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刀の鑑定精度を過去一番高めるには成分分析しかないと思う理由

仮に「名刀を含め、刀を沢山見た人が目利きである」という仮定が正しいとするならば、本間薫山、佐藤寒山の両名より刀が視える人は今後現れるのだろうか。
そう思う理由は主に2つあり、1つは国宝や重要文化財の接点の減少、2つ目が大コレクターの減少である。

1つ目について、昭和の時代は国宝、重文の刀が鑑賞会に並んでいたようであるが、今は美術館に納まって出てこないので、一般の愛刀家がそうした刀を手に取れる機会も無くなり愛刀家そのもののレベルも昭和の時代に比べて下がっていると考えるのが自然だろう。

2つ目、昔のコレクターは1人で国宝や重文を何十振りも抱えていた人が沢山いる。(岡野多郎松氏や、伊勢寅彦氏などはじめとして)
そうした人が愛刀家同士で勉強会などを開けばそれだけで知見も相当に増え研究も一気に進むだろう。
そういう意味では愛刀家も育ちやすい環境があったのではないだろうか。
しかし今はそうした大コレクターが減っているという。

一方で現在は過去の鑑定資料など刀の情報がデータベース化されて、様々な刀のデータを比較出来る点は昔よりも優れているのは間違いない。
しかしこれは実物を見て直感で判断出来る感覚とはまた少し別であるようにも思う。
故に昭和の時代よりも刀の鑑定、鑑識が向上しているのかという点は個人的には疑問を感じる所である。
(断っておくが日刀保の鑑定に不満を表したり否定しているわけではない)

その中において現代において刀を一番見てきた人は、薫山寒山両名を師に持ちながら現在鞘書きを全世界から依頼され多忙を極めているであろう田野邉道宏(探山)氏ではないだろうか。
「五ヶ伝の旅」の著者でもある。
しかし田野邉氏は審査員からはもう外れているようである。

今の審査形態は複数人で刀を見て判断する方式であり、重要刀剣以上の審査になると外部からも審査員を招いて審査をしているようである。
どういった方が審査員なのかという情報は残念ながら非公開である。
分かっているのは刀の売買を商売にしている刀剣商は審査に関与出来ない、という事くらい。
これは公平な審査を目指す上で致し方無い事ではあると理解しているが、やはり生活を掛けて刀を見ている人達は一番刀が視えているように個人的には思えてならない。
故にそうした人達が審査員でないというのは少し残念に思う所はある。

国宝や重要文化財の接点の減少、大コレクターの減少、そのような環境下で今後、寒山薫山、両氏を超える若い逸材が生まれてくる可能性はもうほぼほぼ無いのではないだろうか。
刀の鑑定精度を昭和の時代よりも上げていく為には、国宝や重文も含めた成分分析など科学的な技術の力に頼らざるを得ない気がしているが如何だろう。
成分分析をする為には研いだ時に出る鉄粉などが必要になるかもしれない。
予算はどうするのか、それをする事で正宗だと思っていた刀が実は新刀の化かし物であった、という事態も当然起こるだろう。

資産として見ている人の中には反対する人も多いだろうからなかなかそうした成分分析などはなかなか実現しないと思われるが、損得の発生しない国立博物館などで管理している国宝、重文ならそうした反対も出にくいかもしれない。ただ成分分析の為に研ぐ事は流石に出来ないと思われるので、今後研ぐ機会などがあれば、その際に出た粉を今後の為に残しておくのは1つ有用なのではないだろうか。

尚、画像を使ったAI判定は個人的にはまだ難しいと思う。
何を「正」とさせるかが実際大事であり、その「正」を見つけるには刀に使われている鋼の成分から時代や地域を特定するしかないと考えている。
あの正宗は本阿弥光徳が言っているのだから間違いない、本間薫山が間違いないと言っていたのだから間違いない、という考え方は排除しなければならない。
そこを正としてしまうと、光徳AIや薫山AIは作れても、鑑定精度を当時より高める事は出来ないはずである。
目の前の材質を解明して時代を特定して作者を特定する、これが出来た時に初めて現代が過去のどの時よりも鑑定精度が上がった、と言える時ではないだろうか。

話は戻るが「正」を正しく分類出来てからなら画像によるAI判定も精度の高い物が出来るのではないだろうか。


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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑

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