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会話ができると、心のドアが開く感じがする(中国ルーツJさん)

こんにちは!カタリバRootsのせなです。

カタリバRootsプロジェクト(外国ルーツの高校生支援)の進路体験記シリーズ(2022年版)では、個性ゆたかな卒業生たちの歩みと、彼らが自分のことばで語る成長と学びを、インタビュー形式*でご紹介しています。
*2022年4月時点(インタビューは3月実施)の情報です。

海外にルーツを持つ高校生に関わっている方、これから関わる・知りたいと思っている方々、そして、今『自分らしさ』に悩む方にも、多様な視点が自分の価値観に目を向けるきっかけとして届いてくだされば幸いです。さらには高校生の視点を通して、若者を取り巻く大人の在り方、マジョリティの在り方、うまれる問いをみなさんと考えていけたらうれしいです。

カタリバが関わっているのは、来日して3年以内の、15~19歳の若者がボリュームゾーンです。彼らの抱える課題は以下の記事でわかりやすくまとめられています。

#3は、中国ルーツのJさんのストーリーです。

Jさんのプロフィール

【進路体験記】学習歴 (14)

中国・四川省出身。山や川に囲まれた自然の美しい地域で育ち、2016年2月に、親の仕事で来日しました。

親に日本へ行くことを告げられたときは、期待と不安の両方を感じたとのことです。初めての海外でもあり、高層ビルがそびえたつ、故郷と真逆の東京の風景に「新しい生活をするんだ」「見たことがないものが見れる」との期待があったとのこと。同時に、新しい国で将来の見通しが立たなくなることや、友人らと離れ離れになることに、不安を感じていました。

公立中学校に、2年生から転入したJさんは、はじめは日本での学校生活を楽観的に考えていましたが、日本語が話せないことで孤立してしまい、辛い中学校生活を送ります。ほとんど友人を作れずに最初の中学校を卒業したJさんは、海外ルーツの生徒が多く通う、日本語学習の授業がある夜間中学校で2年間学び直し、海外ルーツの高校生が多く通う定時制高校に入学しました。

高校2年生
学校では、同じ中国出身の生徒たちとグループでいることが多く、ほかの生徒と関わったり、日本語で周囲の人と話す姿はほとんど見られませんでした。映画づくりプロジェクト*への参加をきっかけに、日本語への苦手意識に向き合い、周囲と関わろうとする姿勢が増えていきました(詳しくは、インタビュー内容へ)。
*作品を記事の最後でご紹介しています。ぜひご覧ください!

高校3年生
カタリバと日本語グループレッスンを開始し、出身地が違う生徒とも日本語で雑談を楽しむ様子が見られるようになりました。7月には、日本語能力検定のN3のレベルに、高得点で合格しました。進学資金の貯金のためにアルバイトも開始し、秋に進学先が確定した後は、クラスメイトと学祭の準備などに参加し、残りの学校生活を楽しんでいました。

高校卒業後は、大好きなお菓子作りの世界に飛び込み、東京スイーツ&カフェ専門学校で学んでいます。


孤立して無気力だった自分から抜け出したかった


せな:

卒業おめでとう!Jさんとは、勉強だけでなく、映画を作ってみたり、色々な取り組みや話をしましたね。Jさんと私たちが話しはじめたきっかけは、なんだったかな?

Jさん:
カタリバと会ったのは、2年生の2学期でした。他の学年の授業で来ていたカタリバのメンターに、話しかけてもらいました。学校には、中国語が話せる大人がいなかったので、Yさんが中国語を話せるのに驚いたのを覚えています。

3学期になって、映画のプロジェクトに誘ってもらいました。いつもの友達グループといっしょにいたときに声をかけられて、あとでみんなで「どうする?やる?」と相談したことを覚えています。

せな:
相談したんだね(笑)。その結果、どうなったの?

Jさん:
僕とSさんの2人が参加することを決めて、いっしょに映画を作りました。

はじめに参加を迷っていたのは、映画を作ることが始めてで、少し心配だったからです。どうやって作るんだろう?あまり上手にできなかったらどうしよう?と、思いました。

あと、日本語に自信もなかったので、新しいことにチャレンジするのが、より難しいとも感じていました。指示や、教えてもらったことがきっとわからないだろうと思って。

せな:
どうして、心配だったのにやろうと思ったの?

Jさん:
「好奇心」です。この機会にやらないと、人生がダメになるかもと思いました。そのとき、長いこと何にもチャレンジしてなくて、映画作り以外のことも、したことがないことばかりでした。

中学生のときは、学校で孤立していて、気力もなくて、何もチャレンジしない毎日でした。高校に入って、友だちもできて少し元気になっていたので、何かやりたいなと思っていたけど、何をやろうかな?という感じでした。

あと、メンターのYさんが付き添って中国語でサポートしてくれることも聞きました。

「中国語でも、間違いのある日本語でも、ことばを使わなくてもいい。表現したいことを、なんの方法でもいいから表現してみようよ!」

と言ってもらえて、楽しみになりました。

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(完成作品のワンシーンより)

せな:
そうだったんですね。やってみて、どうでしたか?

Jさん:
とても楽しかったし、自分の映画ができて、誇らしい気持ちです。プロジェクトがきっかけで、日本語もうまくなったと思います。

せな:
そうなんだ!どのようにうまくなりましたか?

Jさん:
映画を作る前は、日本語で会話ができなかったし、ほとんどしてみたことがありませんでした。中学校ではもちろん、高校でも、先生とはがんばって日本語で話したりしていましたが、日本人のクラスメイトと話したり、日本語で自分のことを伝えようとしてはいませんでした。

でも、映画を作るミーティングの中で、監督さんたちが私たちが表現したいことを一生懸命聞いてアドバイスをくれたり、たくさん質問をして面白がってくれて、はじめて「みんないっしょに日本語で会話する」場に参加できたような感じがして、自信がつきました。

せな:
あと、他のプロジェクト参加者と交流会をしたり、作品の上映会での舞台あいさつなども、日本語でがんばっていたよね。そういうチャレンジをしたことで、もっと日本語を話す場に参加したりもしたのかな?

Jさん:
そうです。そのあとに、週に1回の日本語の勉強も始めて、もっと話せるようになりました。

間違えることよりも、何もしない方が問題だった


せな:

その新しいチャレンジは、どうでしたか?

Jさん:
とてもよかったです。僕は、アニメを見たり学校の勉強を自分でがんばっていたけど、日本語はなかなか上達しないと感じていました。勉強したら単語などは覚えられるけど、長い文が繋がった会話は難しくて。途中でわからなくなってしまい、それが気まずくて、そう言う会話を避けていたので、できるようになりませんでした。

元々(母国にいたとき)は積極的で外交的な性格だったのに、日本語に自信がなくて恥ずかしくて、知らない人と会話するとき、怖く感じるようになってしまっていました。

まずは、メンターと会話の練習をして、慣れることができました。知っている人のことばは知らない人より聞き取りやすいし、ゆっくり話してくれたり、こっちの言うこともわかろうとしてくれます。ことばをたくさん間違えましたが、「間違えても嫌なことはないな、平気じゃないか」と思って、今では全然平気になりました。

他の生徒といっしょにレッスンをしたり、交流したのも楽しかったです。今は、アルバイト先で他の国から来た外国人の人とも日本語で話せていて、だれとも話さなかったときや、中国人だけと話していたときとも、ずいぶん違います。

せな:
「まずはカタリバ」「次は友だち」「次は知らない人」と、大丈夫なことを確認して、自分の行動で不安を乗り越えたんですね。日本語が話せるようになる前は、どのように困っていたのかな?

Jさん:
日本語ができないと、日常生活で困ったときに助けてもらえないと思います。いつも不安な気持ちでした。

せな:
今は、もう不安には感じませんか?

Jさん:
今は全然大丈夫です。高校では、中国人の友達がいっぱいいたので、まあその人たちがいたら安心だし、他の人とも、話そうと思ったらだれとでも話せます。

前不安に感じていたのは、まだ困っていないのに、頭の中に色々なことを考えていたからです。何を話そう?もし話を間違えたら?とか。
でも、実際に間違えても、何も困らなかったです。逆に、話さないときの方が困りました(笑)

せな:
そうだったんですね(笑)
今の「だれとでも話せる自分」を、どう感じていますか?

Jさん:
強くなったと思います。知らない人と会話ができると、心のドアが開く感じがします。自信がつくし、元気な気持ちになります。それをくりかえして、また昔の外交的な自分に戻れたと思います。

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(少しずつ、はじめての人とも話し始めたJさん)

せな:
とても素敵ですね。心のドアが閉じていたときは、どんな状態だったんですか?日本にきてすぐ、中学生だったときかな?

Jさん:
そうです。心が閉じていた時は、何もやりたくなかったです。どうせ誰とも話せないので、外にも行きたくない。学校にも行きなくなかったけど行きました。でも楽しくなくて、いつも寂しかった。

せな:
大変だったね。でも、Jさんは今、自分の力でまた心のドアを開けることができたんですね。とてもすごい力だと思います。もし、昔のJさんのような人がいたら、どうアドバイスしますか?

Jさん:
僕みたいに寂しい人がいたら、環境を変えた方がいいと思います。まずは、自分が話せる相手や、つながれる人がいるところに行くことが大事だと思います。

昔の自分は、行かなかったんですけど... (笑)寂しくても、怖い気持ちがあったので、だれとなら話せるかな?とはあまり考えていませんでした。

せな:
なるほど。まずは、自分を元気にするために、環境を変えるということですね。結果的にJさんも高校でまずは中国の友だちをつくったから、これが、そのあといろんな人とつながるきっかけになったのかもしれませんね。
さいごに、Jさんが興味があること・これからやりたいことについて教えてください!

逆境から「また上がってこれる」という自信とともに、とりもどした元気をまわりに広げたい


Jさん:

製菓の専門学校で、ケーキ作りを勉強することが楽しみです。僕はケーキが大好きで、食べると元気が出ます。まずは友だちみんなにシェアして、喜んでもらえるのが楽しみです。

せな:
「まずは友だち」なんだ!さっきの話からも思いますが、Jさんは本当に人が大好きで、周りの人を大切にするよね。

Jさん:

友だちは大切ですね。周りの人には、知らない人でも、色々影響を受けていると思いますが。

楽しんでいる人を見ると、こっちも良い気分になる。自分が元気がないときは辛いので、人がそういうときは自分が引き上げたい、と思います。社会に困っている人がいることも、気になります。

せな:
どんな人のことが気になりますか?

Jさん:
家がない人とか... 1人で暮らしている高齢者も。

せな:
映画のアイデア出しのときにも、そういう社会問題について話していたもんね!いっしょに映画を作った中国ルーツのSさんも、日本の独居老人の社会問題について、気になると言っていましたね。

Jさん:
はい。中国では、家族は何世代も集まっていつも一緒にいることが多いので、日本の現状を知って驚きました。1人で住んでいるお年寄りは、倒れたら助ける人がいないし、日常的にも困ることも不安なことも多いんじゃないかなと思います。

せな:
そういう、困っている人への意識は、ずっと持っているんですか?

Jさん:
9歳くらいから、テレビで見た社会問題などの記憶があります。中国にいたときの近所にも、家はあるけど生活が苦しい家族などがいたことが、印象に残っています。そういう人たちが気になる理由は、自分もいつかお年寄りや、困った状況になるかもしれないから。今、特にそういう問題に関わる方法はわからなくてやってはいないけど、なんとなく常に気になっています。いつか何かやるかもしれないな。わからないです。

せな:
これから、社会に関わる方法はたくさんあるから、人が大好きなJさんらしく、好きな方法で関わっていけたらいいですね。進学や自分の将来については、どんな気持ちですか?

Jさん:
今は、自分に対して、楽しみな気持ちだけがあります。前あった不安などもなくて、困ったりダウンしたりしても、また上がってこれると思います。


せな:
私たちも、Jさんのこれからがとても楽しみです。応援しています!インタビューを受けてくれてありがとうございました。

〜編集後記〜
今のJさんは、自分の体験から抽出した哲学と、人間関係を広げるための行動を実践できているからこそ「また(困ることがあっても)上がってこれる」と断言できたのだろうと、辛い数年間を学びに昇華できていることを感じ、頼もしく思いました。

同時に、中学校時代のJさんのクラスでの孤立の背景に思いを馳せ、Jさんはなぜ行動できなかったのか?と考えました。本人が言う「間違いが怖かった」「そもそも日本語でコミュニケーションを取れなかった」などの障壁を乗り越える働きかけは、Jさん(マイノリティ側)だけに責任があるのか - 学びの場を作る人間として、自分だったら、どんな働きかけができるだろうか?Jさんのケースから、そんな宿題をもらったように感じました。
カタリバとの伴走内容(週1・60分)
・Glocal Cinema Meetup!(映画づくりプロジェクト) (高2年)12月-3月
「日本語の会話の練習がしたい」「日本人の大人と対話してみたい」というニーズから、生徒らが壁打ち相手の映画監督さんに対し、自分の構想やアイデアを日本語で説明し、フィードバックをもらって議論をするサポートをしました。言語サポートスタッフがいっしょに打ち合わせに入り、生徒が伝えたいことの文化的背景を補足したり、伝え方へのフィードバックや方略の伝達を行いました。

・日本語の学習(高3年)4月-6月
「日本語能力検定N4程度の日本語のレベルを、N3程度に引き上げたい」「日本語での会話や、長い文章を理解することへの苦手意識をなくしたい」という本人の課題意識から、日本語能力検定の過去問を使って、読解問題の解説を中心としたレッスンを受講しました。日本語を使って交流する機会として、違うルーツの生徒とペアになり読解問題の内容について意見を共有したり、新しく知った表現などを使って対話・教えあいを通して日本語の語彙や表現力を身に着けていきました。

7月以降は学校と連携したキャリアサポートを実施し、進学資金準備の計画や、入学手続き書類の準備サポート等を行いました。

▼Jさんのチームの作品「生活如料理 人生は料理のように」

▼イベント全体の様子はこちら(LITERACY Lab.主催)