自分だったらウンソになんて言ってあげられるだろう?|『秘密を語る時間』著者インタビュー
2021年9月28日に、柏書房からク・ジョンイン著『秘密を語る時間』が発売されました。
本作は、中学生の主人公ウンソが子どもの頃に経験した出来事(トラウマ)を乗り越えていく過程を描いた作品。著者は、デビュー作『気分のない気分』が2019年韓国漫画映像振興院の優秀漫画に選定され、注目を集めています。初めての邦訳となる今作にも、各方面から賛辞が寄せられています。
「苦しみや悲しみは分かち合ってもいい」「悪いのはあなたじゃない」――子どもたちが生きていく上で大切なメッセージを伝え、確かな「希望」を提示する物語。本稿では、本国で公開された著者インタビューを特別に訳出し、配信します。
『秘密を語る時間』著者インタビュー
読んだ方々がつらい思いをしないといいな、と
――近況を教えていただけますか。済州島での暮らしはいかがですか?
他の方々と同じように私も家にこもっています。『秘密を語る時間』を脱稿してからは、時間に余裕ができてぐっすり眠るようになりました。庭で焚火をたいて焼き芋を焼いたり、子どもとボードゲームをしたり。それから今住んでいるところは閑散とした海辺なので、ひと気のない海岸沿いや田舎道を散歩したりしています。
――児童書のデザインは今も手掛けていらっしゃいますか?
児童書のデザインはとびとびではありますが続けています。これからも続けていくつもりです。済州島に引っ越してきた理由は、ただ済州島に住みたかったからなんです。ソウルに家があるわけでも、職場があるわけでもないのにWhy not?(なぜしないの?)と思ってあまり考えずに引っ越してきたんですが、やっぱりいいですね。
――済州島に来てから何か変化はありましたか?
気持ちにゆとりができました。のんびりして、心配もあまりしなくなって。夫のことも子どものことももっと愛しく思えます。高層ビルのない広い空と海を毎日眺めているからかもしれません。初めて済州島に来たときは毎日、早朝に起きて海辺を歩いたものです、今はちょっと慣れてしまった部分もありますが。
――今回の作品はチェ・ウンミ作家の短編「雪でできた人」〔未邦訳〕に影響を受けたとおっしゃっていました。この小説を読んでから、今回の作品が生まれたのでしょうか?
そうです。はじめに構想したのは小説好きな主人公が「雪でできた人」を読んでから小さい頃に性被害を受けたことを思い出し、その後遺症を心配するところから始まるものでした。内容を練っていくうちに、設定を変えて地下鉄で痴漢に遭うところから始めることになりましたが。
――ウンソという人物を描くときに年頭に置いた点はありますか?
ごく普通の中学生にしたいと思いました。特別勉強ができたり、だからといって問題児でもない、平凡な子です。読者に主人公を自分のことのように感じてほしいと、あるいは自分と身近な人と感じてもらえるようにするためです。そのために名前もよくある名前にしました。前作『気分のない気分』の主人公も30代女性に多い「ヘジン」という名前にしたのですが。ウンソを描いていて、私自身の子ども時代のことも何度も振り返りました。家では親に心配をかけないようにしていたし、学校では明るい子でしたが、心の中ではいろんな悩みを抱えていて憂うつで頼れる場所を必要としていました。
――ラストシーンのセリフ「今はわかる。私は何も悪くないし、何も間違ってなかったって。私は大丈夫」に作品のメッセージが集約されていると思いました。ウンソと似たような目に遭ったり、あるいは見たり聞いたりした多くの女性たちが共感し癒されたと思います。友人のジユンが「この国でセクハラされたことない女の人なんていなくない?」という言葉もそうですが、女性たちの連帯が込められていると感じました。友人ジユンとのエピソードを通じて、どんなことを伝えたいと思われましたか?
自分がジユンだったら、ウンソになんて言ってあげられるか、かなり悩みました。慰めることはできるだろうけれど、ものすごく大変なことがあったんだと感じさせたくはなかったし、同情したり、その対象にしたくもなかった。「私たちのことなんだから一緒に解決しよう!」という気持ちを伝えたかったんです。『マザーズ』〔イ・ドンウン監督、2018年公開〕という韓国映画に妊娠した女子高生が出てくるのですが、その子に友人が「あたしたちどうしよう」というんですね。その言葉を聞いて、妊娠した子がありがとうと言います。そういうイメージを描きたいと思いました。
――ウンソが過去を振り返るシーンには神経を使われたと思います。がらんとした遊び場のシーンがさまざまな内容を圧縮したシークエンスに感じられて、特に印象的でした。ウンソが過去の事件を回想するシーンで配慮した部分はありますか?
読む方々がつらい思いをしないといいなと思っていました。描いている私自身もつらい思いをするべきじゃないと思いましたし。
非難の声に耳を貸さないで
――タイトルの文字数が前作と同じなんですね。『気分がない気分』〔기분이 없는 기분〕『秘密を語る時間』〔비밀을 말할 시간〕。何か意味があるのでしょうか? また秘密を「語る」というタイトルをつけた理由もお聞かせください。
文字数はわざと合わせたわけじゃないのですが、気分がいいですね。今回のタイトルは出版社創批(チャンビ)のほうでつけてくれたもので、私もすぐに気に入りました。
――目次が曜日になっている理由は?
怒った、悲しかった、憎かった、自分を責めた……結局は決心して突破口を探そうとするウンソの心の変化を表現しようと、感情が一日ごとに変わるようなつくりにしたいと思いました。
――心の傷のほうが心配だという医師の言葉も印象的です。もし似たようなことで心に傷を抱えている人たちに伝えたいメッセージがあるとしたら?
非難の声には耳を貸さないでいいと伝えたいのです。その非難は誰か知らない人からかもしれないし、自分自身の声であるかもしれません。でも、非難されるべき人はあなたじゃなくて加害者であることを忘れないでほしいのです。
――よき大人が周囲にいるということがとても大切だと思います。ク・ジョンインさんの考えるよき大人とは?
大人になったら世間に責任を持たなければならないと思います。「最近の世の中は、まったく……」と舌打ちするのではなくて、世の中がそうなったことに対して、子供や青少年たちに申し訳なく、恥ずかしいという気持ちを持つべきではないでしょうか。
――ウンソのお母さんに何か伝えたいメッセージがあれば。
ウンソのお母さんは、ウンソを我が子というよりも同志のようにとらえている人として描きました。暮らしていくのに精一杯で、ウンソのことは、世話をするべき幼子というよりも、一緒に支え合って生きていく存在だと思っているんですね。だからウンソが学校から帰ってきてお母さんの働くお店に立ち寄ったときも、学校はどうだった? と尋ねることもなく、今日はお店が大変だったという話しかしません。ウンソのお母さんも慰めの必要な人ですが、でも私はやはりウンソのほうが気になるのです。だからウンソのお母さんには、ウンソはまだ幼いのだから、ウンソの心をもっとケアしてあげてほしいと伝えたいですね。
――『秘密を語る時間』を読んでほしい読者層は?
青少年を主な読者層に想定して描きましたが、多くの大人たちにも読んでほしいと思っています。そして目を見開いて周囲を見渡して、頼れる場所を必要としている子たちがいないかどうかよく見てほしいのです。
――ク・ジョンインさんにとっての2020年今年の1冊を選ぶとすれば?
タドゥレギさんの漫画『アンニョン・コミュニティ』〔未邦訳〕が面白かったです。どうしたら、こんなにさまざまなテーマで個性あふれるキャラクターを描けるのだろう?と。私もこんな漫画を描いてみたい!とうらやましく思いながら読みました。
――次回作はどのような作品ですか?
最近は夢を見ると、夢の中でも「あ、この話を素材にしよう!覚えておかなくちゃ」と思っています。目を覚ますと、それほどたいした話でもないのですが。夢でもそんなことを思っているということはやはり悩んでいる証拠だと思います。まだはっきりとしたプランはありません。でも、そのうち何か見つけられるでしょう。
▼第1話公開中▼