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オリジナル小説 ディスライク#15

故意なのか本来の姿なのか分かりかねるが、みなずくさんは腕をだらしなく下げた。
右手の二本の指に、ゴツいデザインの指輪を装着している。そのうちの一本、中指にはアーマードリングが光っている。あれらの指輪を装着した状態で殴られたならば、さぞや痛かろう。
正面を向く私を殴る場合、私の左頬に向かってストレートに拳が飛び歯が飛び、突然の衝撃と痛みに左頬に手をやりながら困惑する私。世界はスロー再生に切り替わっている。鮮血にまみれた私の歯を拾い、そっと差し出すみなずくさん。口元には微笑をたたえている……。
ああ、今すぐみなずくさんに殴られたい!
身悶えながら、壁に頭を打ち付けたくなる。目が虚ろなこんな私を見たら、みなずくさんは嫌悪感をあからさまにするだろう。想像しただけでぞくぞくする。さぁどうぞ、私を蔑視してください。みなずくさん限定で。

ネットカフェの個室に入り、ホットココアを飲みながらぼんやりとパソコン画面を見つめていたら、瞼が重くなってきた。ちょっと横になろう。眠れるかもしれない。
目が覚めて携帯の画面を確認したところ、みなずくさんから着信があったのでかけてみた。コール音が数回続く。
「はい」
「成田です。着信残ってたみたいなんですけど」
「ああ、声を聞きたくなったので、電話しました」
どのような意図で口にしたのか分からぬが、その台詞に自然と胸が高鳴る。
「すみません、寝てました」
「いえ、こちらこそお休み中に失礼しました」
間が開く。
「みなずくさん」
「はい」
「好きな人はいますか?」
「います」
「それは……」
一呼吸あり、「さらしなです」と六文字の台詞を、私の凡庸な脳は受信した。
パソコン画面の前には冷めたココア。


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