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絵本のある暮らし「りんごの皮を剥いた日」
「痛い!!ママ!!!!」
ちょっと目を離した隙に、小2の息子がこちらを向いて指を押さえていた。
「どうしたの?」
「包丁で!包丁で!」
「切ったん?」
「血が!出てるの!!!」
指の隙間からサラサラとした赤い血液がじわっと滲み始めていた。
「OK。Nちゃん、絆創膏お願い!!」
「わかった!!」
まだ食事中だった5歳の娘は、機敏に立ち上がり取りに行った。わたしは不安気な息子の手を覗いてみると、指先に一筋の線がある。綺麗に切れている。
皮膚で蓋をするようにして、近くにあったキッチンペーパーをくるっと巻いた。私の手で軽く圧をかける。傷は深くなさそう。体温があったかいのかな、相変わらず溢れ出てくるのを、息子は冷静に眺めていた。
「ちょっと痛いけど、チクっとくらいだよ。」
「ほんまぁ。よかったやん、傷も浅い、大丈夫よ」
「血が出てる。絆創膏早くほしい」
「いつ切ったん」
「りんごを切ってたの」
この日、彼はりんごの皮剥きに初めてチャレンジをしていた。剥くのには成功したのだけれど、実の部分も切ろうと思った時に、実と一緒に、指の身も少々包丁に掠ったようだった。
「剥くのは成功したね。やったじゃん!」
「血がまだ出てるよ」
「そんなもんや。ママもよく怪我をしながらできるようになったんだよ。すごいすごい」
ちょっとだけ、彼はニンマリしていた。
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妹が持ってきてくれた絆創膏を貼ると、あっという間にガーゼの部分は真っ赤になった。仕方ない。お風呂の時はママが洗うから、寝る前にもう一度絆創膏を貼り替えよう、と提案すると、彼は「やったあ!久しぶり!」と言って喜んだ。自分で洗うのではなく私に洗ってもらえることに、万歳のポーズ。怪我をして得した、と言わんばかりの顔である。
彼はサッカーでも極端に転ぶのを嫌がるくらい、血というものが苦手である。こけたら真っ先に血が出てるかを確認するし、簡単にベソをかく。そんな彼が今日は気丈に振る舞っていた。
「よし!絵本を読んで気持ちを落ち着かせよう!」
図書館で借りてきた本の数冊を彼がソファの横に並べて座ると、妹も横にちょこんと座った。そうしてそこから絆創膏のことはすっかり忘れて絵本の世界に潜っていった。
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他にもいろんな本を手当たり次第読み耽っていた。
***
絵本のある暮らし。図書館では2週間しか借りられないし、次はいつ借りれるかもわからない。宿題に追われて読めない週もある。それでも2人目が生まれてから、ほとんど欠かさず何年も絵本を借り続けている。本人が選ぶこともあれば、私がセレクトすることもある。そうして読みたい気分になったら、家に買ってある本を読むこともあれば、図書館で借りた絵本を読むこともある。
小学2年生になってから、文字の音読に慣れてきた印象はこれまでにも感じていたけれど、、今日の言葉に、母の私はじんわりと胸アツになったのでした。本人なりに、絵本が彼にとって落ち着く場所で、好きな世界になったんだなあ。よかったなあ。
これからも、絵本たちが彼にとって素敵な支えの一つでありますように。
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