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【詩】珈琲時間

珈琲を煎れる
うちのマシンは豆を挽いて
ペーパーでドリップするタイプだ
幾分深煎りのロイヤルスイート
ブラジルとコロンビアのブレンドだ
適度な苦味と強いアロマ
実のところ、酸味が苦手なのだ

モーターの回転で
艶のある豆を粉砕し
そのままドリッパーに落とし込んで
すかさず、沸いたお湯のしずくを
ドームの屋根から滴らせる
降り積もった砂地に染み込んで
やがて、細いドレンから
ガラスの器に溢れ出す
煮えたぎる褐色の五月雨
しぶきがもたらすカタストロフ
滝となって浸してゆく
ただよう薫り、蒸気の叫び
至福の時に心がおどる

熱い溜まりをそのままに
マグに注いで、口にふくむ
ミルクも砂糖も加えはしない
甘いのは苦手なのだ
舌をとろかす抽出物が
喉にむかって流れていく
口にするたび、旨味もコクも
期待したほどじゃなかった、と思う
実のところ、味わうのは苦手だ

人生も、そんなものかもしれない

終着駅は、意外に味気なく
線路の起伏に汗をかきながら
流れる景色を眺める方が
幸せなのかもしれない

珈琲を飲み干した
ミルのカバーを外して
出し殻の始末をしなくちゃいけない
面倒だな、と思うと
鼻腔に残る香味の余韻が
あっけなく手をあげる

後味さえ、苦手なのか

©2022  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。