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正解のない世界で「正解らしき」を見つける - Weight of Evidence

情報は時代とともに陳腐化する。考えてみると、以前は正しいと思ったことも、現在ではそうではなくなったことがたくさんある。

マーガリン vs バター
子供の頃は動物性脂肪のバターより、植物由来のマーガリンの方が健康に良いとマーガリンが朝の食パンのお供に推奨されていた。でもその後、マーガリンには、非常に不自然で健康に悪いトランス脂肪酸が含まれることが広く知られるようになった。動物性脂肪でも、より自然なバターの方が見直された。そしてその後、今度は技術改善によってマーガリンに含まれるトランス脂肪酸の量がぐっと減った。これでマーガリンの健康への懸念は解消され、これからも正しい情報なのか? マーガリンは健康食品に返り咲いたのか?

卵とコレステロール
卵は栄養価が高いが、コレステロールが多いので以前は1日2個までと推奨されていた。ところが今では卵のコレステロールがそのまま体の血中コレステロール値に移行するわけではないことが分かり、制限など設けずに積極的に摂取するよう推奨されるようになった。本当にこれで将来も変わらないだろうか?

牛乳が骨を強くする
子供の頃は、牛乳はカルシウムが豊富なので、骨を強くすると、牛乳が推奨された。給食の飲み物としても毎日出されていた。現在では、牛乳を含めた乳製品が本当に日本人の体に合っているか? 本当に骨を強くするのか? 議論が分かれているようだ。

正解のない世界で「正解らしき」をみつける

学校のテストでは唯一無二の正解があった。テストの後、答え合わせをすれば、どんな答えが正解で、どんな答えは不正解かが明確に分かる。

ところが実際の世界では、唯一無二の正解などない。人生は選択の連続だが、「正解らしき」を選択し、その答え合わせは、遠い将来だ。そしてその答え合わせもとても曖昧だ。ある仕事を選んだ。ある会社を選んだ。ある恋人を人生の伴侶として選んだ。数年後の答え合わせでは「不正解だった」かもしれない。ところが、10年、20年後に振り返ると「正解だった」に変わっているかもしれない。そして更に遠い将来、その答えが再度変わるかも。。。

さらに困ったことに、自分が選択しなかったことに関しては、答え合わせのしようがない。選択しなかったため、結果がないので、正解か不正解かは検証のしようがない。選択しなかったことが、自分の夢や本当にやりたかったことだった場合は、「選択しなかったこと」自体が「とんでもない大きな不正解」だったと一生悔やむことになるかもしれない。

Weight of Evidence

VUCA*の時代、あまり余る無数の情報の中から、自分にとって重要な情報を絞り出し、自分にとっての「正解らしき」を見出さなければならない。こんな時、アメリカのビジネス、特に僕のいるバイオサイエンスの業界でよく使われるのが Weight of Evidence Approachだ。要は、現状で最善と思われる情報を可能な限り集め、それを自分なりに体系化し、優先度をつけ、そこから最善と思われる「正解らしき」を落とし込む戦略だ。

* VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)

ビジネスでは、ひとつ、あるいは限られた情報を提供するだけの人材で終わるか、それとも複雑な情報を体系化し、Weight of Evidence Approachで、問題解決策まで作り出せる人材になれるかで、人的資産価値が大きく変わる。僕が行っているWeight of Evidence戦略を振り返ってみた。

1.ロジカルシンキング(論理的に考える)

ある件に関して、「正解らしき」を見出さねければならない時、それに関わる情報を可能な限り集める。仕事のプロジェクトの場合、自分で調べ上げた情報、チームの仲間にやってもらった実験結果などさまざまなものがあるだろう。それらを自分の中で消化して、論理的思考で優劣をつけ、それをもとに「正解らしき」の落とし所を見出す。良質な情報を可能な限り集めることも大切だが、ビジネスの場合、時間との勝負のことも多い。自分のプロフェッショナルな領域ほど、良質な情報を短時間に集めるセンス、集めた情報をロジカルに体系化するセンスが研ぎ澄まされているはずだ。

2.ラテラルシンキング(常識を疑い、閃きで考える)

いわゆる、通常思いつかない「目からウロコ」のアイディアを組み入れることだが、僕は2つの戦略を利用している。1つ目は、矛盾しているようだが、1のロジカルシンキングを徹底的にやること。そうすると自分の潜在意識に重要情報が体系化されて蓄積される。その状態で寝かせる。自然の中を散歩している時、ランニングしている時、お風呂に入ってリラックスしている時、ボーッとしている時に、閃きが降りてくることがある。

もう一つは、他人の頭を借り、同時に自分に外部刺激を与えることだ。こちらも1のロジカルシンキングをもとに、自分のまとめた「正解らしき」をチームの仲間にプレゼンして、アウトプットし、そこからフィードバックをもらう。自分のロジカルシンキングに自信があればあるほど、そして、それに対して仲間からの反論のフィードバックが激しければ激しいほど、腹立たしい。ところが、そのフィードバックが腹立たしければ腹立たしいほど、「目からウロコ」のアイディアが潜んでいることがある。

このラテラルシンキングから得た「目からウロコ」のアイディアを盛り込むことで、「正解らしき」は更に際立つ。時には、ロジカルシンキングのみで考えた際とは全く異なる「正解らしき」に変貌することもある。

3.イカすストーリーにする

実は、これがWeight of Evidence Approachの最大のメリットかもしれない。Weight of Evidence Approachは、行程を踏んで、「正解らしき」を見出し、磨き上げていくので、最終の「正解らしき」ができた時、それまでの行程が、超イカすストーリーになっている。この「正解らしき」を作り上げたイカすストーリー自体が、自分を熱くする。そして、チームの仲間を熱くし、結束させる。「正解らしき」を、本当の「正解」にするため、実際のプロジェクト活動の質も速さもバク上がりするのだ。つまり、「正解らしき」を本当の「正解」にする確率を上げてしまうのだ。


Weight of Evidence Approachは、仕事・プロジェクトだけでなく、人生で起こるどんな決断、選択、問題解決にも応用できるパワフルなツールだ。

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