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【2019シーズンJ1第11節】松本山雅FCvs北海道コンサドーレ札幌〜迷い込んだ深き森の地〜

 ルヴァンカップでの大敗。敗戦という事実だけでなく報じられた、チャナティップの故障。試合後インタビューでは1〜2週間を要するとのことだが、媒体によってはFC東京戦にも間に合うかもしれないと……いずれにしても、アンロペに加えてコンサドーレの推進力担当が更に欠場となる。何となくだが想い起こされるのは昨シーズン、駒井不在の試合でボールを握れず前に進めずという展開。三好もいないとなおさら。シャドー2枚に誰を起用しどう振る舞うか。前線のストロングと思しきはルーカス。前節は後半勝負、局面に人数を掛けることで打開の道を探った印象だったが、今節はどうなるのか。

スタジアム内外に満たされた緑

 スタジアム外も緑。看板も緑。そしてサポーターも緑。松本山雅のチームカラーが緑だから当たり前じゃん、などと思うなかれ。この自然豊かな環境や広大な敷地、"地方クラブ"だからこそ出来るサービスやハードの充実をしっかりと活用しているように思えます。

AWAYサポーター歓迎の姿勢から見えるJクラブの在り方


 正直、ここまでサポーターに優しいスタジアムでありクラブだとは思っていませんでした。駐車場も広く、事前に駐車券をチケットと一緒に購入しておけば、入場もスムーズに。駅からの送迎シャトルバスも1人1席、コンセントもありとのことで快適な作りだったらしい。
 試合観戦後に使えるAWAYサポ向けのサービス情報や松本市発行の観光情報冊子などがマッチデープログラムに同封されているあたりも、松本という地においての満足度アップ+経済効果の最大化を見込むマインドが見えてきます。地味に喜ばしかったのは日焼け止め。これもマッチデープログラムに入っていました。この時期、忘れがちなアイテムが入っていたのはとてもありがたい。
 地方クラブと言える松本山雅FCが、地元に根ざした成長展開を描いていることが何となくですがわかります。

シャドーにはユーティリティな2人

 さてさて試合の話。アンロペ&チャナが不在。この試合、ワントップ武蔵の脇に控えるは荒野&早坂。ルーカスとの組み合わせを優先してか早坂は右サイド、荒野は左サイドをそれぞれ初期位置に。
 突然ですが、ユーティリティとポリバレントの違い。ユーティリティは多くのポジションをこなせること、ポリバレントは同一ポジションの中で多様な役割(チャンスメイク、ポストプレイ、裏抜け、潰し屋等)を担える性質を指すと、何かの記事で読みました。ポリバレントといえば、いつぞやのW杯でキレキレだった中島を選考外にした西野監督がその理由説明の際に用いた言葉。その解釈でいうと、今回のツーシャドウはどちらかと言うと前者のユーティリティだと思います。
 何が言いたいのかというと、荒野も早坂もユーティリティではあるが、高クオリティで状況に合わせて攻守色々幅を持たせたプレーの出来る選手ではない。荒野は言わずもがな不器用だが、早坂が気の利いた選手のように感じるのは、割り切りができていて(ように見えて)、無理なことをそんなにしないからで、判断基準の置き所が的確なのだと思います。
 そういう意味で、今回の2人にアンロペとチャナを重ねるのは少々ナンセンスではありました。元々のプレースタイルで被るポイントはそこまで多くない。
 事実、前半の荒野は狩場とされ、ボールロストの連続となる。相手の形成するブロックの中でボールを扱うデリケートな局面、技術的ミスも多かった(今回は試合前練習でも随分とパスが合わないシーンが見受けられた)けれども、それ以上に周囲との距離感に苦慮していたように思えます。リンクマンとしての役割を担う場合、ボールを持ち出すことで能動的に生み出したパスコースをチャナは意図して使うことができるが、荒野がやると途中で引っかかってしまう。
 対して、後半は周囲の配置も変わり、やることを絞り荒野もタッチ数を減らしながら良い体の向きでボールを受け直すことも増えたような印象を受けます。特に宮澤との関係性においてはその位置取りを固定することなく、ボールを持てる選手をフォロー。ボールを扱う時間やスプリント数は前半に比べ減るも、プレー全体に生まれたリズムが好循環を生みました。

攻撃のベクトルを変化させた特異点

 ”デザインされた攻撃”とDAZN解説者が連呼し形容した松本山雅の攻撃。根本はシンプルであり、ゴールからゴールへの最短距離を意識したところから始まる逆算的思考。自陣最後方からスタートするゴールキックのシーンは、時間を確保し選手を最適に配置できるチャンスだと捉え、レアンドロペレイラの空中戦と前田大然らの走力で陥れる。
 そんな単調になりがちな原則において、スイッチの切り替えを担っていたのが右シャドーに配置された杉本。スペースの無い局面でライン間の中間位置を確保し、前を向いてボールを持てる選手です。宮澤、進藤、ルーカスの誰もが杉本の捕えにくさを感じていた様子。
 杉本個人の技術や駆け引きの上手さもあるのでしょうが、それ以上に周囲の松本山雅の選手たちの振る舞いによってディフェンス側が容易に飛び込めない局面を作り上げていました。

後半、クオリティに差をつけた主将&副主将

 前半はコンサドーレにとってはポジティブな内容とは言えませんでした。総勢9枚で固められたブロックの中でプレー可能な選手の不在。それならばとブロック外からの高精度フィードを繰り出すことのできる福森。しかし彼については反町少佐の指示により、一定の高さでボールを扱う際には必ずマークマンが1枚付くことで自由な選択をさせない手を打たれました。
 ハーフタイムで明確な指示が出たのか、選手の引き出しによる打ち手なのか、後半はしっかりと対応することとなります。
ポイントは、キャプテン宮澤と副キャプテン福森、そしてボランチ深井の位置取りです。作りたいのは福森を起点として左右遠近狙いどころが絞れない状況。後半、何となく福森が中央にいるなあ、湘南戦、名古屋戦でもそんなことがあったなあ、なんてあまり良くないおもひでがぽろぽろしましたが、結果これがブロック攻略の回答としてはある程度機能します。
 攻撃構成において4-1-5の形を取る際、福森は最終ラインの左端、アウトサイドレーンにて高い位置を取ることが多い。しかしここを起点にされても、ブロックを築き構えた状態で待つ守備側にとっては守りやすい。単騎突破力に乏しい荒野、菅ちゃんは視野の中に入れておきながら対処すれば良く、推進力となり高い位置でチャンスビルドできるルーカスは逆サイド。ボールの動く時間でスライドすれば良いし、福森にはブロック外でもマークマンがいるので難度の高いサイドチェンジとなり、インターセプトできれば格好のカウンターチャンスと出来る。
 というわけで、最も高精度なフィードを蹴ることが出来る福森を中寄りに置きたい。神戸がよくやるような渋滞を中央で起こさないように、宮澤と深井はその位置取りを調整します。特に、宮澤はブロック内でもボールを扱える選手。荒野が停滞しないように位置交換やフォロー、はたまたブロック内の中間位置でボールを受けて左サイドを活性化させます。ある意味では、宮澤こそポリバレントな選手と言えるのかもしれません。

夏の部活を想起させるノスタルジックアタッカー

 福森の中央配置だけでなく、もうひとつ私のおもひでをぽろぽろさせたのが、前田大然くんであった。
 クソンユンとの1対1のシーンだけでなく、ゴールに迫るシーンでシュートを盛大に枠外へ外す様は、確かに試合中やその後のTwitter界隈で言われる通り、”シュートが下手””下手なフィニッシュに助けられた”(引用)という感想を引き起こしておかしくはない。
 しかし、個人的にその表現の多くは正確ではないと思っていた。というのも、実際のシュートシーンのほとんどで前田はかなりの距離を走ってからシュートを打っている。プロなら決めろよと、エメルソンやフッキを見てきた記憶を彼に押し付けてはいけない。あれは、見た目の状況(GKとの1対1等)よりも、難易度の高い状況なのだと思う。
 それは高校2年の夏。ゴールラインをスタートし逆側のゴールまで全速力ドリブルしてのシュート練習という、絶対に現実に起こりえないシュート練習をした記憶がよみがえる。あまりに長い距離をドリブルしたことでシュートに至るリズムも狂うし、何より無酸素運動はしんどい。ノスタルジー。  
 DAZN解説者様も”彼は初速がすごいからちょっと走ってもスプリントに数えられちゃう”と言ってしまうほどに、試合中スプリント回数はもはや異次元。松本山雅のサッカーにおいてのストロングであることは間違いないが、しかし違うサッカーの中で、もしそのタスクが整理され、スピードをストライカー的に最前線で生かすことが出来るのならば、もっと前田大然のゴールは量産されてもおかしくはないと感じた。

試合後の優しい人々

 試合結果はスコアレスドロー。両チームにとって、試合後の感想としては、”勝たなければならない試合だった”だと思う。勝利に値する試合だったかどうかではなく。
 試合後、引分という結果だったからかもしれませんが、松本の方々はとても優しく、「駐車場からはこっち道の方が早く出られるよ」だとか、「また来てね」であったり、そんな言葉をかけられました。こういうのも大事ですね。試合終わった後に暴言吐かれたり怪訝な目で凄まれたりしたら、その思い出がすべてに上書きされてAWAY旅の記憶に深く刻まれかねません。自戒ですね。 

信州の厚いもてなしの数々

 山雅ビールなるものがある。スタジアムでも販売されていたが、まだ季節は春。体が暑さに慣れておらず、アルコール入れた状態での応援はあかんと判断。
 この山雅ビールだが、ビールにブルーキュラソーを加えたビアカクテルの一種である。とんでもないメニューを考え出したものだ、考案者出てこいと言ってもこのレシピの考案者はこの松本の地からは出てきません。こちら、グリーンビールといいまして、アイルランドでは特にセント・パトリック・デイというキリスト教由来の祝祭日に飲まれる伝統的な飲料です。そういえば今年のセント・パトリック・デイは日本でもイベントやっていました。自分は専らジェムソンとブッシュミルズを炭酸で割って飲んでましたが、もしかしたら緑色をしたビアカクテルも売っていたのかもしれません。

馬刺し。美味し。

 信州サーモン。信濃川由来なら、もしかしてこいつは日本で一番長い川を遡上した誉れ高き一族なのではないかなどと思い食したが、養殖品種だった。信濃川へ、カムバックサーモン。

最後に

 実は最も気になったのは、武蔵が再びシュートを1本も放っていないこと。リーグ戦10試合に先発フル出場し、内5試合でシュート0本という内容となっています。もちろん、それ以外の局面において存在意義を持つ選手ではあるものの、チームとして武蔵のシュートシーンを作れていないことはやはり安心できるものではありません。シュートメーカーアンロペがいないなら猶更、次節FC東京戦では武蔵のゴールが見てみたい。
 そして、アルウィンへのAWAY旅は今年が初めてで、かつてあった因縁だったりは全く意識せず。まっさらな気持ちで楽しんだ松本は実に良い場所であった。ただ、真夏には行きたくない。おそらく、とてつもなく暑い。
 ハーフタイムにAWAY側売店のソフトドリンクが売切れたり、マッチデープログラムについていた松本城入館無料券が、16:30に最終入館(試合終了15:00、渋滞で松本城到着が16:40)ということで1泊しないとほぼ使用ができなかったり、挙げていけばそりゃ何かしら粗は出るだろうけれど、それでも良いAWAY旅でありました。また来年J1の試合が出来るよう、お互いに。

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