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あたしの家にスカルライダーが転がり込んできた

「ねー、やめてくんない?学校まで迎えにくんの。」

  コイツはスカルライダー。ウチの最悪の居候。
  懲りずに校門前に停めてやがった。今日のあたしは目力強めで言ったけど、コイツは顔色一つ変えない。てか、顔色あんのか?
  取り敢えず、あたしはコイツに聞こえるくらい舌打ちをかまして、別の帰り道を選んだ。

  そもそも出会いが最悪だった。一年前の今日、つまりあたしの誕生日。
  あたしは買ったピノが、全て星型という激レアイベントに遭遇していた。かなり有頂天。でも良い事ってのは続かない。突然遠くで雷が落ちたと思ったら、エンジン全開でバイクが突っ込んで来た。オイふざけんな。5、6人轢いてんじゃねぇか。細切れになったスクールカーストトップの血が制服に着いてあたしはブチ切れ。 でも、アイツはマジで無神経だから、そんなの関係なくカードを渡してきた。

スカルライダー【闇】
☆☆☆☆☆☆
【アンデット族/儀式】
「スカルライダーの復活」により降臨。
場か手札から、星の数が合計6個以上になるようカードを生け贄に捧げなければならない。
攻1900/守1850

  イラストには、目の前にいるヤツと同じ雄牛みたいな角付きの髑髏男と、トゲまみれのタイヤを履いたイカつい骨バイクが描かれていた。まあ、外見はそこそこなんじゃない。

「けど、星型のピノで降臨するのはどうなの。」

  あたしが顔を上げると、アイツの背中はもう見えなくなってた。ホント最悪。思い出したらムカついてきた。

  まだムカつくことは続く。だって居候になったとこまで話してないでしょ?話すとあたしの精神衛生上良くないから細かくは言わない。だけど、なんであたしよりパパとママの評価が高いわけ?

「スカルくんが来てから助かるわぁ。この前、調子悪かったプリンターの修理してくれたのよぉ。(ママ談)」
「スカルくんとは酒の趣味があってなぁ。今度飲みに行く約束立てちゃったよ笑(パパ談)」

  一年経つけどマジでアイツのことは分かんない。あたしの前じゃ一言も喋らないくせに、ママ達の前だとめっちゃ喋んじゃん。てか、バイク降りられるのかよ。

「ただいまぁ。」
「おかえり。あら、スカルくんと一緒じゃないの?」
「あーうん、まぁね。」
「ダメよ、仲良くしなきゃ。あの子、一番にお祝いしたいってはしゃいでたんだから。」
「はいはい……え?」

  誕生日を覚えてるのは意外だった。てっきり、あたしとは喋りたくもないと思ってたのに。

「きっとあなたの前ではカッコつけていたいのよ。」

  なにそれ。ちょっとムカつく。ギャップとか勘弁しろや。
  そこに轟音が響いた。家の周りが田んぼでマジで良かった。

「ほら、行ってきなさいな。」

  ママがあたしを玄関まで送ると、血まみれのバイクに乗ったアイツがエンジンをふかしていた。完全に7、8人は轢いてる。
  でも、あたしを待つ姿は、ちょっとだけ散歩をせがむ犬みたいで可愛いと思ったのは内緒ね。

「誕生日覚えてたの。」

  出来るだけぶっきらぼうに聞いてみる。アイツは今日も何も言わない。そして、言葉の代わりに手招きをしてきた。

「あんた喋れるなら……。」

  あたしの文句をよそに、アイツは頭に何か乗せてきた。それは黒地に赤矢印のデザイン、ワンポイントに髑髏があしらわれたハーフキャップのヘルメットだった。後でママに聞いたら、Uber Eatsのバイトでコツコツ貯めて買ったんだって。めっちゃ可愛い。

「……ありがと。」

  照れながら後ろに跨ると、返事といわんばかりにバイクはエンジンを轟かせる。龍の唸り声に似たその音は、あたしのお腹の底まで響いて、思わずあたしはアイツの背中を掴んでいた。
  その瞬間、景色が飛んだ。

「ご飯までには帰って来るのよーっ!」

  ママの声を置き去りにして、田園をかっ飛ばすあたし達。登校中の景色を72倍速再生してるみたい!もう高速!?

  夕日の照らす高速道路は橙色の川だった。周りの車は岩みたいに遅い。だからアイツはバラバラにしていった。アイツの頭に思いやりとかマジで欠けてるから、トゲトゲのタイヤを手当たり次第に車輌へ食い込ませていった。次々に吹き飛ぶタクシー、軽自動車、3トントラック。爆風はあたしの頰を撫で、空に華を咲かせていく。

「キレイ……。」

  最後にタンクローリーが爆ぜると、炎の巨大樹が完成した。あたしがまた背中をぎゅっと掴むと、バイクはより速度を増していった。

  コイツはスカルライダー、あたしの家の最悪の居候で最高の爆走王。

  誕生日が終わるまであたし達は駆け続ける。
(おわり)

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