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紛争史観と災害史観が面白い

 大石久和さんの『国土が日本人の謎を解く』という本を読んで。これがとても面白い。大陸の諸外国が「紛争史観」だとすれば、日本は「災害史観」だという話。この分類が、とてもよく日本文化の特徴を捉えており、さまざまなことが納得できます。

 日本の特徴は、災害が多いことです。地震、津波、台風、豪雪もある。日本人には当たり前でも、これぐらい自然災害の多い土地は無い。ヨーロッパでは何百年も前の建物が普通に残っていて、今も使われていますが、日本でそんなことは無い。それは、ヨーロッパの人が建物を大切にしているというよりも、災害が無いから、壊れないんです。でも日本は放っておいたら、地震や台風で、建物は100年ぐらいで壊れます。

 日本では、対抗すべきものの第一は「自然災害」なんです。対して、大陸では、対抗すべきものの第一は他民族による侵略です。で、自然災害と、他民族の侵略の大きな違いは、自然災害は予測不可能です。いつ来るか分からない。それを止めようも無い。対して、他民族による侵略というのは、いつ来るか分かります。いきなり侵略して来る、ということは無い。徐々に関係が悪化して、相手も軍備を整え出して、そろそろ来るんじゃなかろうか、というような段階があるんです。

 僕なりに解釈すると、自然災害というのは、来るか来ないかですから、0か100なんです。対して他民族の侵略というのは、0と100の間に、いろいろな段階がある。20ぐらいで比較的良好な関係を維持している時もあれば、80ぐらいの緊迫感のある時もある。そのような「紛争」に対して、粘り強く対処するということも必要になる。

 日本の文化は、災害対応の文化ですから、災害に対してはとても強いです。東日本大震災だって、諸外国に比べたら、驚くべきスピードで復興が進んだ。そういう習性なんです。被害が起きるのはしょうがない、そして被害が起きたら、それから立ち直るのも早い。現世利益的だし、即物的なんです。

 日本人の危機対応は「災害対応」ですから、戦争も「災害」と同じように捉えます。戦争は、いけない。そりゃそうです。地震や台風を「良い」という人がいないのと同じように、戦争も、いけないんです。でも戦争が、地震や台風と違うところは、相手がいるということです。でも、日本人の習性は「災害対応」ですから、災厄の向こう側に「人」がいるとは、思わない。だから「戦争」を憎んでも、アメリカを憎まない。もちろん、ウォー・ギルド・インフォメーション・プログラムの成果もあるだろうけど、そもそもの民族的性質もあると思います。

 災害対応のような、どうしようもない災厄に対しては強いのですが、どうかなる災厄に対しては弱い。特に、人間相手の交渉というのは苦手です。白黒つけがたいものは苦手なんです。その相手は良いの、悪いの、どっちなの、となる。どっちでもないんですよ、大抵の場合は。グレーです。でも、災害には白か黒しかありません。良いか悪いか、です。地震が起きないのは良い。起こるのは悪い。日本人には、物事をそう捉える文化的な癖があるんだと思います。

 この文化の根っこは、おそらく縄文時代ぐらいまで遡るんだと思います。当時から孤立した島国で、ほぼ単一民族だった。そして災害が多かった。そういう島国の行動様式、つまり「文化」は、災害対応に最適化されたものになっていったのでしょう。ただ、現代の諸問題、例えば外交とか政治とか環境問題とか、そういったグレーなものには、日本文化的な白黒をつけたがる対応は、効率が悪い。せめて、そういう文化を持っていると自覚するだけでも、違ってくるんだろうなと思います。またあした。

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