真庭でなりわいを持つ人々〜『真庭なりわい塾』がはじまる〜
岡山県北部、県境を鳥取県と分かち合う真庭市。地形は南北に長く、県内の市町村で最も面積が広い。四季の変化に富み、今シーズン、北部では全国ニュースに載る大雪も降った。自然に囲まれたまちである。
まもなく第7期の『真庭なりわい塾』がはじまる。塾では月に一度、1泊2日のプログラムを中心に、農山村のライフスタイルを約半年間で学ぶことができる。昨今、“どこで暮らすか”の選択肢は日本中にあるが、ゆっくりと土地に触れられる機会は多くない。とはいえ、真庭でなりわいを持つ人々は、どのような思いで日々を過ごしているのだろうか。今期の舞台となる真庭市南部の北房地域を中心に、6人の方に話を伺った。
3月中旬、真庭は初春の落ち着いた青空が広がっていた。最初に訪れたのは、きよとうファームの平泉繁さんと、きよとうカフェの谷本吉照さんのもとだ。
「大阪にいた当時はIT関連の企業に勤めていて、1歳と3歳の子どもがいました。北房に来たのは、田舎暮らしをしたい思いがあって、生活のバランスも取れる場所だと思ったから。農業組合法人に就農して、現在にいたります。法人は果樹園・カフェ・ファーム(加工・販売)の3つに分かれていて、今はきよとうファームという会社を経営しています」
平泉さんが社長を務める「きよとうファーム」は、果樹園で栽培する桃・葡萄・梨の直売や、加工品の販売を行なっている。会社を設立して丸2年、自分たちでいかにして商品を届けるか、挑戦が続いている。
「ぼくは家族を連れて、勝手に移住して来たんですよね。だから、家族に対しては北房をふるさとだと感じてもらいたい、という使命感がありました。そのためには自分ができる範囲でまちを盛り上げたい。ずっと変わらずその思いです。会社で今あたらしい取り組みをはじめていることも、成果を出せたらいいなあと。それに、従業員が多くいるわけではありませんが、良かったことも悪かったことも分かち合えるチームが目の前にあって、すごく幸せだなと。ワンチームでがんばることが、今のやりがいです」
「半分は冗談だけれど、半分は本気で200歳ぐらいまで生きたいんです。小学校も中学校も、どの年齢でもたのしいことはありましたけれど、今は今でいちばんたのしい。寿命が足りないかもしれないですね」
「きよとうファームの平泉さんとは、北房でのキャンプ場のイベントで出会いました。それからカフェにも遊びに行くようになって、今はオーナーをさせてもらっています。やっぱりここで育った果物が美味しいんです」
谷本さんはきよとうカフェのオーナーだ。ほかにもイベント企画や音響の仕事など、真庭市全体で幅広く活動している。困ったことがあれば谷本さんに相談する人も多い。
「北房に戻ってきて、最初はつながりも少なかったです。ただ、徐々にコミュニケーションが取れるようになって、気持ちも楽になりました。真庭は横のつながりが深いです。マルシェをひらくにしても、出店者同士でつながっているし、イベントをお願いするスタッフ同士もつながっている。その関係性がいいなと思っています」
そして、「いろんな方のやりたいことをサポートするのがやりがいだ」と谷本さんは仰った。
「人とつながることはたのしいし、裏方が好きなんです。もちろん価値観の違う人と出会うこともあります。だから、無理はしすぎないようにですが、でも出会いをたのしみたい。真庭や北房をこれから訪れる方にも、ぜひ固くなりすぎずに来てもらいたいです」
気さくに笑顔で話をしてくださった、谷本さんらしい言葉だった。
「大阪の移住相談窓口で林業をやりたいと相談して、真庭なりわい塾の存在を知りました。当時の仕事は多忙で、共働きの妻も体調を崩したり、子育てにも影響が出ていて。北海道や和歌山や愛媛、いろんな移住先を探しながら、塾に参加しました。初回で井尾(いのお)集落を歩く時間があって、まち並みがすごく気に入ったんです。それもあって移住したい思いが増えた感じですね」
小林さんは移住して1年間、森林組合に林業従事者として勤めた。ただ、勤める前の面接で、自身の気持ちも腹を割って話をしていた。
「実地で林業の仕事をしたい気持ちがあって、森林組合で働かせてもらいました。ただ、面接の段階で、翌年は岐阜県美濃市の森林文化アカデミーに行きたいということも、相談したんですね。将来は里山資源を活用するなりわいを持ちたくて、そのことを相談した上で働かせてもらって。造林と育林に関するひととおりの仕事を経験させてもらいました」
春からは家族で岐阜県に住居を移す。真庭を離れることを前向きなチャレンジとして、森林文化アカデミーの学生になるのだ。小林さんは“生きる力”という言葉をよく使う。
「“生きる力”をつけたいんですよね。そして、自分の夢となりわいを掛け合わせたい。だから、岐阜でより力をつけて、また、北房に戻りたいんです。自分ひとりでやるのではなく、仲間も集められたらと思います」
優しい笑顔の小林さん。その心は熱く、挑戦はこれからも続く。
「パートナーが真庭市の地域おこし協力隊になった縁で移住しました。今は旅人食堂というカフェをひらいています」
パートナーのカンさんは、現在進行形で俳優・演劇の道に進む真っ只中。工藤さんはカンさんを応援し、旅人食堂をひとりでも営業できる形に変えた。
「わたしはですよ? やりたいなら、やってみるのがいいんじゃない、っていう。もし心の中でやりたいことがあるのに、それをためらって誰かのせいにしてしまったら、嫌じゃないですか。一歩踏み出すのってすごく怖いけれど、思い切って踏み出してみたら楽しくなる。人生は変わりうる。だから、あたらしいチャレンジって怖いし面倒なんだけれど、やりたい気持ちがあるなら、やってみる。人のせいにしちゃいけないな、と思います」
そして、工藤さんが好きなのは、日々変化する真庭の風景だ。
「真庭の風景もやっぱり好きで。春夏秋冬。車窓の風景が毎日違うんです。都会ではなかなかない。嵐の感じも好き。川が轟々としているところも、すごいなあって。イグアスの滝を思い出してみたり。蒜山を見たらスコットランドっぽいぞとか、ここにはいろんな国があるなあって」
藤田さんは岡山県新見市の出身。横浜の設計事務所に就職し、岡山に戻ってからは真庭市の温泉旅館にも勤めていた。その後独立し、キャンプ場やシェアハウスの管理人、オンライン配信のコーディネーター、地域コーディネーターなど幅広く取り組まれている。活動のテーマは生活と仕事がゆるく溶け合う「暮らし」を追求すること。
「今までは勤めた後、リセットするために長い旅もしました。それがここで暮らすようになってからは、1日でリセットできたりするので、自然に力を抜くリズムができている気がします」
そして、今年はより本格的に余野地区の小学校と一緒に活動を進める予定だ。
「学校と地域をつなぐコーディネーター役もしています。小学校がコミュニティースクールという制度を導入しているので、学校の中だけでは完結できないことを、地域の人たちと一緒にできるようにする制度です。子どもたちに学校教育以外のいろんな経験をさせてあげたい。余野の良さを発信したいと活動している中高生のグループもあって、すごいなと思っていて。これからのライフワークですね」
「やりたいことの優先順位として、地域のことをやりたいということが先なんです。それをこなすために、どのような仕事ができるかと考えているので。余野で暮らすようになって、大変な部分もありますけれど、やらなきゃっていう気持ちです」
「大学を出て戻るかどうか考えたけれど、そのときは関西が好きすぎて、一度地元ではないところで就職しようと。なりわい塾を知ったのは社会人2年目のときです。旧北房町出身だから、町村合併後の『真庭市民』という感覚があまりなくて。でも広告を見つけたときに、自分の知らない真庭であたらしい何かが始まろうとしていると感じました」
そして、ふるさと北房や真庭市全体のことを知るようになった。
「昔はないないない、ないものだらけの地元みたいに思っていたんですけれど、なりわい塾に参加して、今は人とのつながりができました。それに真庭は自営業のお店が多いじゃないですか。だから、続ける力がある人も多いのだなあと感じていて。なかったら自分でやればいいじゃんって。この前も土日に映画祭があって、なければつくろうと思っている人たちがいるんだなあって。利益だけじゃなくて、人が集まる場所をつくる。個人第一主義ではなく、みんなのために。真庭はみんなのことを考えて過ごしている人が多いんじゃないかなあと思います」
門野さんは現在、真庭なりわい塾の運営事務局のひとりだ。
「なりわい塾にはモヤモヤした悩みとか、どう表現したらいいかわからないとか、いろんな悩みを持っている人がいます。一方で、すでに何かを始めている人もいます。だからどんな立場でも、気軽に相談できる仲間が増えるのが、なりわい塾のいいところだと思うんです。事務局に入って感じるのは、参加者の中には仕事でいろいろあって気がめいっていたり、今は仕事を休んでいるという方もいるんですけれど、回を重ねるごとにそういう方の表情が良くなっていくんです。それは塾だけの魅力じゃないかもしれないけれど、いいなあって。変化に気づけるようになって、うれしいですね」
そして、いよいよこれから第7期の募集がはじまるのだ。
写真でも真庭を振り返り。
人間はほんの少し先の未来も知ることができない。だから、「わからないけれどやってみる」人もいれば、「わからないことはやらない」人もいる。でも、今回出会ったのは、「何かを変えなきゃ」そう信じてアクションを起こしてきた人たちだった。不安があってもそれを勇気に昇華させて。そして、みなさんの表情は明るかった。
「地方」や「移住」という言葉が持つ内容に、ひとつの答えはない。日本には1700を超える市町村がある。お試しで1年ずつ暮らせば、1700年かかるのだ。壮大なジグソーパズルの中から、自分に合うピースを選び出す作業。そのことを急ぐ必要はない。そして、真庭なりわい塾は、土地をひらいて待っている。少しだけ先に住んでいる人たちが、一緒にピースを探す仲間になってくれる。確かなことは、ここには土地のあたたかさがあるということだ。
興味のある方は、是非プレイベントからご参加ください。取材にご協力いただいた北房を中心とする地域のみなさん、本当にありがとうございました。
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●岡山と大阪にてプレイベント開催!
4/22(土)岡山国際交流センター
4/23(日)FUN SPACE DINER
※岡山会場は、オンラインでも配信予定です。
参加費無料/定員60名/先着順・要申し込み
詳細はこちら↓
https://maniwa-nariwai.org/2023/02/14/4-22-23/
●真庭なりわい塾「第7期」塾生募集中!
詳細はこちら↓
https://maniwa-nariwai.org/
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取材に協力いただいたみなさん〈掲載順〉
◯平泉繁さん(きよとうファーム)
https://afw-at.com/page.php?id=656
◯谷本吉照さん(きよとうカフェ)
https://cocomaniwa.com/maniwabito-006/
◯小林建太さん(林業従事者・なりわい塾卒業生)
https://cocomaniwa.com/maniwabito-019/
◯工藤朋子さん(旅人食堂)
https://cocomaniwa.com/maniwabito-008/
◯藤田亮太さん(なつつばき・シェアハウスいとくる)
https://www.hotosena.com/article/14488948
◯門野由貴さん(流しのBar、なりわい塾卒業生)
https://www.facebook.com/yakiimoshop.kadono/
ポカリスエットを買います。銭湯に入ります。元気になって、写真を撮ります。たくさん汗をかいて、ほっと笑顔になれる経験をみなさんと共有したいと思います。