見出し画像

刀を沢山飾れる展示ケースを進んで作らない理由

「刀を複数飾れる展示ケースが欲しい」
「刀を複数飾れる展示ケースは作らないの?」
これは問い合わせの中でもそこそこあるものの一つなのですが、よほど要望が強くない限り私はあまり作っていません。
そしてあまりお勧めはしていません。
これは私のこだわりの1つなのですが、今回はその理由について書こうと思います。
(「刀とくらす」生活を提供する事が仕事なので依頼があればその中では出来る限りの物を作りますが)

①特別感を演出しづらい

美術館で作品を見ている時、その作品以外目に入って来ない気がしませんか?
これはその作品を見るときはそれ以外の作品が視界に入らないように意図的に配慮された配置だと個人的には思っています。
これは言い換えれば「展示している作品の特別感を演出している」とも言う事が出来ます。
勿論その他にも混雑対策や、展示物同士が近い事による接触事故の防止、
展示ケース内で綺麗に見せられる場所が限定されているなどの理由もあるかもしれません。

画像1


刀で言えば、大体美術館では80cm~1mは離して展示されています。
このぐらい離してあれば刀を見たときに隣の刀が視界に入って邪魔してくることはありません。

画像2


さらに東京国立博物館では最新の展示ケースがこの前導入されましたが、
本来刀を2つ飾れる空間にあえて一振りだけ展示するという方法を取ったことがありました。
なんとも贅沢な展示ケースの使い方ですが、これこそ特別感の演出に他なりません。
それが以下の大包平の展示。

画像3

(画像転載元:https://twitter.com/sayonosuke/status/1286625229112975360?s=20)

画像4

(画像転載元:https://twitter.com/yuiuraaka/status/1279657373062201344?s=20

コロナ下でもあったので混雑回避が一番の理由の気もしますが、結果的にこの展示を見て神々しさを感じた方も多いのではないでしょうか?

私が展示ケースを作る上で大切にしている事の1つに「美術館のように刀を飾る」というのがありますが、これを実現するためにはライト云々の前に、「飾る展示物の特別感を如何に演出出来るか」という事を意識しなければならないと考えます。
ここを考えないと例えば以下のように、見た時にノイズの多い雑多なケースになります。
この陳列方法は高価なものを飾るには適さないと個人的には考えます。

画像5

(画像転載元:https://twitter.com/yuu_ten/status/987911019363106816?s=20)


以前私が作った以下の「刀箱漆」も漆を使う面積を取りすぎるとそれがノイズになり、雑多なケースになるのを恐れ、底面だけにとどめました。

画像6

刀箱 漆


もし背面も土台と同じ柄を使って製作していたらどうなっていたか?
きっと背面から受けるノイズが強すぎて刀に集中出来ません。
そう考えると、必ずしも良いものを使えば良いケースが出来るという事が幻想という事はご理解頂けると思います。



②展示ケースに飾って刀の世界観を拡張しづらい

刀にはそれぞれの歴史があり、特徴があります。
生まれた時代も違ければ場所も違います。
そういった刀の個性とも言えるべき特徴や世界観を、展示ケースは拡張出来る可能性があると考えています。

画像8

画像9

画像11


しかし中に刀が複数あると特徴がごっちゃになり、例えば以下のように魅せたい世界観を統一することがとても難しくなります。

画像11


古刀には古刀にあった色や柄があります。
新刀には新刀にあった色や柄があります。
刃文や地景によっても合う色や柄が変わってきます。
そこを考え抜かないと刀の世界観を展示ケース側で拡張する事は難しいと考えます。


③神仏を飾るつもりで作る

刀は武器ですが、同時に神仏としても大切にされてきました。
御守りは相性の悪い神様同士を一緒にしないというのを聞いたことがあるかも知れません。
これは一種の信仰の1つに過ぎないかもしれませんが、私は刀も同様に考えています。
他にも、財布のお札の向きは揃える、レシートは一緒にしない、小銭は小銭入れに分ける、などなどお金が過ごしやすい環境を整えるとお金も入ってくるようになる、とは何かの本に書いてありました。
まぁこれは実際にやってみると別な所に本来の意味がある事が分かるので、是非やって見て下さい。

一振りの刀には一つのケースを。
刀にも過ごしやすい環境を作る。
そうすると刀も増える。
(おっと、、それは困りますね…。)

そんなことを大切にしながら作っています。

画像12



④目が疲れる

刀を沢山見ると意外に疲れます。
ライトの光が刀身に反射するので目が疲れるというのが主な理由かもしれませんが、中に飾ってある刀の数が増えるほど目に入ってくる情報が増えるので純粋に疲れやすくなります。
(稀に生気を吸われるようなどっと疲れる刀も中にはある気がしますが…)

私は「刀とくらす」をコンセプトに刀の展示ケースを作っていますが、飾ってある刀を見る事で、見た人が日々のストレスや疲れをリフレッシュするようなものを作りたいと考えています。
刀を手に取って刃文や地鉄を見ているうちに無意識に集中している事が多々あります。
そして鑑賞し終わってみると意外に疲れが取れていたりします。
これをケース越しに実現する事を一つの目標にしています。

だからこそなるべく疲れる可能性のある事は排除したいと考えています。
刀を手に取って疲れが取れるのは一振りしか目に入ってこない状況だからと考えます。

画像13


⑤終わりに

考えている事の一部を今回文章にしてみましたが、シンプルに書くとすれば
「刀を安全に管理しつつ綺麗に飾る為にベストな事を追求したい」
という事だけを考えて作っています。
これが満たせる良い方法が他に思いつくようであれば、今回書いたような考えはある日ぱっと捨てるかもしれません。
…まぁでも恐らくあまり変わらないでしょう。

美術館の展示って余白(何もない空間)の使い方がとても上手いんですよね。

画像16

(画像転載元:https://www.yamagiwa.co.jp/case/51.html)


鍔の名工の加納夏雄も余白の使い方が抜群に上手い。

画像15


展示ケースも空間を大事にするが大切に感じます。


今回も読んで下さりありがとうございました!
面白かった方はハートマークを押してもらえると嬉しいです^^
記事更新の励みになります。
それでは皆様良き御刀ライフを~!

画像14

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?