【詩】コモ湖(印象)
コモ湖のその水域は
南に向かってのびている
連なる山に挟まれて
湾と入り江をなし
岸は出入りを繰り返す
やがて、やにわに幅を狭め
流れとなって、川に変貌する
マンゾーニが書いた
北イタリアの湖
アルプスのほとりは
朝のひかりに、澄んでいる
青く湛えた水の鏡に
かこむ山かげを映している
ざわめく風を宥めている
斜面をのぼるケーブルカーで
かがやく湖畔を一望する
雲がたなびいている
あの山のむこうは国境の町だ
浮かんでいる、すぐそこに
波止場に降りれば
岸辺と岸辺をつなぐ白い船が
波をけたたて走っていく
雪解けの山のにおい
駆けおりる森のざわめき
谷にむかう暗い水のゆらめき
おしよせて、ひきかえす
湖面に想う底知れぬうねりを
みつめている、言葉もなく
ドゥオモの鐘が正午を告げた
この街の太陽は近い
明々と照らしだされる
汚れも、疲れも、痛みも
熱に浮いて、蒸発していく
湖と空が触れあう透明なすき間に
人は、まなざしを横たえて
波の鼓動に耳をすます
瞳に降る太陽のしぶきを
抱えるように両手をひろげ
つかみようのないまぶしさを
確かめている
※冒頭はアレッサンドロ・マンゾーニ『I promessi sposi』拙訳
©2022 Hiroshi Kasumi
お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。