目的志向度と価値観共通度:個人とコミュニティの性向分析
はじめに
社会というシステムは、個人という縦糸と、コミュニティという横糸が絡まり合っている織物のようなものとして考えことができます。そして、糸としての性質を見ていくと、性向である個人も横糸であるコミュニティもかなり似通った性質を持っているということに私は着目しています(参照記事1)。
この記事では、この糸の性質を掘り下げていこうと思います。
目的志向度と価値観共通度
私は前の記事では、個人に対比する言葉として、一定の人が集まるグループをコミュニティという言葉で表現しました。
一方で以前から、グループには、営利会社に代表される目的志向の強い「組織」と、家族や友人関係のように指向性のある目的は特になく一緒の時間を過ごすこと自体に価値があるような「コミュニティ」があると考えていました。
少し調べたところ目的志向度の高い集団をアソシエーション、価値観共通度が高い集団をコミュニティと呼んで対比する考え方が一般にあるようです。また、アソシエーション性とコミュニティ性というのは対立関係でなく、それぞれ別々の性質として手段が持っているという考え方も見かけました。アソシエーション性とコミュニティ性が両方とも高い、つまり目的志向でありかつ同じ価値観の人の集まり、という集団も存在するという見方です。
年功序列型価値観で男性が多いとされる旧来型の日本企業は、この両方の性質を持っていると考えらえますし、地域社会はアソシエーション性は低いものの共通の価値観でないと上手く溶け込めないという高いコミュニティ性を持っている、という分析ができるように思えます。
横糸から縦糸へ
ここで、私が冒頭に紹介した社会の見方で考えてみます。横糸がコミュニティ(集団)で、縦糸が個人でした。そして、両者や糸として共通性を持つという話をしました。
ということは、先ほどの目的志向度と価値観共通度は、集団だけでなく、そっくりそのまま個人にも当てはめることができるはずです。
補足しておくと、個人は様々なコミュニティ(集団)に属し、それぞれのコミュニティ毎に調整された話し方、態度、考え方、価値観、そしてそのコミュニティでの経験を持ちます。このため、いわばコミュニティ毎に人格が微妙に(人によっては大きく)異なると考えることができます。そして、このコミュニティ毎に異なる人格を縦糸の個人として統合していると考えます。そして、その統合のやり方によって、個人という縦は、固くてもろくなったり、しなやかさを持ったり、緩くほどけやすいものになったりします。
様々なコミュニティ(集団)に属している個人の中の複数の人格にも、目的志向度と価値観共通度があると考えると、以下のようになります。
個人における目的志向度
目的志向度が高い個人:
すべてのコミュニティでの活動が、一つの目的に向かって統合されている。
目的志向度の高いコミュニティでの活動を主軸にする。目的志向度が高いコミュニティでリーダータイプの活動をする。自分の目的とコミュニティの目的の一致を目指す。コミュニティの目的志向度を高くしたいと考える傾向にある。
目的が社会的に善に根差していれば、社会にポジティブな影響を及ぼすことが期待できる。目的が社会的に悪に根差していれば、社会にネガティブな影響を及ぼすことが見込まれる。目的が社会善や社会悪とは無関係であると、社会にポジティブな影響とネガティブな影響の両方を与えることが多い。
目的志向度が低い個人:
各コミュニティでの活動の目的に、自分の方を合わせる。個人として統合された目的は持たない。
目的志向度の高いコミュニティの方が居心地が良い。目的志向度の高いコミュニティでは、フォロアーとして振舞う。
コミュニティの社会への影響の指向性に沿った影響を、社会に及ぼす。
個人における価値観共通度
価値観共通度が高い個人:
コミュニティの価値観と自分の価値観の一致を目指す。
価値観共通度が高いコミュニティでの活動を主軸にする。価値共通度が高いコミュニティで価値観の伝道師を担う。コミュニティの価値観共通度を高くしたいと考える傾向にある。
価値観の異なる個人やコミュニティとの接点を避けたり、ともすれば否定的になったりする傾向がある。
価値観共通度が低い個人:
各コミュニティでの価値観に、自分の方を合わせる。個人として統合された価値観は持たない。
価値観共通度が低いコミュニティの方が居心地が良い。価値共通度が高いコミュニティでは、価値観を受け入れる。
価値観の異なる個人やコミュニティとの交流も苦ではない。調和的な考え方を持つ。
さいごに
最初の目論見通り、個人にもコミュニティと同じように、目的志向度と価値観共通度の概念を使って分析・分類ができることが分かりました。この考え方で自分の両親や友人、会社の人たち、メディアで発言しているたちを分析してみると、新しい見方ができると思います。
また、この記事では個人からコミュニティへの影響については説明していますが、もちろんコミュニティから個人への影響もあり、そこには自己強化的なループが存在することもはっきりとわかります。これがプラスに働くこともあれば、マイナスに働くこともあります。少なくとも、こうした観点を持って、どういった構造になっているかを把握することは、少しでも何かを良くするためには、重要だと思います。
さらに、こうした視点を使って分析することで、例えば、昨今話題になっている多様性の受け入れ等の問題についても、分析的なアプローチを取ることができます。推進派も反対派も積極派も慎重派も、それぞれが一枚岩でなく、同じ立場でも言っていることや観点が異なることがよくあります。その背景に、こうした目的志向度と価値観共通度、および個人とその人が属しているコミュニティの特性などを加味していくと、これまでよりも全体像がクリアになり、問題の所在や戦略について考えるきっかけになります。
参照記事一覧
参照記事1
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