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「死が三人を分かつまで」読書会レポート

こんにちは!
今日は先日参加させていただいた、U-NEXT主催『死が三人を分かつまで』読書会の感想をレポートします。

↓U-NEXTで読む
https://video.unext.jp/book/title/BSD0000583135

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「死が三人を分かつまで」とは?

長編デビュー作ながら、翻訳権が世界8カ国語で販売された期待の新人ケイティ・グティエレスの小説。
U-NEXTのオリジナル書籍として2022年9月10日(土)より配信されていましたが、来る10月7日(金)より他ストアでもデジタル販売開始&紙の本としても出版予定です。

今回はその記念として開催された読書会に行ってまいりました~!

場所は恵比寿・備屋珈琲店。
レトロな雰囲気がとっても素敵!

外観も素敵

今回はこちらの「貴賓室」(なかなか日常で聞かない響き……!)を
貸切っての読書会でした!

迫力の茶器

ずらりと並べられた器は江戸時代のものだそう……!
雰囲気満点の中、読書会が始まりました。

「死が三人を分かつまで」あらすじ

というわけで、本作は一人の女性の「重婚」をめぐって起きた悲劇の真相を、駆け出しライターの女性が追っていくミステリーとなっています。

簡単に人物紹介を。

〇キャシー・ボーマン
主人公の一人。幼いころから犯罪実録などに興味を持ち、ライターになったが、今の仕事はテレビ局のブログ記事執筆のような小さなものばかり。
ローレの重婚事件を知り、彼女の視点からの一大ノンフィクションを執筆しようと考える。
アルコール依存症の父のもとに年の離れた弟・アンドルーを残して故郷を出たことがずっと心に引っかかっている。
円満な家庭で育った彼氏のデュークには自分の家庭環境のことを話せていない。

〇ドロレス・リヴェラ(ローレ)
もう一人の主人公。女性ながら銀行の役員を務めていた。31年前、ファビアンという夫とマテオ・ガブリエルという双子の息子を持ちながら、メキシコシティで出会ったアンドレス・ルッソと「重婚」し、その事実を知ったファビアンがアンドレスを殺すという事件の原因を作った。
2017年現在も当時と同じ町・ラレードに住んでいる。事件の取材を拒否していたが、「殺人事件当日のことは話さない」という条件でキャシーの取材を受ける。

〇ファビアン・リヴェラ
ローレの夫。リヴェラ・アイアンワークスという小さな会社の社長だったが、不景気のあおりを受け妻子を残しオースティンに一人旅立った。
ローレのアンドレスとの重婚を知って怒り、訪ねて来たアンドレスを衝動的に殺害したとして服役中。

〇ガブリエル・リヴェラ
ファビアンとローレの息子。マテオとは双子。事件当時は悪い仲間と付き合うなどグレかけていた。現在は高校のバスケットボールコーチをしており、妻との間に二人の息子がいる。

〇マテオ・リヴェラ
ファビアンとローレの息子。ガブリエルとは双子。当時はガブリエルに比べて大人しい子供だった。現在は動物病院を経営している。独身。

〇アンドレス・ルッソ
ローレのもう一人の夫。哲学者。取引先の結婚式でメキシコシティに来ていたローレと出会い恋に落ちる。前妻・ロサナとの間にペネロペとカルロスという二人の子がいる。ローレに家庭があったことを知りラレードにやってきたところを、同じく事情を知ったファビアンに銃殺されたとされている。

この物語は、真実を追うキャシーの視点から描かれる2017年現在と、二重生活を送っていたローレの1983-1986年の回想、2つの視点から語られていきます。
ミステリとしてのこの物語の主題は「アンドレスを殺害した真犯人は誰か?」という点になり、それをめぐって何度もどんでん返しが起きるスリリングな展開が見どころであるのはもちろんなのですが、何より交互に描かれるキャシーとローレ、二人の女性の心情描写が読者の心を揺さぶるのではないかと思います。
読書会でも話題の中心になったのはやはりこの二人のキャラクターでした。

ローレという女

ふたりの男と結婚し、彼らの運命を狂わせた、まさに"ファム・ファタール"と呼ぶのにふさわしい女性のように思われるローレ。
しかし、本読書会では、彼女についてセンセーショナルな「悪女」ではない、生々しくも弱いひとりの人間としての姿についての話題が多く上がりました。
特に私がなるほど……と思ったのは、ローレが「事件発覚後もラレードの街に残り、同じ職場で働き続けた」ことに対し、「彼女は疲れてしまったんじゃないか」という意見が出たことです。
普通、自分の重婚(というか不倫)がもとで殺人事件が起きるようなことになったら、とても同じ町になど住んでいられないですよね?
私自身地方の出身なので分かる気がしますが、田舎のコミュニティはとても閉鎖的な側面を持っていますし、あからさまでなくても心情的に「村八分」されるような状況になるだろうことがありありと想像できます……
が、ローレは街を出ていかなかった。
そこには彼女の「そんなこと言ったって愛しちゃったんだからしょうがないじゃない」とでも言わんばかりのずぶとさが感じられます。
心のどこかに「私のせいじゃない」という思いがあって、だからこそ自分を恥じて共同体を去るのではなく、いろいろ言われてはいるが自分も被害者の一人なのだ、そして、口さがない噂話を気にするのは疲れたから、仕方がないから消極的な選択として同じ町に住み続ける───という結論に至ったのではないかと。
「彼女は嘘がとてもうまいのよ」とは帯にも書かれているある登場人物の言葉ですが、ローレ視点の文を読んでいると、彼女の行動が「仕方がないことだったのだ」と思わされてくるのがローレの恐ろしいところです。
おそらく、ローレはとても弱い人間なのだと思います。それゆえに、自分の良心や倫理観さえも嘘で言いくるめてしまう。
ひどい人間に思えますが、私たちの中にもローレ的なもの───自分でも意識しないうちに自分を正当化しているような「弱さ」がきっとあるのではないでしょうか。

キャシーという女

一方、酒乱の父のもとに弟を残してきたことや、恵まれた家庭環境で育ってきた彼氏のデュークに引け目を感じ結婚に踏み切れずにいるキャシーは、どちらかというと我々読者の良識に近い場所にいます。
彼女がモラル・センター(非倫理的なキャラにツッコミを入れることで感情移入を助ける、読者の平均的な倫理観に近いキャラのことを言うそうです)の役割をしてくれているので、端的に言えば「やべー女」であるローレの物語を本を投げ出さずに読み続けることができるという点は大いにあると思います。
(ついでに言えば駆け出しの物書きというかなり自分に近い立場にいるキャラなので、私は読みながら所々でキャシーに感情移入しては「わかる……」とうなずくbotになっていました……)
一方で、彼女はローレとは違う弱さを持つ人物でもあります。
それは白黒思考や完璧主義に近い、ある種の「潔癖さ」です。作中、彼女はある決断をしますが、それに対して「もったいない……」「そこは妥協すればいいじゃん……」と思われる読者の方も多いのではないでしょうか。
実際、我々は生活の中で「このベッドカバー、色が微妙に好みじゃないけど安いからこれでいいか……」とか、「友達、愚痴が多くて疲れるけど、まあ長い付き合いだしだまっとこ……」みたいな妥協を繰り返して生きていると思います。結婚や転職などの大きな決断であっても、100パーセント納得してしている人の方が少ないのではないでしょうか。
キャシーはそれができないがゆえに、いつか病んでしまうのではないか…という方面での脆さを読者に感じさせます。けれど、犯罪ルポという汚れた世界で、そういった傷つきやすさを持ちながら前に進もうともがく彼女だからこそ、読者はともに真実を見つけようと感情移入ができるのだろうなとも思いました。

終わりに

読書会の最後に、それぞれの思うこの本のキャッチコピーを!ということで、POP用紙を頂きました。

私の考えたコピーはこちらです…!

『私たちの消費する"嘘”は、
彼女の”真実”なのかもしれない。』

……うまく表現できたかはわからないのですが 笑
この記事を機に、『死が三人を分かつまで』読んでみよう!と思っていただけたり、読了済の方からコメント頂けたりしたらとっても嬉しいなと思います……!

それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!


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