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モラトリアム、そのずっと前

本当に不思議なもので、私はあの頃、自己肯定感に溢れていたし、嘘偽りなく、間違いなく、自分を「最強」だと思っていた。

怖いものなんて一つもなかった。未来に不安があったとしても、それはまるでジェットコースターに乗る前のドキドキと似たようなもので、希望と夢のスパイスにしかなり得なかった。

手に取ることができる範囲の世界が「この世界の全て」だったし、確かにそうだと信じていた。自分のいる世界が、一握りどころか、むしろ一匙のティースプーンの中の砂糖一粒程度の広さしかないなんて、想像だにしなかった。

それと同時に、一日が本当に「一日」として存在し、ぼんやりと不確かなどこかに向かうための単なる過程ではなかった。

目の前の人としっかりとした関係性を結ぶこと、そしてそのために努力することも至極当然だと思っていた。

人間関係において「尊重」されることも至極当然だと思っていた。

好きなものが当たり前に好きだったし、嫌いなものは当たり前に嫌いだった。何かに対してひどく期待をしたし、その分ひどく怒ったりもした。

正しいことを正しい、間違いを間違いと主張することを躊躇なくできたし、その主張が認められるとさえ思っていた。

世界は自分で、自分が世界だった。
そう信じて疑わなかった。

強かったのだ、私は。
確かに「最強」だったのだ、私は。

私は。

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