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42億円の陶磁器と菊御作(刀)の共通点

以下は2017年にサザビーズ香港オークションにて超高額で落札された宋時代(960~1279年)の汝窯青磁筆洗(じょようせいじひっせん)という中国陶磁である。現在確認されている個人所蔵品は4点のみ。

(画像出典:PRTIMES

開始金額は驚愕の12億円スタート。
会場と電話により多くの入札が集まり30億円まで瞬く間に値が上がる。
最後は緊迫した空気の中、20分という時間を掛けて42億4800万円という陶磁器の世界最高額を付けて落札。(参考:PRTIMES

一見ただの皿にしか見えないこの品になぜここまで高額な値が付いたのか。
記事によると、1000年前に作られたこの陶磁器に多くの人が関心を寄せる理由は主に4つあるという。(以下カッコ内は私の解釈)

・北宋の皇帝用の陶磁器として作られた事(品位の高さ)
・現存数が極めて少ない事(希少性)
・今も解明されていないミステリアスな製作方法(再現性の低さ)
・天青色と呼ばれる優美で潤いのある淡い青の色味(美しさ)


この4つであるが、よく考えてみれば日本刀にも当てはまる。
例えば鎌倉時代に後鳥羽上皇(1180~1239年)により作られた菊御作を例に出してみる。約800年前の品であり、茎に天皇家の紋である16枚の菊紋が毛彫されている事から菊御作と呼ばれている。

(画像出典:e国宝 太刀 菊御作
茎の錆際に菊紋が薄っすら確認出来る(画像出典:e国宝 太刀 菊御作

菊御作で書いてみると、以下のような感じだろうか。

・日本の王とも言える天皇自らが製作した作である(品位の高さ)
・現存数は約10程度(御物2、旧御物2、重文3、個人蔵数点)(希少性)
・鎌倉時代の刀は現時点で製法が分からず作れない(再現性の低さ)
・腰反りの優美な姿に粟田口のような潤いある小板目の地鉄(美しさ)     ※一文字派の作風を示すものもある

先に挙げた陶磁器の条件を満たしている。
何なら先の陶磁器は皇帝用に作られたかもしれないが、菊御作は天皇自らが作ったとされている。
現存数も美術館に入っているものなどを合算すれば大体同じくらいだろう。

強いて差を挙げるのであれば、武器と言う点で嫌煙する人が一定数いること(誰かを殺傷しているかもしれないという気持ち的なマイナス面)と、色の綺麗さが分かりづらい、という点ではないだろうか。
刀に興味が無い人に姿の美しさや地鉄の綺麗さを説くのは難しいし、どんなに綺麗でも人を殺傷した物を持ちたくないという人は必ずいる。
一方で先の陶磁器は人を殺傷しているわけはないし、陶磁器に興味が無い人でも「色が綺麗」位には感じる事が出来る。

さてこの菊御作であるが、5年程前に3000万円位で売りに出ているのを見かけた記憶がある。といっても無銘であり菊紋も残っておらず、鑑定書頼みの刀にはなってしまうが。
菊紋が残っていたら倍位の金額にはなるだろうか。
重文などになれば1~3億位だろうか。
分からないが10億は確実にいかないだろう。

先の陶磁器がいくら希少性が高く美しいとはいえ、42億円という価格を見るともっと日本刀は評価される余地が残っているように感じる。
日本では悲しいかな所有する人が減り日常から忘れられていく刀も、日本刀の姿や鉄色の美しさなどの認知が進み、武器という点での嫌悪感が薄れて多くの人から美術品として認められる時代が来た時、世界で日本刀の再評価が今後進んでいくのではないだろうか。
私はそう思う。

あと30年もしたら日本で日本刀を手に入れるのが難しくなっているかもしれない。名刀はもっと早くに日本を離れることだろう。
今現在日本で刀を手に入れやすい(選べる)状況というのは今生きている私達にとっては実はとても幸運なのかもしれない。

日本人よ。早く刀を買うのです。


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それでは皆様良き御刀ライフを~!

↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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