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抽象化による思考の整理術

抽象化は、複雑な情報を整理し、役に立つ部分を取り出す作業です。効率的に理解や判断を行うために重要な技術です。この記事では、分析と評価における抽象化の考え方を整理します。

両方の抽象化技術は、情報の整理、解釈、評価を行う際の効果的なツールとして役立ちます。これらの技術を習得することで、問題解決や意志決定の質が向上し、効率的なコミュニケーションや相互理解が促進されます。

では、詳しく説明していきます。

■分析用の抽象化の3つの次元

分析用の抽象化には3つの次元があり、組み合わせて分析します。

1) 概念的グループ化

説明: 同じ性質や特徴を共有するものを一つのグループとしてまとめること。
例: 食べられる植物を野菜と果物に分類します。同じ性質や特徴を持つ物を一つのカテゴリーにまとめることで、それらの知識を効率的に扱うことができます。

2) 空間的グループ化

説明: 物理的または論理的な位置関係に基づき、近接するものを一つのグループとしてまとめること。
例: 同じかごに入っている果物を1つのグループとしてまとめます。これにより、かごの単位で値段や特徴を把握でき、少ない情報で全体を把握できます。

3) 側面的グループ化

説明: 特定の視点や側面から、関連する情報や特徴だけを取り出して抽象化すること。
例: それぞれの果物を、甘さ、酸っぱさ、フレーバー等、味覚の側面から特徴を比べます。あるいは、重さや大きさなど持ち運びの容易さの観点で比べます。これにより必要な情報に絞って比較検討できます。

■分析用の抽象化の効用

分析用の抽象化を適切に行うと、以下の利点があります。

・情報を効率的に処理し深い理解を得ることができます。
・関係者間の共通言語として機能し、対話と建設的な議論を促進します。
・迅速で適切な評価が可能になります。

分析用の抽象化のスキルは、問題解決、学術研究、技術開発において、非常に重要です。

■評価用の抽象化の3つの次元

評価は、最終的な判断や意志決定のために、分析した結果をよりシンプルな指標に落とし込む作業です。評価用の抽象化にも3つの次元があります。

1つ目は、真理です。これは社会性や主観性を除いた、合理性による評価の次元です。

説明: 事実や理論の正確さ、妥当性、信頼性に基づく評価を行う視点。真実の規準に基づいて、情報やアイディア、提案などがどれだけ真実に近いか、または正確かを評価します。
例: 果物の値段が妥当であるか、求めている栄養成分が含まれているかという点から評価します。また、産地や品種が、表示されているものと一致しているかを確認します。

2つ目は、善です。これは、社会性の観点での評価の次元です。

説明: 倫理的、道徳的価値に基づく評価を行う視点。この基準に従って、行動や決定、考えがどれだけ善良であるか、または社会的に受け入れられるかを評価します。
例: 果物の栽培時に土壌汚染を伴う薬品を使っていないか、児童労働や搾取が行われていないかという点から評価します。

3つ目は、美です。これは、主観的な観点での評価の次元です。好き嫌いの観点も含みます。

説明: 美的価値や感受性に基づく評価を行う視点。この基準に従って、物事の形や色、音、テクスチャなどがどれだけ魅力的か、または感情的な響きを持つかを評価します。主観性が高いため、異なる人々が異なる評価をすることが一般的です。
例: 果物の味の好みで評価します。また、色の鮮やかさや、形がいびつでないかという点を確認します。

■評価用の抽象化の効用

分析用の抽象化を適切に行うと、以下の利点があります。

・判断や意志決定の納得性が向上し、事後に覆ることがなくなります。
・関係者間の共通言語として機能し、対話と相互理解を促進します。
・迅速で適切な判断や意志決定が可能になります。

評価用の抽象化のスキルも、問題解決、学術研究、技術開発において、非常に重要になります。

■分析と評価の手順

一般に、分析を行ってから評価を行うという順序があるように思います。しかし、実際には分析と評価を交互に行き来しながら思考していく必要があります。評価なしでは分析する観点が分からず、分析なしでは評価軸を把握できないためです。

私たちは、自分で思っているほど、事前には自分の評価軸を把握できていません。他者が関係している問題であればなおさらです。このため、分析と評価を交互に繰り返すことは必然であり、重要なプロセスです。

例えばリンゴを1つ買いにお店に行ったとします。

リンゴが3つ入ったかごの方がお買い得だと気がつきます。お店の人から甘いリンゴをおススメされます。一方、アップルパイを作ることを思い出します。別の品種が良いかもしれません。

リンゴとミカンとバナナが入ったかごもあると気がつきます。こちらの方が魅力的かもしれません。お隣さんにバナナをシェアしようかと思いつきます。確か、お隣さんは無農薬の果物しか食べなかったはずです。

このような形で、分析と評価を繰り返しながら思考を進めて、最終的に意志決定します。しっかりと検討した結果、アップルパイに適したリンゴを安く手に入れ、お隣さんとも交流を深めることができました。

■分析と評価の応用

日常的な場面でも、この例で見たように分析と評価を繰り返すことは重要です。その中で多くの抽象化を意識せずに行っています。

複雑で難しい問題に、複数人で取り組む際には、分析と評価のプロセスと抽象化を明確に意識することで、効率よく検討を進めて、適切な意思決定ができます。

ただし、純然とした学問であれば、評価軸は真理のみに依拠し、それを前提に分析と抽象化を進めて深堀りしていけば良いでしょう。

一方で、問題解決やビジネス、あるいは学問であっても通常のアプローチでは解明が難しい問題の場合、分析と評価の繰り返しが必要です。分析レベルや評価軸に絶対的な正解はありません。実用的に役に立つものであれば、それが答えです。

■留意点

抽象化は重要ですが、過度の抽象化は良くありません。抽象化の能力は、適切な抽象化の度合いに調整できる能力でもあります。分析と評価を繰り返し、抽象化の度合いを適切にする必要があります。

評価軸を探求せずに分析ばかり進め、必要以上に無駄な時間と労力をかけてしまうタイプの失敗があります。例えば、持ち帰るのに手軽な果物が欲しいのに、味や産地、値段や栄養価を分析しても仕方ありません。

反対に、評価軸上の問題ばかりに気を取られて、悩み続けるタイプの失敗もあります。分析を行うことで、ジレンマやトレードオフを解消する可能性がある場合、時間を無駄にしてしまいます。

また、文化的背景や価値観、信念や過去の体験が異なれば、評価軸は異なります。関係者の評価軸の違いを理解しつつ、全体をまとめる際にも、適切に抽象化された分析結果と評価軸を示して議論を進めることが重要です。

■さいごに

個人、組織やコミュニティ、社会において、抽象化は非常に重要な意味を持ちます。分析と評価において適切に抽象化を行うことが求められます。

現代社会の複雑な問題について、ニュースやSNSなどで議論されている様子を見ると、もどかしい思いをすることが多くあります。もっと、適切に問題を分析し、評価軸を整理しながら議論する必要性を感じるのです。

また、学問の世界では分野を超えた学際的研究が重要だと認識されつつ、なかなか担い手がいないという話も聞きます。学際的研究では、問題の評価軸を定めたり、分野間の共通言語を上手く作る事が重要だと思います。

ソフトウェアエンジニアやシステムエンジニアは、日々の業務の中で抽象化の能力を培っています。とりわけ、システムアーキテクトという役割を担うエンジニアは、高度な抽象化のスキルを持っています。関係者の声を聴いてディスカッションしてシステムの要件を整理し、その要件に沿った基本的な設計を行う役割を担っているためです。

社会問題や学際的研究など、複雑な問題の分析や評価を必要とする場に、こうした抽象化スキルを持った人材を配置することが、現在の社会では重要になっていると私は考えています。

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