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この菊花透の鉄鐔はいつ頃のものなのか考察

先日刀心さんのサイトで菊花透の鉄鐔を購入させて頂いた。
横59㎜、縦61㎜、茎孔27㎜、耳厚2㎜、切羽台厚1㎜、重さ20gとかなり小ぶり。櫃孔は7㎜×15㎜位ある。

写真でなかなか鉄味は分からなかったものの良さそうに思えた事、薄手で小ぶりな菊花透鐔を見た事が無かったので興味が湧いた次第である。
茎孔のサイズ的に脇差or短刀に付けられたと考えられる。

①実戦的な形状を思わせる

ところで鐔に刃を受け止める役割があったのかを考えると、いかにも強度的に弱そうな透かし鐔があれだけ江戸期に流行った事に違和感を覚える。
「平和だったから飾りとして意匠に拘った」と簡単に片づけて良いものか?

個人的に刃鐔の主な役割はバランス調整と突いた際に手が刃側へ滑るのを抑える為のストッパーとしての役割が主だったのではないかと感じる。
そういう視点で見た時に短刀や脇差を扱う際に鐔は軽い方が良いか、重い方が良いかを考えると、やはり最小限の動作で相手に深手を負わす事の出来る「刺す」という動作がより重要になってくるのではないかと考える。
ただ私は武道を嗜んでいるわけではないのであくまで、個人的に何となくそう思う程度ではあるが、もしこの理屈が合っていれば鐔は軽い方が理にかなっている

手が刃側へ滑らないようにするストッパーの役割だけ持たせて極限まで軽くする。20gという重さからも、そういう実戦的な形状、意味合いをこの鐔から感じる。


②鉄鐔が主流となる時代について

鉄鐔自体は室町時代からの古刀匠鐔や古甲冑師鐔にも見られるが、あさひ刀剣さんのこちらの解説などを拝読すると、鉄鐔で江戸時代以前の物はかなり少ない、と書いてある。

本来皆さんが思っている鐔(江戸期以前のもの)は想像以上に現存が少ないという現実です。桃山期以前の作は一部(伝来品や山銅鐔など)を除きほぼ皆無、江戸初期から前期は多少散見される程度、江戸中期以降になってやっと隆盛を迎えます。これを全て合わせても現在流通している鐔に占める割合はおそらく約1〜2割程度と推測されます。鐔研究家の鶴飼富祐氏は著書『新説 刀鐔考』の中で、時代鐔は約1割、他は明治期以降に作られた新物(倣作)と言っています。そして今日もまた真新しい倣古作が生まれているとも・・・。そうでなければ古刀匠・古甲冑師などは出てきません。
(引用元:あさひ刀剣「大量に流通している鉄鐔をどうみるか」より一部抜粋

私自身、鉄への錆付の知識などもまだまだなく、錆色からだけで古さを判断出来るレベルでは到底無いので、作り込みから少し考えてみようと思う。
結論から言えば江戸時代頃のものと見ている。


③菊花透鐔を時代毎に並べる

ネットにあった南北朝時代、室町時代、江戸時代の菊花透鐔を並べてみる。

南北朝時代の菊花透鐔 赤銅地(画像出典:永楽堂
室町時代の菊花透鐔 山銅地(画像出典:飯田高遠堂
室町時代の菊花透鐔 山銅地(画像出典:銀座長州屋
室町時代の菊花透鐔 山銅地(画像出典:銀座長州屋


時代不明(甲冑師系統で在銘。時代の上がると考えられる)菊花透鐔 鉄地
(画像出典:鐔鑑賞記 by Zenzai
江戸時代の菊花透鐔 鉄地(画像出典:文化遺産オンライン

更にTwitterで古そうな菊花透鐔を上げられている方についても取り上げさせて頂く。

これらを見ると、室町期以前の物は鉄ではなく、山銅や赤銅といった素材という点。
甲冑師の系統であるという時代不明の鉄鐔(櫃孔が古そう)があり、こちらがいつの時代か悩ましいが、鐔に銘を入れるのは室町では殆ど無い事からするとやや新しいようにも個人的には感じる。

次に櫃孔の形状を見てみると、角ばっている物と丸い物がある事に気が付く。室町期とされる物で丸い物もあるが、角ばっている物の方が多いように見受けられる。
購入した鐔も角ばっているようにも思え、そういう点では少し古さを感じる要因でもある。


④村瀨陸氏が発表した研究

ここで2018年に村瀨陸氏が発表した「刀装具鋳型の三次元分析からみた近世鋳造技術の研究」を見てみる。
これは2015 年に奈良町遺跡(奈良市柳町)で出土した江戸時代初頭の刀装具鋳造鋳型に対して SfM を用いた三次元計測を実施し、これにより得た基礎情報から近世鋳造技術の一端を解明すること を目的とした研究である。
これによると以下のような鐔が江戸初期の物と考えられる事が分かる。

(画像出典:村瀨陸「刀装具鋳型の三次元分析からみた近世鋳造技術の研究」
(画像出典:村瀨陸「刀装具鋳型の三次元分析からみた近世鋳造技術の研究」

資料に目を通していると、「TA6」のような角ばった櫃孔や、「TKH1」のような櫃孔もある事が見て取れる。
つまり櫃孔の形状だけで古さを特定するのは少し危険かもしれない。
鋳造品には端面などにバリが見られるという特徴があるが、購入した鐔にはそうした箇所は見受けられない気がする

(画像出典:村瀨陸「刀装具鋳型の三次元分析からみた近世鋳造技術の研究」
(画像出典:村瀨陸「刀装具鋳型の三次元分析からみた近世鋳造技術の研究」



⑤結論

という事で、櫃孔の形状からは時代の特定が難しく、「鉄である」という点、「脇差や短刀に付けるサイズである」という点からこの鐔はやはり江戸期頃の物ではないかと思った次第。

錆の付き方は良く見えるが如何だろうか。
錆については引き続き勉強していき改めて何か発見があればまた書きたいと思う。
あ、ちなみに無鑑定品です。


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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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