見出し画像

「やる気がない」ではなかった、高校生たちが抱える壁に気づく

カタリバRootsプロジェクト(外国ルーツの高校生支援事業)は、国籍や生い立ちに関わらずすべての子ども若者が自分らしい将来の選択肢と出会い、自分のキャリアについて前向きに考えていけるよう、学校や地域の方々とパートナーシップを築きながら取り組んでいます。

活動をはじめて4年、様々なバックグラウンドを持つ大人の方たちが、外国ルーツの若者と出会い、応援の輪が広がっています。

関わる形や関わろうとしてくださった経緯は人それぞれ。外国ルーツの若者との出会いは、日本に暮らす大人にとってどのような体験となっているのか?まずはRootsプロジェクトにマルチワークで関わるスタッフのストーリーをシリーズで発信しています🌱

▽スタッフ青山さんのストーリー▽
社会課題に主婦のわたしが向き合える?(前編)
声が届く社会をつくりたい(後編)

本記事では、今までRootsプロジェクトにて、note記事の編集を担当してきた私自身のストーリーを書いてみました。「生徒と上手くつながれていない」モヤモヤを感じていた時に、生徒や自分自身への見方が変わったタイミングのお話です。私の目線では ”当たり前に” ”普通に” できると思い込んでいたことは、生徒たちだけでは越えられないハードル、社会の仕組みと直結したハードルになっていました。

こんにちは!スタッフのれいなです。
NPOカタリバ Rootsプロジェクト(外国ルーツの高校生支援事業)にて、note記事の編集や生徒のキャリア探究を担当しています。

外国ルーツを持つ高校生のキャリアについて、生徒と一緒に対話し考えていくとき、生徒の反応がなくて「大人が関わることを望んでいないのかも」と不安になったり、約束していた時間に来なくて「生徒はやる気がないのかも」とヤキモキしてしまう瞬間があります。

1. メッセージのやり取りが滞ってしまう
2. 生徒自身が希望していた進路に対して消極的・・?
3. 約束がしにくい、突然のキャンセル

こんなとき、高校生の目線で世界を見ると、本当は何が起こっていたのか。

最初は戸惑った生徒たちとのやりとりですが、じっくり話を聞く中で、私の当たり前と違う、彼・彼女らの環境・生活が見えてきました。


1. メッセージのやり取りが滞ってしまう

正しい日本語を使おうとしてくれるが故に

Rootsプロジェクトでは、公式LINEを使って生徒とやり取りをしています。
LINEで生徒に連絡をとって返信がないと「(大人と話すことに)乗り気ではないのかな?」と不安に思っていました。

ある時、なかなか連絡が取りにくい生徒にLINEでのコミュニケーションについて聞いた際、「LINEで日本語で質問をされたら、翻訳アプリで翻訳して意味を確認する。自分で考えた返信も翻訳アプリで確認して返信する。自分が答える日本語も、合っているか不安だから。だから、途中で返信するのを諦めてしまうことがある
という返事。

それは確かに、返信が滞るわけだ、と腑に落ちました。
生徒には「日本語が間違っていてもいいよ」「英語の方がよかったら英語でもいいよ」と既に伝えていました。
ただ、日本語の間違いを、過去に指摘されたり笑われたりして嫌な思いをしたことのある生徒や、正しい日本語で伝えようとスタッフに気遣ってくれる生徒もいます。

「英語の方がすぐ返信できるんだけど、普段は日本語なのにLINEだけ英語を使うのはちょっと違和感がある」とか、生徒それぞれの感覚も違っていたり。

返信がない=乗り気ではない、と判断する前に、コミュニケーションの仕方は適切か、
生徒にとってのハードルが何か、を立ち止まって知ろうとする
ことが大事でした。

「日本語が間違っていても大丈夫」と伝えることも無意味ではないけれど、それだけでは生徒のハードルを越えられたことにはなっていませんでした。

生徒のコミュニケーション方法の背景にある事情に思いを馳せることで、大人側が生徒の”気持ちの問題”にしてしまわない対応を考えはじめられるかもしれません。

2. 生徒自身が希望していた進路に対して消極的・・?

「進路について考える」タイミングは高校生になって突然はじまったことではなく、成長するにつれ、親や先生、親戚、友達の親、部活動や習い事で出会った人たち、メディアからの情報など段々と自分の社会は広がり、「こんな職業や生き方があるんだ」と知っていきました。

それらは全部、私にとっては日本で育って無意識に積み上がってきたことですが、移動によってリセットされてしまう、積み重ねることが困難な状況については、想像できていませんでした。

“ふつうに”進路を選ぶことの前にあるハードル

日本で生きていて想像する進路準備のイメージは、外国ルーツの高校生にとっては、「スムーズにいかない」ことも少なくありません。

例えば、生徒の進学先について一緒に調べ、希望する学校のオープンキャンパスに行くことを決め、次の伴走までにオープンキャンパスの予約を約束しました。
メッセージで「予約できた?」と聞くと「できていないです」

自分の名前が申し込みの名前欄にはねられる

理由は、仕組みの問題。オープンキャンパスの予約時、ほとんどの申し込み欄で「お名前(漢字)」と「お名前(フリガナ)」の入力が必須・・・
漢字名でしか登録できず、諦めたり、諦めずに問い合わせても「外部委託先に連絡してください」とたらい回しに合うことも。

こんな風に、生徒が”できない”ことは、生徒自身の気持ちの問題ではなく、忘れていたわけでもなく、背景に仕組みの問題があったりします

高校卒業後、大学進学という進路を選ぶ場合、学費の安い選択肢は国公立ですが(奨学制度利用等を除いて)、学習過程の途中で日本にやってきたり、家族のサポートをしながら暮らす生徒たちにとっては、自分の将来のために時間を確保したり、日本語をつかってみんなと並んで点数を取るのはとても難易度が高いです。

そうすると、奨学金を取って私立や専門学校に通う、ことを検討するのですが、生徒の持つ在留資格によっては、使える奨学金がないという状況もあります。

奨学金やアルバイトだって簡単じゃない。
アルバイトでお金を貯めようにも、慣れない日本語でアルバイトを検索し、面接を受け、働く、ことも簡単にできることではない。また宗教によっては、働く場所に配慮が必要なこともあり、そもそも働く場所の選択肢がないこともあります。

一つ一つは小さいことに見えるかもしれません。
ただ、未来に希望をもって見つけたオープンキャンパスの申し込みページで入力エラーになる、いろいろ頑張って調べて、いざ入りたい!となって学費を調べたら払える額ではなかった、申し込める奨学金もない・・・

全ての原因は自分(生徒自身)のせいではないのに

、、、なんてことが、次々に起きると、単純に疲れてしまう、誰でもその先に進む元気はなくなっていくのではないだろうか、と思います。

3. 約束がしにくい、突然のキャンセル

生徒と話す時間を決めるため「〜曜日の〜時からはどうかな?」といくつか聞いてもスケジュールが埋まっていることがあります。

約束していた時間にメッセージを送ると「バイトで手伝ってほしいと言われたから今日は難しい」と返ってきたりします。

高校生が自身の意思で自由に使える時間は意外と少ない・・・

関わっている高校生の中には、彼・彼女ら自身が自由に使える時間が非常に少ない生徒も少なくありません。1週間のスケジュールをよくよく聞くと、アルバイトと学校、通常授業に加えて日本語の支援教室もがんばっていたりして、予定は詰め詰めだったりします。日本語が苦手な両親の代わりに兄弟の勉強を見たり、行事に参加したり、家族のサポートで忙しい生徒もたくさんいます。

私自身が過ごしていた高校生活とはほど遠く「自分で何をしたいのか」を決めて良い時間が、想像以上に少ない生活を送っている生徒が多いのです。

そんな風に、外国にルーツを持つ若者が自分なりの進路を歩もうとするとき、当たり前に家族と日本語を喋り、日本で生まれ育つと不便に思わないこと一つ一つが、私が想像するよりももっと生徒にとって大きい高い壁になっている、ことを段々と知っていきました。


この記事で書いた私が感じた生徒との関わりの中で感じた不安やヤキモキ、
それらは全て、生徒にやる気がなかったり、さぼっていたり、大人に対して拒否感がある・・・?
そんなことは全く起きておらず、背景には、私には見えていなかった外国にルーツを持つ彼・彼女らの前に存在するいろんな壁がありました。

Rootsプロジェクトのスタッフの青山さんの記事(記事:社会課題に主婦のわたしが向き合える?(前編))では、自分のマイノリティ性に気づき、生徒との共通点を見つけていったことが書かれていましたが、

私自身も、生徒たちのハードルに気づくにつれ、日常生活や大人同士の仕事でも、周りの人のそれぞれの人生の裏にある、その人自身ではどうにもできない「生きにくさ」を少し考えてみる時間が増えたように思います。

外国にルーツを持つ子ども若者の「生きにくさ」は、そのままでは彼・彼女らの将来の選択肢を阻めてしまう。生徒自身が自分のせいだと思ってしまいがちな社会のハードル存在に、近くにいる大人が気づくことができれば、手を差し伸べられることがあるかもしれません。

後半の記事は、生徒自身も気づきにくい”ハードル”、その上でも選択肢を広げるためにできること、を考えていきたいと思います。