第25首 月下に響く

※このノートでは、秋の和歌をご紹介します。各和歌のイメージを記した【イメージ】のあとに、【ちょこっと古語解説】というパートを設け、和歌中の古語を簡単に説明しています。和歌によっては、【ちょこっと背景解説】というパートがあるものもあり、そこでは、鑑賞する際に知っておくと、より深く和歌を味わうことができる知識をお知らせしています。

唐衣 うつ声聞けば 月きよみ まだ寝ぬ人を そらに知るかな
《からころも うつこえきけば つききよみ まだねぬひとを そらにしるかな》
(新勅撰和歌集/紀貫之《きのつらゆき》)

【イメージ】
 秋の月が清らかである。
 澄んだ夜空の下、衣を打つ音が響く。
 まだ寝ていない人がいるのだ。
 その人も、この月を見上げるだろうか。

【ちょこっと古語解説】
○唐衣《からころも》うつ……唐衣とは中国風の衣服を言うが、ここでは、単に「衣」の美称。衣うつとは、洗濯した布を生乾き状態で台に乗せて、棒や槌でたたいて柔らかくしたり、皺を伸ばしたりすること。そのとき使う板や石の台のことを、砧《きぬた》という。
○声……人や動物の声の他、楽器などの音色も指す。この和歌では後者の意味。音。
○きよみ……「きよみ」は、「きよし」の「きよ」+「み」であり、「きよし」は「澄んで美しい」を、「み」は、「~ので」を表す。全体で、「澄んで美しいので」の意。
○ぬ……元の形(=辞書で引く形)は「ず」で、打消《うちけし》を表す助動詞。「~ない」ほどの訳。
○そらに……それとなく。
○かな……詠嘆を表す語。「~だなあ」ほどの訳。

→第1首へ

→第24首へ

→第26首へ


読んでくださってありがとう。もしもこの記事に何かしら感じることがあったら、それをご自分でさらに突きつめてみてください。きっと新しい世界が開けるはずです。いただいたサポートはありがたく頂戴します。