会社がどのような状態か分からずにいた。しかしM&Aにより多くの方が会社の内容を細かく調査した結果、最終的に評価いただき買収までしてくれたことを誇りに思う。
 
  昼食会が終わると、まず起業前から僕を旅に放り投げたり、相談に乗ってくれたり色々と全力でサポートしてくれた先輩経営者のアニキに報告。とても喜んでくれたし、なにより僕も結果を出したことで彼のアドバイスが間違っていなかったことを証明できて安心した。

 (ただ、なんだろうか現役でバリバリ経営者として頑張っているアニキに連絡をしたあと興奮状態になり「しばらくは釣りでもして少しゆっくり」なんて思っていたのだが、やる気が出まくってしまい、路上で「うぉー俺はまだ、こんなんじゃ満足出来ねぇ!もっともっと成り上がってやる!」と声を荒げ、すぐ起業したくなったことを念の為ここに記しておく。注意:1年経ってまだ何もしてない)

 冷たい風が吹き抜ける丸の内で、まだ時間が早かったので妻に
「これからどうしようか?」と聞くと、

「ゆっくり散歩でもしていこうよ」とのこと。

もう僕らは振り向いてタクシーを止める必要はなかった。

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 翌日12月1日から、今まで会社に関わってくれた方々に順次連絡をし感謝とともに引き継ぎを含めた面談のアポを取りまくり忙しい年末、新年を迎えることとなった。
 コロナの影響でオンラインMTGが増え、スムーズに引き継ぎもおわり2021年4月から僕らは完全に仕事もしなくなった。

 人に会うと毎回聞かれることがある。「仕事しないで、いつも何してるの?」と。

 僕も「俺っていつも何してるんだろ?」と思うので皆んなが疑問に思うのも無理はない笑

 ざっと書くと、朝は子供を送り、そこからジムにいってトレーニング、時間があれば読書。昼は家で簡単に済ますか、妻が空いていればランチ。午後は投資している状況をチェックしたり、人と会ったり、子供の学校や習い事の送迎したり、サウナ行ったり趣味して遊んだり。そしたら夕方になるので家族でご飯食べて、夜は妻とNetflix観たり。
 妻は僕より忙しくしていて、趣味のポールダンスにどっぷり。空いてる時間は英語の勉強したりママ友と会ったり、youtube撮影したり、今までできなかった家事や料理、子供の世話をして主婦して大変充実しているようだ。

 自分もこのような状態(今風に言うとFIRE)になって気がついたが、僕らのように働かず生活している人が実は周りにかなり存在していた。皆、毎日何してるんだろ?笑

 起業前も起業しても、しばらくお金が本当に無くて。今までの人生でお金が足りている状態がなかったので、いつもお金が欲しかったし、欲しい物は我慢が基本だった。
 そして会社が順調に回りだしてから、給料を取れるようになり、そして今回のM&Aで手にしたお金も含めて、多少の余裕を手に入れたのだけど、それで気がついたことがある。

 以前はとても天井が高いと思っていた「たいていの事はお金で解決できる」って言葉。そのレベルって僕が思っていた想像よりずっと低かった。誰でも普通に働いていたら解決できちゃうと思う。
 むしろ、少しお金を手に入れたら「世の中、お金で解決できないことだらけだなぁ」と今更ながら強く思う。お金より大切なものって、ほんとゴマンとある。

 当たり前だけど、別に何億、何百億、何千億もってようが車を同時に何台も運転できないし、着れる洋服の枚数も決まってるし、いきなり筋肉バキバキの良い体になるわけでもない、隣の国に1秒で行けるわけでもない、病気を治せるわけでもないし、心を許せる友人ができるわけでもないし、なんならハゲひとつ治らない(孫さんやジェフベゾス見ればわかるよね)。とにかく金で買えないものを数えたらキリがない。

 そんな当たり前のことに気がついて、あんなにずっと恋焦がれて欲しくて欲しくてたまらなかったお金を手にしても、僕は何一つ変わらなかった。良くも悪くも。

 自分で言うのもなんだが、お金を手にしても等身大の自分で過ごせるほどに成長していた。グッジョブ、俺。

 少しタイミングがずれていたら勘違いしていたかもしれない。手に入れるべき時に手に入れた気もする。今は家族が幸せに暮らせるために、そして次の目標のために今ある資金を活用していきたい。

 この投稿タイトルと話がズレてきたのでそろそろタイピングをやめたい。
いま、僕は人生の第3章に向けて、起業前の旅からnoteを綴っている。もし良かったら僕のnoteやTwitterをフォローしていただけたらモチベーションになります笑

 また今、一つの目標であるアメリカ移住をしようと動いています。それについてもたまに発信し共有できたら幸いです。

 それでは、みなさん2021年もあと1ヶ月。お互い健康には最大限気をつけて、人生を最大限エンジョイしましょう!

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僕のプロフィールはこちら(先輩経営者アニキとの話)
ホームレスになったヒモ男、世界一周したら小金持ちになった話。

僕のTwitter

たまーーにyoutubeもやってます笑


M&A仲介業者の会報紙に取材されました。ご興味あれば。

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