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ひらめきのメカニズム:無意識と暗黙知による仮説

はじめに

参照記事1では、システムアーキテクチャの分析経験を活用して、知能のアーキテクチャを考えてきました。この知能のアーキテクチャの上で、考えを深化させようとしています。この記事ではいくつか気づきや発見があったことをトピックとして書いていきます。

再生と多様化

私は生命の起源の探求も行っています。生命の起源は細胞の誕生までの出来事を考える事ですので、生物の進化のメカニズムである遺伝子はまだありません。遺伝子の自己複製がない状況で、どうやってシンプルな有機物が複雑な機能を持つ細胞に進化したのか。私は工場で部品の組み立てのような仕組みがあったと考えています(参照記事2)。

一般に生物の進化と繁栄は、遺伝子の自己複製と変異の繰り返しがキーだと考えられています。有機物は生産と変化の繰り返しで、進化と繁栄が行われたと私は考えています。

この2つの分野の進化と繁栄のキーを合わせて考えると、「再生」と「多様化」が共通のキーになっていると言えます。遺伝子の自己複製が再生で、変異が多様化です。有機物では、生産が「再生」で変化が「多様化」です。

私はこの再生と多様化という枠組みで、知能の機能を捉えることができると考えました。上手くそれができれば、有機物や遺伝子との対比で、知能のアーキテクチャやメカニズムにも新しい洞察が得られるかもしれません。もちろん、逆に生命の起源の探求にも気づきが得られる可能性もあります。

そこで、知能が扱っている知識について、生産と多様化という観点で考えてみます。

知識についての再生は2つの面があります。1つは遺伝子のように人から人へと知識がコピーされていくことです。もう1つは頭の中の記憶から、知識を意識の上に思い浮かべて使用することです。記憶された知識は、必要に応じて意識の上に再生される、という考え方です。

ひらめき

知能には、時々、ひらめきと呼ばれる現象が起きます。このひらめきのメカニズムが分かれば、有機物の進化の過程のヒントになるかもしれません。

ひらめき現象の分析の着眼点

ひらめきのメカニズムで大事なことは2つです。

1つ目は、ひらめきが無意識の状態で起きることがあるという点です。ひらめき現象にも様々なパターンがあると思います。私は経験的に、集中して考えている時ではなく、何気ない日常生活を送っている時や就寝前後にひらめきを得ることがあると感じています。実際、ひらめきを得るためのテクニックとして、いったん考えるのをあえてやめて無意識の状態を作り出すというやり方もあるそうです。

2つ目は、トレーニングが可能であるという点です。もちろん新しいことを発案するためには、知識の幅を広げることも大事です。本を読んだりネットの情報を集めて知識を増やすことで発案ができることがあります。一方で、自分で新しいものを作ってみたり、新しい理論やアイデアを組み上げて行ったりするような経験を重ねることで、トレーニングされる能力があると考えています。このようなトレーニングで得られる発案のためのノウハウや発想法は、人に言葉で伝えることの難しい知識も含んでいます。いわゆる暗黙知と呼ばれるものです。

以上の2点、つまり無意識と、発案のためのトレーニングで得られた暗黙知に着目します。これは経験的にひらめきにはこの2つが大事だと考えているためです。また、この2つは意識や推論などの知能にしかできない高度な知的能力を必要としません。つまり、知能ではない有機物や遺伝子にも、ひらめき現象からヒントになるようなものが得られる可能性が高くなります。

ひらめきのメカニズム仮説

私の仮説を説明します。

まず、ある問題の解決法について意識を集中して考えている時のことを説明します。この時、その問題にまつわる知識を論理的に組み合わせて、解決方法に至るかどうか思考します。意識を集中している時は論理推論の力が強くなり、そこで使う知識も論理的に組み上げられるよう、形式知が使われます。言葉で説明ができるような知識です。

またその問題に意識を集中している時、その問題にまつわる知識のみが頭の中に選択的に浮かびます。他の無関係の分野の知識が入り込まないようにして、その問題にパワーを集中するための脳の仕組みによるものです。

そして、頭の中にその問題にまつわる多数の形式知が想起されている状態で、意識の集中を解きます。すると、頭の中で論理的にしっかりと結びついていた多数の形式知が、結びつきを弱めて発散していきます。

また、無意識に移行することで、発案のトレーニングで培った暗黙知が頭の中に現れることがあります。暗黙知は意識を集中している時には出てこないためです。歩くことに意識を集中してしまうと、かえって歩き方がぎこちなくなります。歩き方という暗黙知が意識の集中のために使えなくなるためです。

無意識の状態になることで、考えていた問題にまつわる形式知が発散的になっており、そこへ発案に役立つ暗黙知も出てくる。発案の暗黙知は多数ありますし、意識的に頭に浮かべることができません。形式知の発散の具合と暗黙知が出てくるタイミングもぴったり合う必要があるでしょう。

また、その問題の知識だけに絞られていた状態から、他の分野の知識も思い浮かぶような状態にもなります。

意識の集中と無意識化を何度も繰り返しているうちに、やがて幸運が訪れます。その問題の形式知とぴったりフィットする発案の暗黙知や類似の構造を持つ別の分野の形式などが、タイミング良く出会います。そこに新しい解決方法が、ひらめくのです。

生命の起源への応用:有機のスープはひらめくか

この仮説を、生命の起源に応用できるかを考えてみます。最初に再生の話をしましたが、知識の再生の源は記憶でした。有機物がひらめきに近い現象が起きているとしたら、有機物の再生の源である、生産の仕組みを含めて考える必要がありそうです。

私は参照記事2で、有機物の生産の仕組みは工場同士がつながるサプライチェーンのようなものだと考えていることを書きました。

これまで、このサプライチェーンの進化や発展は、チェーンの先端部分で起きると考えていました。そこに現段階で最も高度で複雑な機能を持つ有機物が生成されるためです。その最先端のものからチェーンが伸びることで、さらに進化した有機物が作られると考えていたのです。

しかし、ひらめきのメカニズムに照らして気が付いたことがあります。サプライチェーンの途中でも、進化のきっかけは起きるという事です。

サプライチェーンの途中で今までとは異なる有機物が混入することが考えられます。このチェーンは強固な連関で維持、強化されていますので、簡単に壊れることはありません。混入した経路以外にも並列に複数の経路があるはずです。チェーンには強化のメカニズムが働くため、もし一部が壊れても、それを復元することができます。

異なる有機物が繰り返しチェーンの途中に混入しているうちに、偶然、チェーンを強化する新しい有機物を生み出す組み合わせが生じることがあります。そうすれば、そこからチェーンは分岐して伸びていくことができます。

ただ、それだけではありません。

既存のサプライチェーン上で有機物の生産連鎖が起きるためには、その途中の有機物が特定の基礎構造を持っていれば良いというケースが考えられます。貨物船は、規格通りのコンテナに入れてさえいれば、中に何が入っていても運んでくれます。それと同じようなイメージです。そうしたケースでは、同じ基礎構造さえ持っていれば、その先に異なる有機物がぶら下がっていても、既存のサプライチェーンの生産連鎖の流れに乗ることができます。

そのチェーンの途中で、基礎構造は同じで、それ以外が異なる新しい有機物が混入すると、新しい有機物は既存のサプライチェーンに乗って高度な有機物まで成長していきます。こうしてできた新しい高度な有機物の中から、サプライチェーンを強化するものが出てきて進化が1つ進みます。

この仕組みは、既存の複雑で長大なサプライチェーンを再利用することができる点で、とても良いメカニズムです。これまで、一歩ずつサプライチェーンを伸ばしていくイメージを抱いていましたが、それよりもはるかに効率的に進化が進むイメージを持つことができるようになりました。

これは、知識の世界で、新しく抽象的な理論や法則や構造が発見されると、その応用でさまざま問題が解決されることと似ています。例えば新しい数学の定理、新しい哲学的な視点、新しい建築構造やソフトウェア構造など、です。コンテナを運ぶタイプのサプライチェーンは、抽象的な理論や法則や構造に相当するわけです。

ちなみに、コンテナの発想は、ソフトウェアの世界のポリモーフィズム(多態性)という考え方から発想を得ています。抽象的な処理構造を作って、そこに具体的な様々な応用処理を追加するための仕組みです。上手くこの構造を設計すると、一度作った抽象的な処理構造を再利用して、様々な機能を手早く簡単に追加できるようになります。まさに、コンテナ型のサプライチェーンは、それを実現できるわけです。

おわりに

今回は、生物の進化と生命の起源から再生の概念に着目し、並行して知能のひらめきのメカニズムについて無意識と暗黙知の観点から仮説を立てました。そして、経済におけるサプライチェーンを想定した有機物の生産過程について、ソフトウェアのポリモーフィズムの考え方が適用できるという話を導きました。

私はシステムアーキテクトのシステム分析能力を活用し、かつ、多分野横断的に考える事で、生命の起源や知能のメカニズムを探っていくというアプローチをしています。このnoteに記載している各記事はほぼそのアプローチで考えた内容になっています。ただ、特に今回の記事の内容は、このアプローチを上手く活かすことができたと思います。

参照記事一覧

参照記事1

参照記事2


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