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6次産業化をすればするほど儲からない話

来週17日、西宮の阪急百貨店に、兵庫県宍粟市産のサーモンが店頭に並ぶ。

このサーモンは筆者が兵庫県の依頼で販路開拓の支援に乗り出したのだが、いろいろ難関があり、、、それは販路開拓以前の問題であった。

4年前、、、猛暑で高水温、ほぼ全滅
3年前、、、大雨で土砂が流れ込むなどでほぼ全滅

他にも、山からの水が枯渇してほぼ全滅とか、、、

その間も、大阪ハイアットホテルで取り扱ってもらったり、神戸マザームーンカフェでも扱ってもらったりと少しずつ実績も作り、この度ようやく我が古巣阪急百貨店までたどり着くことができた。

このサーモンは、卵の採卵から育成まで完全に兵庫県内で行っているご当地サーモン(これができているのは兵庫県ではここのみ。ちなみに品種はドナルドソンサーモン。ニジマスの成長力と、スチールヘッドの味の良さのいいとこどりの掛け合わせ)。

また、自社で育てた親魚からの採卵なので持続可能性のある漁業を実現しているだけでなく、川の水のかけ流し型スタイルで、循環に電力なども使わず、病気の予防で薬などを使うこともないのだ。

しかし、上記のリンクを見た友人から、「1匹丸のまま買うのはむつかしい、捌けないので柵にしてほしい」という声が上がった。

残念ながら、こういう声が出ることは仕方ないと思っていたが、これを乗り出すとこの生産者は儲からなくなる。

加工して付加価値をつける、ということは農業漁業の世界ではよく言われることだ。しかし、ここには大きな落とし穴がある。付加価値をつけるということはその分当然値段が上がるが、その上がった分の価値を消費者が払ってくれるかということは別問題なのである。特に、小規模な生産者が6次産業化を行うときは、この「加工」をどこまで行うかで大きな問題が出てくる。

一つは、設備の問題だ。近年安全衛生に関する指導は厳しくなってきている。一つの大きな出来事が、食品衛生法の改正で、小さな農家でも、カット野菜を作るなどの加工に関してなどで、『食品衛生法の改正に伴う「HACCPに沿った衛生管理」の制度化について』をしっかりと意識することとなった(※厳密にはもっと細かな説明が必要だがここでは割愛させていただく)。

高次な加工をするのであれば、相当の保健所のチェックも行われるようになるだろうし、そのための設備の導入・管理の徹底を行う必要が出てくる。

しかし、地方の山間地の小さな事業者では、そのための10万円20万円の支出も厳しいのだ。刺身用の短冊を売るとなると、衛生まな板や包丁殺菌庫、2重扉、虫取りの電気設備、厨房内の空調設備なども更新が必要かもしれない。そこまでの余力を持って挑めるところばかりではない。

また、そういった加工をするために投資したとしても、その販売物がどれだけ売れるかにかかってくる。

簡単にいえば、「刺身用にカットされた商品」で、1人前で900円と言われたらどういう反応になるだろうか。おそらく、本マグロの中トロ並みの値段になる。その値段でも買ってくれる商品となるだろうか。

設備投資だけでなくて当然加工する側の人件費も発生するし、何より「毎日注文があるわけではない」ことが相当現場の負担になる。作って冷凍しておくということも考えられるが、冷凍設備の投資も大きなことだし、何より冷凍商品に対する味の劣化という懸念点もある。解凍するのは家庭で行ってもらう以上、味の保証ができるかどうかの問題もある。

サーモン1匹で売る場合より、切り身や刺身という単位で売る方が商品の回転率がよくなるのではないかという話もあるが、例えばサーモンの切り身1切れが400円近い金額となると、消費者はどう思うだろうか?その瞬間、スーパーマーケットの魚売り場で普段売られているサーモンや塩鮭の値段と比較されやすくなってしまうのである。

消費者はむつかしいもので、美味しそう!と最初は思っていてくれても、その商品が現実的に値段が比較されやすいものに化けてしまうと金銭感覚が働いてしまう。その結果購入を見送るということは非常に多い。

なので、今回は敢えて切り身や刺身用柵では出していないのだ。そこまでできる人的リソースもない(サーモンだけしかしていないわけではなく、ドクダミの栽培や田んぼの管理もある。田舎の人はほとんどの人が一つの事だけしているわけではない)というのが大きな理由でもあるが。

逆に、この部分を逆手にとってうまい売り方をしているコメ農家も過去にはいた。お米は普段、2㎏とか5kgという「kg」という単位で買うことがほとんどだと思うが、とあるコメ農家はマルシェにて消費者に「合」単位で量り売りをしていた。1合あたり150円程度だったと思う。一般的な人で、1合のお米はおよそ何グラム?と言われてすぐに答えられる人はどれくらいいるだろうか?答えは約150gである。つまり、この農家は対面販売でとはいえ、5kg5000円でおコメを販売していたことになる。これは、日本国内でも最高級にブランド化が成功している新潟県南魚沼市産のコシヒカリと同等の金額である。消費者がその単位で金銭価値(普段買っているお金の1合当たりのお値段)をあまり計ったことがないことをうまく生かした販売方法だと思う(しかも、自宅での1回の炊飯器に入れる分だけ買うことができるからお試しで買いやすい)

6次産業化で重要なのは付加価値をつけることだが、付加価値をつけても売れる商品であることが大切だ。加工をするなら、ある程度まとまった数量を加工しないと採算は取れない。まとまった数量を作るのなら、まとまった販路を作らないと在庫がたまる上加工場の稼働率が上がらない。こうして失敗してきた事例は山ほどあるのが実情だ。

先週金曜日和歌山県の某事業者で、6次産業化に取り組んでいるが、加工場を作ったものの売り上げが上がらず困っている会社のコンサルティングを行ってきたが、結論としては販路を増やして加工場の回転率を上げて利益率を向上させていくことしかない。この会社の場合は原材料の確保はさほど問題がないが、上記のサーモンの会社は年間生産数量6000匹くらいが現在は限度で、加工場に投資するほどのこともできなければ販路を大きく拡大させすぎることもむつかしい。

加工や直販の比率を上げて稼げる農業へ!ということはお題目としてよく言われることだが、現実にはそのバランスをいかに保つかということ、加工してもそのコストを吸収するくらい高品質なものにするか、競合品と負けないくらいの価格になれるまで、規模まで拡大して価格を吸収していくかという戦術しかないのである。

日本においてどのような6次産業化が成功しやすいかというような成功パターンもない。その商品、その地域、その生産者の分だけ解決の方法がある。しかし、小規模な事業者が6次産業化に取り組むというのはかなり厳しい状況であることだけは間違いない。成功していきたいのであれば、外部の意見を(ブレーキをかけてくれるような人の意見も含めて)積極的に取り入れるだけでなく、自社によるたゆまぬ努力が必要である。

もちろん、だからといって上記のサーモンはいつまでも丸売りしかしないというわけではなく、地元での販路を増やし、地元のHACCP対応の加工場に卸すなどの加工を委託することで、作業費を逓減していく計画である。地元でしっかり売り先があればストックすることも可能になるので、細かな消費者ニーズにこたえられるような作業の人的リソースをそこで確保しておいていただくこともできる。本来なら、柔軟な加工を引き受けてくれるような「共同加工場」のようなものが一定の地域に一つ存在し、小規模な農業者漁業者の商品を加工し、余剰はストックして地域の飲食店でうまく消化しつつ、大規模な農家のものも加工して地元の給食センターなどに納品するなどの体制が取れれば理想的だと思っている。これについては福岡県などで提案してそこそこ評価は良かったので、これをどこでどう実現させていくかが私の大きな目標だったりする。ヒントは徳島県のNARUTO BASEからいただいたものだが。

また、このサーモンについては一山超えた水系を別にした場所ではまだ規模拡大できるなどの余地はあり(当然そうなると価格もアトランティックサーモンよりやや高いくらいまで下げることができる可能性がある。ネックは水量の確保。酸素濃度が下がると死んでしまうので絶えず新鮮な水が必要)、山間部で持続可能性のあるビジネスモデルとして確立していければいいなと思っている。規模を拡大することで若い人の雇用を確保することもできる。

こういった山間部で成り立つビジネスが今の日本の地方にはいくつも必要だから。

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