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『私は犬と暮らしていた』14




「私は犬と暮らしていた?」

死んじゃった犬の事を
うまく
思い出せなくなってきた

いや
思い出さなくなってきた



✳︎

“時間の神様“が居るのなら
一言物申したい

「犬と私の日々は
その痛みも苦しみも
全てが私を作った大切な日々で
全部丸ごと残しておきたいものなんです
これ以上
奪わないで下さい」

そんな事を思う程

犬と私の日々は
時間と共に
溢れて弾けて溶けていく


✳︎


最近
かなり落ち込んでた私


もう
私の人生
十分幸せだったと

今すぐ
此処で虹を出したいと思う程
落ち込んでいた私を

励ますかのように



今日の夜
死んじゃった犬が
夢に出てきた

犬は
お座りして
あの
いついかなる時も
そうだった
『真っ直ぐな目』で


夢の中でも
落ち込む出来事に対処する私を
心配するように
見てくれていた

✳︎

そして

夢から目覚め

「あっそうだった!
私は犬と暮らしていたんだった!」と

心が目覚めるように

犬との日々が
急に
頭の中に
溢れ出してきた


✳︎

朝起きる

ご飯とお水と薬とシリンジを用意して

犬を起こしにいく

「おはよう
楽しい夢見た?」

うーんと伸びをする犬の体を
両の掌で撫でながら
顔をふさふさの毛に埋めながら
キスをしながら

「のびのび上手上手
さっ
おしっこだ!」

そんな事を言って
新しい1日を
犬と始める


そして

犬の歩みの後ろから
時に
犬を抱っこしながら

おしっこマットへ行く

「いっぱい出たね
スッキリスッキリ
お利口お利口
金メダルチャンピオン一等賞だね」

最大級の賛辞を
おしっこが出来た犬へ贈る


その後


犬と私の『呪文のような言葉たち』を
今となってはもう出せない程の
凡ゆる優しさを
かき集めた声で
犬に話しかけながら



ごはんをシリンジであげ
水を飲ませ
薬を飲ませ
口を拭き

「はい!
今日も元気を作れました!」と
拍手をする


犬は満足そうに
ブルブルっと体を振るわせ
尻尾を振る


✳︎

そんな
「また新しい1日を始められたね」

喜びに満ちた朝があった事

今朝
時間の神様に抗うように


犬との日々の断片を
必死に
かき集め寄せ集め
思い出す事が
久しぶりに
本当に久しぶりに出来た


✳︎


iPhoneを起動させる

iPhoneは
毎日
「おすすめの写真」
「○年前の今日」として

犬の写真を
無感動無機質に
私に見せつける

なんとか
1日をこなさなくてはならない私は
犬の写真を
無感動無機質に
見る


写真を見せつけられる度に
「悲しい寂しい苦しい」と
涙を流してしまえば


無感動無機質な1日を
始められないから



でも

今日から

無感動無機質に

犬の写真を眺める事を

辞めようと思う

✳︎

「誰かを思って泣く孤独はいいものだ。それがいかに辛かろうといいものだ。孤独には二種類あって、誰かを思う孤独と、まるでそこになにもない無のような孤独があり、誰かを思う孤独は思う人の心の中に誰かが存在する分、厳密には孤独ではないとも言える。」中島京子『樽とタタン』


犬の写真を見て
犬を思って泣いてる時


私は
孤独ではない

だって

【私は犬と暮らしていた】のだから!

(「仏頂面」が気に入ってる
とびきりの【変顔】を待ち受けにして
私は今日も生きるを続ける)


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