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【かすみを食べて生きる 32 リハビリ病院1か月目⑨】ワレンベルグ症候群による嚥下障害のリハビリなどの記録

脳梗塞 発症30日目:リハビリ病院9日目
・食事:飲み込みができないため絶飲食。食事は鼻からの経管栄養。
・状態:歩行訓練中。日中、歩行器自立。終日、車いす自立。
・嚥下:嚥下訓練中。首を左に向ければごく少量の水を飲み込める。

この日はえらくしんどかった。

これまでのお話はこちら『かすみを食べて生きる 序文と目次』
発症29日目:リハビリ病院1か月目⑧
 
発症31日目:リハビリ病院1か月目⑩>


微熱

今日は一日37.0~37.4度の嫌な微熱が続いた。
37.5度になるとまた感染対策ガイドライン的にアウトになり、カーテン内隔離、ベッド上リハビリ、PCR検査が待っている。
私は検温のたびに脇の下の服をパタパタさせ熱を逃がしてから体温計をはさむ。
37,5度を超えると看護師さんと「もう一度計ってみましょう」とさらに脇を冷まして計る。
そして37,4を下回ればセーフ。
一体何と戦っているのか。
ただ今日はちょっとだるさもありしんどかった。

叫び声は生活音

入院直後から病棟内では日中のほとんどの時間、ある患者さんの叫び声が聞こえている。
「せんせー!せんせー!」
身体を動かせない患者さんが、ベッドで一人になると大声で人を呼んでしまうとのことだった。
これまで「せんせー!」のみだった叫び声に、今日新たなバリエーションが加わった。
「せんせー!たすけてー!」
助けを呼び続けている。これは聞いていてしんどい。
心配になる。
看護師さんもできる限り対応にいっているけど、その方一人に張り付きになるわけにはいかない。
そしてその方が力尽きて眠るまで、病棟内に声が響き続ける。
「せんせー!たすけてー!」

独り言大合唱

同室の皆さん、就寝前になると独り言を言い始める。
中野さん(仮)は家族との話し合いでのことを思い出して怒っている。
門田さん(仮)は帰りたい、帰りたいとつぶやいている。
楠木さん(仮)はしんどい、しんどいと言い続けている。
いっそ全員カーテンを開けて愚痴りあったらいいのではないかと思う。
でもそれぞれと話した際に、みなさん耳の聞こえが悪くなっているようで、話をするのが少ししんどそうでもあった。
もしや皆さんは他の方の独り言は聞こえてないのか。
みんなそれぞれ、しんどい。わかる。
でも、さぁ寝ようかのタイミングでこの大合唱を聞かねばならないこちらも、かなりしんどい。
さらに大合唱の声を越えて、あちらの声も聞こえる。
「せんせー!たすけてー!」

点滴フックのタグ

夜ベッドで横になると、天井に点滴を吊り下げるためのフックが見えた。

3つの点滴フック

まだ新しいのかタグが付いている。
気になってベッド上に立ちあがって写真を撮ってみる。

点滴フックのタグ

安全荷重35㎏。
私の体重は誤嚥性肺炎で経鼻栄養が見送られたこともあり、落ちている。
今、35㎏ちょっと。
35㎏耐えれるなら、これにパジャマでも通して、首にかければ。
看護師さんの巡回時間もだいたいわかっている。
消灯後の巡回から次の巡回まで2時間以上は空くはず。
準備して、巡回直後に首を吊れば。
きっと楽になれる。
もう疲れた、楽になりたい。

そこで声が聞こえた。
「せんせー!たすけてー!」
あの人、夜も元気やな。
もういいわ、疲れたし、寝よ。


ーー振り返って

点滴フックのタグは見えると患者が変な気を起こすから取った方がいいと、退院時のアンケートに書こうと思っていたのに、退院する頃には忘れてました。
後で調べたところあのタイプの点滴フックは30㎏以上のものをぶら下げるとフックが変形して取付物が落下して、不慮の事故を防ぐと書いてありました。
あやうく高所から落ちて、取り返しのつかない怪我をするところでした。

リハビリ病院、楽しく過ごさせてもらっていましたが、患者同士の共同生活はどうしても、万事快適と言えるものではありませんでした。
同世代がいない、周りは夜になるとみんな独り言をつぶやきだす。
発症1か月、まだ飲み込みができない。
自分のテンションを常に少し高めに置いておかないと、それまで自分がいた世界とかけ離れたリハビリ病院という不思議の国に飲み込まれそうでした。
そして、遠くから聞こえる患者さんの叫び声は聞いていてとてもしんどかったのですが、みんなが寝静まって気持ちが落ちに落ちた時に私を現実に引き戻してくれたのは、あの方の叫び声でした。


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